Netpress 第2152号 情報収集、社内の連携・・・ 売掛金を完全回収する「得意先管理」の勘どころ

Point
1.長引くコロナ禍のなか、資金繰りの安定化を図るため、売掛金の完全回収を目指したいところです。
2.日頃の得意先管理に加えて、経理部門と営業部門との連携を強化するための方策を解説します。


公認会計士 白石 茂義


1.売掛金を完全回収するには


(1)倒産に至るまでの3段階

得意先の売掛金を完全回収することだけを考えるのであれば、貸倒れリスクがある得意先に対しては、予測される損失額を十分にカバーできるだけの担保や保証を要求したり、現金取引だけに限定したりすることになります。


しかし、それでは売上の減少は避けられず、実際に使える方法ではありません。現実的な解決策としては、得意先の危険な兆候を見逃さないようにして、貸倒れリスクが高まれば素早く撤退できる工夫をすることが考えられます。


また、企業はいきなり倒産することはなく、次のような経緯をたどるのが普通です。


第1段階
販売不振などの原因により業績が悪化し、この状態がしばらく継続する。その結果、財政状態や資金繰りも悪化し、支払いの遅延や滞納が生じる。
第2段階
支払いの遅延や滞納が頻繁に生じるようになることで、悪い噂や風評が同業者などの間で広がり、これにより信用不安が生じる。
第3段階
企業内外の関係者が離脱するようになる。その結果、従来のように営業活動を続けることができなくなって支払い不能に陥り、やがて倒産に至る。


第2段階や第3段階で危険な兆候を発見できても、その時点では売掛金の完全回収は実質的に不可能になっているケースが大半です。そのため、売掛金を完全回収するには、第1段階で危険な兆候を発見しておく必要があります。


また、第1段階で危険な兆候を発見できた場合でも、撤退を開始して得意先との取引を完全に停止させるまでには相当の時間がかかります。できるだけ早く撤退を決断することが、売掛金を完全回収するためのカギになります。


(2)与信マインドを持つ

得意先の信用度に影響を及ぼすような危険な兆候を見逃さないためには、得意先管理に関係している従業員全員が「与信マインド」を持つ必要があります。与信マインドとは、貸倒れリスクへの警戒意識のことです。


たとえば、ある得意先について、他企業が危険を感じて撤退を開始したために自社との取引が急増しているとします。


この場合に、与信マインドのない従業員は、売上が急激に増加しているという程度の認識しか持てず、危険な兆候に気づくことができません。一方、与信マインドを持っている従業員であれば、自社との取引が急激に増加している背景を調べ、その理由がリスク増大による他社の撤退にあると気づくことができるでしょう。


(3)財務情報をチェックする

与信マインドを持って、得意先の危険な兆候を見逃さないようにするためには、信用調査会社等から得意先の財務情報(決算書など)を定期的に入手して、安全性などをじっくりと分析することが大切です。


(4)非財務情報をチェックする

財務情報は、タイムリーに入手できるとは限りません。すでに問題が生じた後でしか入手できないことも多いため、そのタイムラグを補うためにも、業界内での噂といった非財務情報を軽視しない慎重な姿勢が重要になります。


また、非財務情報は単体では信頼性が低いため、できるだけ提供元が異なる複数の情報を集め、これらの情報を財務情報と突き合わせて、情報の信頼性を高める努力をすることも必要です。


2.経理部と営業部の連携を強化するには


(1)経理部と営業部の関係

経理部は得意先からの売掛金の入金を確認し、入金が遅れていれば得意先へ催促するという役割を負っており、営業部は与信限度額の範囲内で得意先と取引を行うという役割を負っています。


そのため、経理部は、営業部が与信限度額の範囲内で得意先と取引を行っているかを監視する役割も自動的に担っていることになり、営業部からは煙たがられる関係にあります。


(2)営業部でなければ得られない非財務情報が重要

販売機会を減らさずに売掛金を完全回収するためには、できるだけ早く得意先の信用度に影響を及ぼす情報を入手する必要がありますが、経理部だけではそのような役割を貫徹することができません。


たとえば、「得意先の敷地内にたくさんの在庫が積まれている」「得意先の従業員の士気が異常に低い」「得意先のキーパーソンと思われる人物が退職している」といった非財務情報は、危険な兆候そのものになります。


このような情報に早い段階で触れる機会があるのは、得意先と顔なじみであり、得意先に出向く機会が多い営業部の担当者です。経理部としては、営業担当者の協力を得て、得意先の信用度に影響を及ぼすような非財務情報を入手した場合には直ちに報告してもらうようにする必要があります。


(3)営業担当者への与信マインドの徹底

前述のとおり、危険な兆候を示す情報に気づくためには、与信マインドを持っていなければなりません。営業担当者にも、与信マインドを持って行動することが必要であることをしっかり理解してもらいましょう。


しかし、一般に営業担当者は、自身が担当している得意先の問題が表面化するまでは、売掛金の回収や貸倒れリスクに対する意識が低く、与信マインドが育ちにくいという事情があります。


営業担当者に与信マインドを持つ直接的なメリットを提示することは難しい面があるので、「与信マインドを持って行動しなければ、結果的に会社が危機的状況に陥る可能性がある」というデメリットの観点から説明する方法もあります。販売だけでは会社の経営は成り立ちません。代金を回収するまでが仕事であるという認識を持ってもらいましょう。


(4)経理部が連携の主体となる

経理部と営業部が連携することによって多くのメリットを享受するのは、経理部のほうです。そのため、経理部が主体となって、両部門が上手に連携できるように働きかける必要があります。


営業部が非協力的な場合には、経営者層を巻き込んで、営業部が経理部と連携しなければならないような仕組みを会社として整備していくことも考えましょう。


(5)審査部の設置も検討する

大企業では審査部を設置して、経理部や営業部からは独立した立場で、審査部に与信限度額の審査などを専門的に行わせている場合があります。中堅・中小企業であっても、人員に余裕があるようであれば、審査部の設置を経営者層に進言してみてもよいでしょう。



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