Netpress 第2146号 4月4日から3市場に再編 東証プライム市場のガバナンス・開示強化策

Point
1.プライム市場上場会社は、「社外取締役を少なくとも3分の1以上とする」など、ガバナンスが強化されます。
2.あわせて、コーポレートガバナンス・コード全項目の充足が必須で、一段高い取り組みが求められています。


SMBCコンサルティング株式会社
ソリューション開発部
シニアコンサルタント
伊部 邦男


1.東京証券取引所の市場再編とは

2022年4月4日(月)、東京証券取引所は、現在の市場第1部、市場第2部、ジャスダック(スタンダード・グロース)、マザーズの4市場から、プライム市場(グローバル企業向け)、スタンダード市場(規模や企業統治が十分な企業向け)、グロース市場(成長性の高い新興企業向け)の3市場に再編されます。プライム市場は、海外投資家の売買の対象となる企業向けで、現在の市場1部上場で、流通株式時価総額が100億円以上などの条件を満たす企業です。


また、ガバナンス項目の上場基準は、「上場会社と機関投資家との間の建設的な対話の実効性を担保する基盤のある銘柄を選定する。」とされ、コーポレートガバナンス・コード(一段高い水準の内容を含みます)全原則が適用されます。


2.コーポレートガバナンス・コードへの対応

コーポレートガバナンス報告書は毎年12月末が開示期限ですが、プライム市場上場予定の企業には一段高い取り組みが求められており(次頁表参照)、「Comply or Explain(遵守か説明か)」アプローチが原則とされています。


各項目の開示にあたっては、当然ながら日々の取締役会構成員の行動や会社全体の動きが反映されることになるので、項目ごとに社内規程に落とし込み、行動記録を作成することが必要となります。経営陣および管理職、担当職員を対象として、定期的な研修を実施することが望まれます。開示の英語対応など、社内での対応が難しい項目は、早めに信頼できる外部リソースを確保することが必要となるでしょう。


3.気候関連財務情報開示について

気候関連財務情報開示については、コーポレートガバナンス・コード補充原則3-1③で、「特に、プライム市場上場会社は、気候変動に係るリスク及び収益機会が自社の事業活動や収益等に与える影響について、必要なデータの収集と分析を行い、国際的に確立された開示の枠組みであるTCFDまたはそれと同等の枠組みに基づく開示の質と量の充実を進めるべきである。」と要求されています。これを参考に会社のKPIを策定し、必要なデータの特定と収集方法について検討することになります。データ収集は、サプライチェーンベースで実施する必要があります。


4.最後に

コーポレートガバナンス・コード対応は、取締役会と各委員会を中心に全社で取り組まなければならず、社内でのルール構築と運用が必要となります。経営企画部または総務部が音頭を取って、各原則に対応する担当部を決めて地道な努力を積み重ねていくことが大切になるでしょう。


英文開示等について、社内でのリソースが十分ではない場合には、信頼できるアウトソーシング先を早目に確保することも検討する必要があります。


また、気候関連財務情報開示については、ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)および金融庁の議論の動向をフォローするとよいでしょう。


【コーポレートガバナンス・コードで、プライム市場上場会社がより高い取り組みを要求される補充原則】
5つの「基本原則」
31の主な「原則」
47の主な「補充原則」
プライム市場上場会社がより高い取り組みを要求される「補充原則」
1株主の権利・平等性の確保
少数株主や外国人株主への配慮
1-2株主総会での株主権利行使に係る環境整備
1-2② 招集通知の早期発送に努め、記載情報は電子的に公表すべきである。
1-2④ 議決権電子行使プラットフォームの利用や招集通知の英訳を進めるべきである。
1-2④ 少なくとも機関投資家向けに議決権電子行使プラットフォームを利用可能とすべきである。
2株主以外のステークホルダーとの適切な協働
2-1経営理念の策定
2-3① 社会・環境問題をはじめとするサステナビリティを巡る課題への対応

3適切な情報開示と透明性の確保
3-1経営理念等や経営戦略、経営計画、本コードのそれぞれの原則を踏まえた、コーポレートガバナンスに関する基本的な考え方と基本方針の開示
3-1② 上場会社は、自社の株主における海外投資家等の比率も踏まえ、合理的な範囲において、英語での情報の開示・提供を行うべきである。
3-1③ サステナビリティへの取組み、人的資本や知的財産への投資の開示
3-1② 特に、プライム市場上場会社は、開示書類のうち必要とされる情報について、英語での開示・提供を行うべきである。
3-1③ 気候変動に係るリスク及び収益機会が自社の事業活動や収益等に与える影響について、必要なデータの収集と分析を行い、開示の質と量の充実を進めるべきである。
4取締役会等の責務
4-1取締役会による経営理念等の確立や戦略的な方向付けと、それを踏まえた業務執行の決定
4-8プライム市場上場会社は、独立社外取締役を少なくとも3分の1以上選任すべきである。
過半数の独立社外取締役を選任することが必要と考えるプライム市場上場会社は、十分な人数の独立社外取締役を選任すべきである。
4-8③ 支配株主を有する上場会社は、取締役会において支配株主からの独立性を有する社外取締役を少なくとも3分の1以上選任する。
4-10① 独立社外取締役を主要な構成員とする指名委員会・報酬委員会の設置
4-8③ 支配株主を有する上場会社は、取締役会において支配株主からの独立性を有する社外取締役を少なくとも3分の1以上(プライム市場上場会社においては過半数)選任する。
4-10① 各委員会の構成員の過半数を独立社外取締役とすることを基本とし、その委員会構成の独立性に関する考え方・権限・役割等を開示すべきである。
5株主との対話
5-1株主からの対話の申込みに対する合理的な範囲での前向きな対応、取締役会による、対話を促進するための体制整備に関する方針の承認・開示
5-1① 株主との対話は、経営陣幹部、社外取締役を含む取締役または監査役が面談に臨むことを基本にすべきである。




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