Netpress 第2460号 人員確保につながる 「多様な正社員」制度を導入する際のポイント

Point
1.近年、勤務する地域、従事する職務、勤務する時間を限定する働き方に対する注目が高まっています。
2.働き方改革にも資する「多様な正社員」制度を導入するためのポイントや留意点について解説します。


社会保険労務士法人エスネットワークス
特定社会保険労務士
森 克義


 労働力不足が深刻化している昨今、さまざまな手段で人材を確保し、活用していく必要性が高まっています。


 そのなかで、正社員と非正規雇用労働者との働き方の二極化を緩和し、企業における優秀な人材の確保・定着と、労働者1人ひとりのワーク・ライフ・バランスの実現を可能とする「多様な働き方の実現」が求められています。


 そうした働き方や雇用の在り方の一形態として、近年、勤務地・職務・勤務時間を限定した「多様な正社員」を取り入れる制度が注目されています。


 なお本稿では、勤務地・職務・勤務時間を限定した多様な正社員のことを「限定正社員」とします。

1.限定正社員とは

 限定正社員とは、無期・直接雇用ではありますが、勤務地・職務・勤務時間のいずれかまたは複数において限定性を有する正社員をいいます。一般的に「正社員」と呼ばれる、勤務地・職務・勤務時間に限定のない「無限定正社員」と対比される雇用形態のことです。


 限定正社員制度は、現状では大企業を中心に導入されています。企業が限定正社員制度を導入する主な目的は、勤務地限定正社員では正社員の定着を図ること、職務限定正社員では職務の限定により専門性や生産性の向上を促すこと、勤務時間限定正社員では育児・介護等と仕事との両立を図ることです。


 限定正社員については、働き方や導入理由が限定種類によって変わってくることから、企業は自社への導入の要否や制度設計を、それぞれの事情に合わせて検討することが肝要です。


 中小企業においては、無限定正社員の働き方では、大企業に比べて給与、勤務時間等の点で不利なため、優秀な人材を確保できない現実があります。しかしその一方で、何としても自社で働いてほしい相手の個別事情(勤務地、勤務時間等)に対応した結果、働き方が多様化しているという実態もあります。


 この事実を踏まえると、限定正社員制度を導入することは、中小企業にとっても非常に有益だといえるでしょう。

2.限定正社員制度の導入手順

 限定正社員制度の導入は、基本的に次のような手順で進めていきます。


【ステップ1】…導入目的の整理

 事業戦略等に応じて、自社の人材活用戦略を考え、限定正社員制度の導入目的を整理します。

 この段階で考えがブレると、制度全体に齟齬が生じますので、しっかりと戦略・導入目的を検討しましょう。


【ステップ2】…活用方針の検討

 導入目的に応じて、どのような限定正社員の区分を導入するかを決めます。あわせて、限定区分ごとに、自社のどの業務で活用していくかの方針を検討します。


【ステップ3】…現状把握と実施案の詳細検討

 活用方針に基づいて、あるべき姿と現状とのギャップを精査し、どの業務に対し、どういった限定正社員を起用すれば解決できるか、具体的に検討します。


【ステップ4】…就業規則の改定

 検討した詳細内容を就業規則上に明文化します。


【ステップ5】…導入・移行、運用

 明文化した就業規則の運用に向けて、周知事項・方法、移行措置を整理します。また、制度を導入した後も他社事例などを参考に制度運用の改善を行いましょう。

3.雇用管理上の留意点

 限定正社員制度を円滑に導入・運用するにあたっての雇用管理上の留意点は次のとおりです。


(1) 書面による限定内容の明示

 社員にとってはキャリア形成の見通しがつき、ワーク・ライフ・バランスを図りやすくするために、企業としても優秀な人材を確保しやすくするために、書面により限定正社員制度の内容を明示することが重要です。


 限定内容の明示は、転勤や配置転換などに関する紛争の未然防止にも資することとなります。


(2) 限定正社員への転換制度

 非正規雇用の社員の希望に応じて、限定正社員への転換制度を設けることが望ましいでしょう。


 また、全社員の望むワーク・ライフ・バランスの実現や、優秀な人材の確保・定着などのため、無限定正社員から限定正社員への転換制度を用意することも求められます。


(3) 限定正社員と無限定正社員との均衡処遇

 モチベーションを維持するためにも、限定正社員と無限定正社員との処遇の均衡を図り、双方に不公平感を与えないことが肝要です。


(4) 無限定正社員の働き方の見直し

 無限定正社員の働き方(所定外労働、転勤や配置転換の必要性や期間など)を見直すことが望まれます。


(5) 全社員に向けての人材育成・キャリア形成

 無限定正社員に限らず、限定正社員に対しても、計画的に職業能力を習得することができるように、職業訓練の機会を付与することが必要です。


 全社員に対して、中長期的なキャリア形成に役立つ専門的・実践的な教育訓練の支援を行うようにしましょう。


(6) 制度の設計・導入・運用時の労使コミュニケーション

 限定正社員制度を円滑に導入・運用するには、制度の設計・導入・運用に際して、全社員に対する十分な情報提供と協議が肝要です。全社員が納得した状況でないと、要らぬ軋轢が生まれる可能性があります。


(7) 事業所閉鎖や職務の廃止時などの対応

 多様な働き方を認めて勤務地・職務・勤務時間を限定していても、限定正社員が無限定正社員と同じ無期雇用契約であることは変わりません。そのため、事業所の閉鎖や職務の廃止などに伴う解雇は、無限定正社員と同じく「客観的に合理的な理由を有し、社会通念上相当であると認められる」状況でないとできない、と解されます。


 多様な働き方を認めることは重要ですが、限定正社員が無期雇用契約であることを認識しなければ、後々大きな問題になってしまうこともあることに注意が必要です。



◎協力/日本実業出版社

日本実業出版社のウェブサイトはこちらhttps://www.njg.co.jp/



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