どうすればいい? テレワーク下での「在宅勤務手当」と「通勤手当」

■POINT
1.テレワークの本格的な導入により在宅での勤務が増えると、在宅勤務手当の創設や、通勤手当の減額・廃止の検討など、従来とは異なる取り扱いが求められます。
2.これらの手当について、どのような対応が考えられ、どんな影響があるのかについて確認します。


特定社会保険労務士 濵田 京子


 新型コロナウイルス感染症の収束の目処が立たないこともあり、本格的にテレワーク勤務制度を検討する必要性が増してきました。テレワーク勤務制度の本格導入にあたり検討すべき事項はさまざまありますが、会社がテレワーク勤務をどのような方針で進めるのかによって課題は異なります。
 月に数回程度テレワークを行う制度設計の場合は、費用負担や在宅勤務手当などを検討する余地はあまりないですが、テレワーク勤務を積極的に活用する場合には検討すべき事項が増えます。
 ここでは、積極的にテレワーク勤務を実施することを前提として、在宅勤務手当と通勤手当についてどのような対応が考えられるのか、また、その影響はどの程度あるのか、という点を整理していきます。


1.テレワーク導入に伴う在宅勤務手当の設計




(1) テレワーク勤務が増えた場合の費用負担

 テレワーク勤務が原則となると、従業員の光熱水道費の負担が増えるだけでなく、それ以外の通信費等もまかなう部分が多くなることを想定して、在宅勤務手当の支給を検討する必要が生じてきます。
 在宅勤務に対する手当の考え方は各社それぞれですが、どの費用を、どちらが、どう負担するのか等について、あらかじめ労使双方で十分に話し合い、必要な事項を就業規則等に定めておくことが望ましいといえます。
 また、在宅勤務手当はどのような方法で支給することができるのか、支給額はどの程度とするのがよいか、という問題がありますので、まずは考えられる3つの支給方法を説明していきましょう。


①手当として一定額を月額給与に加算して支給する

 手当の名称は自由ですが、一定額を給与の一部となる手当として支給する方法があります。
 この場合は、他の手当と同様の取り扱いとなりますので、原則どおり給与所得として課税されますし、社会保険の報酬や雇用保険の賃金の対象にもなります。
 したがって、毎月の手当として支給するための原資だけではなく、割増賃金の算定基礎になることや、社会保険料への影響なども考慮したうえで判断する必要があります。


②一時金として支給する

 テレワーク勤務を開始する際などに、まとめて「準備金」などと称して、一時金で支給する方法があります。
 この場合も、月額給与の手当と同じように給与所得として課税されますし、雇用保険の賃金の対象にもなります。社会保険は、賞与と同じ取り扱いになると考えられますので、賞与としての保険料算定がなされます。


③実費精算する

 従業員が必要な機器を購入するなどした後、会社がその費用を負担(実費精算)するという方法であれば、本人に支給する給与・賞与とはなりませんので、特に影響はありません。
 しかし、実費精算するだけでは、光熱水道費などの実費額が明確にならない従業員負担分はカバーできないと思われます。テレワーク勤務による新たな負担増は労働条件の不利益変更とも考えられることや、またテレワーク勤務の環境を整備する一環としても、何らかの措置を検討することが必要になるでしょう。


(2) 在宅勤務手当の金額水準

 実際に毎月の給与に加算して手当を支給する際に、その金額の妥当性を検討する必要が出てきます。
 現実的な実費相当額について、筆者は「3,000円〜4,000円」程度が妥当ではないかと考えます。2019年の総務省「家計調査」の単身世帯の光熱水道費は、月額1万1,652円でした。1日約400円ですから、その半額の約200円がテレワーク勤務分、月の所定労働日数が20日として、月額約4,000円となることがその理由です。
 会社が、何に使うための手当として支給するかという目的によって金額は決まりますが、単に光熱水道費をカバーするということであれば、「3,000円〜4,000円」程度でよいでしょう。
 ただ、その他の目的も含めるのであれば、その分を加算して判断する必要があります。


2.勤務手当の取扱


 テレワーク勤務がメインとなり、通勤することがなくなる(または少なくなる)と、いままで支給していた通勤手当の取り扱いをどうするかが問題になります。
 従前は通勤が前提だったため、定期代相当額を固定額の通勤手当として支給していたと思いますが、それを実際の出勤日数分の実費精算に変更するかどうか、ということが検討のポイントとなってきます。
 この変更を検討するにあたり、そもそも自社の就業規則で、通勤手当の支給要件がどのように規定されているかを確認しておく必要があります。
 まず、通勤手当として「一律○円を支給する」と支給額が固定化されている場合や、「○か月分の定期代相当額を支給する」とだけ規定している場合は、一方的に不支給または減額とすることはできない可能性があります。
 通勤手当として支給する金額はあくまでも実費分であることが明記され、実際に通勤自体が不要となり実費が発生しないのであれば、発生した実費分だけを支給することに合理性があります。したがって、実費分だけの支給とすることに問題はないでしょう。
 なお、通勤手当を実費精算にすることと、在宅勤務手当を別途支給することに実務的な関連はありませんが、支給原資の確保という意味で、同時に検討を行っているケースは多いと思われます。
 通勤手当を実費精算とすることにより、また在宅勤務手当を新たに毎月支給することにより、結果として毎月の固定的賃金が変動し、社会保険の標準報酬月額が変更(随時改定)となる可能性があります。
 手当の新設のほか、支給方法の変更(月額で支給していた手当を日単位での支給に変更するなど)が発生した月から3か月間の支給額(報酬の平均月額)をチェックして、従前の標準報酬月額と比べ2等級以上の差が生じた場合には随時改定の対象となり、届出が必要です。


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