Netpress 第2149号 鍵は採用と人事制度にあり! 若手社員の離職防止対策の進め方
1.若手社員の離職防止対策については、特に「採用」と「人事制度」に着目する必要があります。
2.そのうえで、いかに離職を防ぐための制度や仕組みを整え、若手社員に接していくべきかを解説します。
片岡経営サポートオフィス代表
社会保険労務士 片岡 祐樹
1.若手社員が離職する大きな要因は2つ
そもそも、なぜ若手社員は辞めてしまうのでしょうか。人間関係や家庭のことなど個別の事情はあるでしょうが、会社として離職防止を進めるうえで、次の2つの要因から対策を考えていくと有効です。
(1)については、新卒などから入社し、3年程度の非常に若い社員が該当します。入社する前に自身が抱いていた会社のイメージと、入社後の現実のギャップによって離職してしまいます。ここから見えてくる対策としては「採用」です。
(2)については、入社から一定期間勤め、30歳に差しかかった頃に起こってきます。社員は、仕事内容だけではなく、会社を取り巻く環境、会社の実態などさまざまな理解が進みます。また、同時に結婚など人生のイベントが発生し始め、自身の将来を意識する年齢です。そうすると、「私はこの会社で働き続けて、将来どうなるのだろうか」と考え始めます。
ここから見えてくる対策としては、将来の成長ステップを明示する「人事制度」ということになります。
2.「採用」の対策
「RJP理論」という考え方があります。RJPとは、Realistic Job Preview(現実的な仕事情報の事前開示)の略で、企業が採用活動に際し、求職者に自社の社風、仕事内容、職場環境、会社の実態について、よい面だけではなく、悪い面も含めた、ありのままの情報を可能な限り開示することをいいます。
企業の開示情報に納得した本気度の高い応募者が集まることで、採用のマッチング度が高まります。それによって、採用ギャップによる離職を低減させることができるのです。
RJP理論に基づく実務的なアクションとしては、次のようなものが考えられます。
①求人票の内容は、よい情報だけではなく、仕事の難しさ、厳しさなど耳の痛い情報も歪めることなく記載する
②インターンシップを活用し、仕事内容を十分に理解してもらう
③人事担当者だけではなく、他の社員とも関わってもらう(インターンシップ、面接等で)
3.「人事制度」の対策
「予習文化」という言葉をご存知でしょうか。たとえば、飲食店に行く前にスマホ等で検索し、お店の評判(評価点)を確認して出かける、就職を考えている会社の評判サイトをよく調べたうえで応募するといった行動で、事前に予習することが習慣になっていることをいいます。
スマホというツールがあることも大きいですが、特に若い人は、先が見えないものに対して不安を感じます。
会社においても、たとえば「とにかく今を頑張れば、いつか報われるよ」といったぼやけた言葉では、若手社員に通じない時代になりました。皆さんの会社は、社員の将来や成長ステップを見える化し、伝えることができているでしょうか。
ここで必要となるものが、自社の人事制度ということになります。
人事制度は、大きく、次の3つの制度から構成されています。
①等級制度(会社が社員に何を求めているのかを明示するもの)
②評価制度(会社が社員に求めているものに対して、できた・できていないを評価するもの)
③報酬制度(等級や評価に応じて給与や賞与を決めるもの)
これら3つの制度のなかで、社員の成長ステップの見える化で鍵となるのは、①の等級制度(下表参照)です。
【等級制度の事例】
レベル | 等級 | 定義 |
事業変革レベル | 7級 | 部門を横断した範囲の組織・事業に影響を与える変革を主導する |
組織変革レベル | 6級 | 課レベル以上の組織に影響を与え、変革を主導する |
リーダーシップレベル上級 | 5級 | 会社方針に基づき、自ら課題を設定し、成果への責任をもってやり切る |
リーダーシップレベル初級 | 4級 | 顧客視点をもって自ら課題を設定・解決し、模範として周囲を牽引する |
自律レベル | 3級 | 担当する業務を、自ら判断・改善を加えて自律的に遂行する |
基本レベル | 2級 | 担当する基本的な業務を、自分一人で主体的に遂行する |
新人レベル | 1級 | 基本的な業務を、指示・指導を受けながら遂行する |
等級制度を活用することによって、上司は部下の現在の立ち位置と将来どのように成長して欲しいのかを伝えることができるようになります。
ただし、等級の定義をそのまま伝えるのではなく、部下の仕事や置かれた状況に落とし込み、部下にとって「自分ごと」に感じられるように伝えることが重要です。
また、等級制度は、採用時にも活躍します。求職者に対して、「入社後、どのようなステップで成長し、活躍して欲しいのか」ということを、会社としてしっかりと説明できるようになるからです。
まだ自社には等級制度がないという企業は、上記の事例のようにシンプルなものでよいので、まずは社内で検討してみてはいかがでしょうか。
4.入社直後の離職を防ぐために
入社直後の離職は、イメージギャップや将来不安ではなく、別に要因があります。それは「存在承認」です。簡単にいえば、「あなたは、ここにいてもいいんですよ」ということです。
誰しも、新しいコミュニティ(転校先の学校、クラブ、就職先など)に参加する際には、不安になるものです。ですから、企業は受け入れ態勢をしっかりと整える必要があります。
実務的には、次のようなアクションが考えられます。
①入社初日までに、机やパソコン、ロッカー、名刺等の備品を準備し、社内にも告知しておく
②初日は、仕事内容よりも本人への期待を伝える
③入社1週間以内に上司が個別に面談をする
たとえば、入社当日、他部門の社員から無視されたり、自分の席やロッカーがなかったりしたら、疎外感を感じるはずです。せっかく採用した若手社員です。ちょっとした配慮も忘れないようにしましょう。
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