Netpress 第2150号 より簡単、便利に 国税庁のDXで将来の税務行政はどうなるのか?
1.国税庁は2021年6月、各種手続等におけるDXを推進するための「税務行政のデジタル・トランスフォーメーションー税務行政の将来像2.0ー」を公表しました。
2.この内容を踏まえて、税務手続や税務調査など、税務行政全般の未来像を探ります。
税理士 浅田 大輔
1.税務行政のDXとは
マイナンバーシステムをはじめ行政のさまざまな情報システムが、新型コロナ対策の各種給付金の支給やワクチン接種をめぐる混乱などにより、国民視点で十分に構築されていないことが明らかとなりました。
同時に、国・地方公共団体の情報システムや業務プロセスがバラバラで、地域・組織間で横断的なデータの活用ができていないといった課題も浮き彫りとなり、行政のデジタル化の遅れが露呈しました。
DX(デジタル・トランスフォーメーション)は、単にデジタル技術を活用して業務効率を上げることではありません。今回の感染症対策で明らかになったようなさまざまな課題を受け、データの蓄積・共有・分析に基づく行政サービスの質の向上こそが、行政のDXの真の目的です。
政府は、社会全体のデジタル化を進めるためには、まずは国・地方の「行政」が、自らが担う行政サービスにおいて、デジタル技術やデータを活用してDXを実現する必要があるとしています。
そのうえで、「あらゆる手続が役所に行かずにできる」「必要な給付が迅速に行われる」といった手続の面はもちろんのこと、規制や補助金等においても、データを駆使してニーズに即したプッシュ型のサービスを実現するなど、ユーザー視点の改革を進めていくことを基本方針としています。
2.税務手続の将来像
(1)税務署に行かなくても済む社会の実現
①税務署に行かずにできる「確定申告」
確定申告に必要なデータ(給与や年金の収入額、医療費の支払額など)を申告データに自動で取り込むことにより、数回のクリック・タップで申告が完了します。
②税務署に行かずにできる「申請・届出」
申請や届出については、その要否が見直されます。そのうえで、必要なものについては、入力事項を最小限にし、数回のクリック・タップで手続が完了します。
③税務署に行かずにできる「特例適用状況の確認等」
特例適用(青色承認、消費税簡易課税等)、納税(未納税額がない旨等)の状況については、マイナポータルやe-Taxにより確認することができます。
④税務署に行かずにできる「相談」
税務手続に関する不明な点は、チャットボット(質問内容を入力すると、AIが自動で回答を表示するサービス)の充実やタックスアンサーの改善などにより、内容の充実や使い勝手の向上が図られます。
また、マイナポータルやe-Taxのお知らせを通じ、申告の要否や適用できる特例など、個々の納税者の状況に応じた情報(カスタマイズ情報)をプッシュ型で提供する仕組みが実現されます。
(2)税務手続のDXの究極の形
将来の究極の形は、すべての国民と法人が行政からの通知を受け取る電子私書箱を所有し、そこに税額まで確定した確定申告書が送信され、確認と返信をするだけで申告・納税手続が完了することだと考えられます。
すでにマイナポータルを利用したデータの利用が始まっていますが、個々の状況に応じた通知や申告がどこまでできるのかが、成功の鍵になると思われます。
また、行政と民間のシステム開発はもちろんですが、複雑怪奇な税法全体を誰にもわかりやすいシンプルなものにする「劇的な変革」も求められるでしょう。
3.税務調査の将来像
(1)申告内容の自動チェック
マイナンバーや法人番号をキーとして、納税者の申告内容と国税当局が保有する各種データをシステム上でマッチングし、効率的に誤りを把握する取り組みが進められています。
(2)AI・データ分析の活用
幅広いデータの分析により、課税・徴収が効率化・高度化され、申告漏れの可能性が高い納税者の判定や、滞納者の状況に応じた対応の判別をAIが行います。
(3)照会等のオンライン化
官民の業務の効率化を図る観点から、これまで書面や対面により行っていた金融機関への預貯金照会や税務調査で必要な資料の提出がオンライン化されます。
(4)Web会議システム等の活用(リモート調査)
Web会議システム等を利用したリモート調査は、大規模法人を対象として、2020年10月以降の実地調査において実施されています。今後も、税務調査の効率化を進めるため、国税局と調査対象法人のみがアクセスできるネットワークを利用するなど、必要な機器・環境が整備され、リモート調査が拡大される予定です。
ただ、リモート調査については、地方支社など調査現場から遠く離れた事業所の社員に対するヒアリングが可能になるなどのメリットがある一方で、「意思疎通が難しい」「資料のどの部分を説明しているのかわかりにくい」といったデメリットも指摘されています。コロナ禍で日常化したWeb会議で感じるメリット・デメリットが、そのままリモート調査にも当てはまるようです。
(5)次世代KSKシステムの開発
2001年から全国運用されている国税総合管理システム(KSKシステム)は、納税者の申告事績等を一元的に管理し、申告データの分析や税務調査対象者の選定に利用されています。
このKSKシステムを大幅に刷新し、2026年からの次世代システムの運用開始を目指します。
デジタルを活用してサービスや業務のあり方を変革するDXが、社会全体で急速に広まっています。国税の申告や納付についても、デジタルを活用すれば、より簡単・便利に行うことができるようになります。
国民にとって利便性が高く、かつ、適正・公平な課税の実現に向けて、税務行政のDXがいかに短期間で実現できるか、国税庁の本気度が試されています。
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