Netpress 第2140号 これなら相手も納得! 取引先との請求書のやりとりを電子化する交渉テクニック

Point
1.経理業務のテレワーク対応が難しい理由として、請求業務がネックとなっている企業が少なくありません。
2.テレワーク対応や社内コスト、税法上の保存要件の面からも、請求業務の電子化を実現しましょう。


税理士 栗原 洋介


コロナ禍において、いざ社内でテレワークを実施しようとしても、いろいろと課題があることに気づいた会社も多いと思われます。特に経理業務のテレワークを実現するためには、ペーパーレス化が避けて通れません。


以下では、経理業務のテレワーク対応に必要となる請求業務の電子化について、取引先との関係等も踏まえて、どのように交渉や対応を進めていけばよいかを解説します。

1.取引先との交渉テクニック

請求業務の電子化を実現するために、自社が取引先から請求を受ける場合と、自社が取引先に請求をする場合の2つの区分で、交渉方法を考えてみましょう。


(1)自社が取引先から請求を受ける場合

自社が請求を受ける場合に、取引先に対して請求を電子化できるか打診してみることは、比較的簡単といえます。


取引先に打診する際には、「当社ではPDF形式の請求書の受領が可能です」というように、押しつけにならないように提案しつつ、「送付の手間や郵送コストも軽減されます」とメリットを伝えることも重要です。請求書の受取り方法については、受付が可能な自社の電子メールアドレスを伝えましょう。


慣習による業務サイクルが続いている場合に、自社から歩み寄り、改善が可能なことをアナウンスしておくことは重要です。特に継続的な取引がある場合は、改善の効果も大きいはずです。


「セキュリティの問題から、電子メールに添付して送付することはできない」という取引先については、他の対応できるファイルの受渡し方法を検討することも必要でしょう。ただし、相手側のシステムの都合上、どうしても郵送に限定されてしまうことはあります。


交渉の優先順位としては、事業者間取引で、頻度の高い請求から交渉を進めていきましょう。まずは取引先をリスト化し、電子請求への移行の可能性を探ってみてください。


(2)自社が取引先に請求をする場合

請求書の作成作業自体は、必ずしも会社に出勤する必要はありません。作業環境さえ整えば、請求書の作成ソフトやExcelを用いて作成することはテレワークでも可能です。近年は、導入しやすいクラウド型も人気です。クラウド型のシステムは、テレワークと非常に相性がよいといえます。


そのうえで、請求業務のペーパーレス化やテレワーク対応を実現するためには、電子化に合わせて請求書を送付しやすい環境を整えることが重要で、電子データで作成したものをそのまま送付するのが理想です。


当然ながら、自社の請求を電子化する場合にも、取引先との交渉が必要になります。主要な請求先のリストを作成し、電子化の意向を相手に伝達しましょう。


請求を受ける側の事情もありますので、一方的な変更は困難です。どのような請求方法であれば電子化が可能なのか、相手側の都合も把握しておく必要があります。相手の事業規模、担当者との関係もよく考えなければなりません。


ただし、どうしても請求の電子化が難しい場合もあります。たとえば、発注側の要望により、指定のフォーマットに記入しなければならないケースです。この場合は、取引先の請求の仕組みに制限されてしまい、自社の努力による改善は難しいでしょう。対消費者取引も電子化が難しい例として挙げられます。


請求書の郵送が必要な場合には、請求書の郵送代行サービスを利用する方法も考えられます。たとえば、日本郵便が提供する「Webゆうびん」は、PDFデータなどをインターネットにアップロードすると、電子データを印刷して郵送を代行してくれます。クラウド型の請求書作成ソフトでも、郵送代行サービスと連携しているものがあります。


なお、こうしたサービスには「請求内容が外部にもれないか」という不安の声も寄せられます。しかし、郵送でも電子メールでも、通信の秘密を完全に保証するのは困難です。請求書を手渡しや郵送する場合であっても、紛失や汚損、盗難や改ざんの可能性があります。要は、リスクをどの程度許容するかという点で、取引先の理解を得ることが必要です。

2.共通仕様の電子インボイス

請求業務におけるペーパーレス化で、今後、大きな変化が見込まれるのが、共通仕様の電子インボイスの導入です。電子インボイスとは、適格請求書に係る電磁的記録(電子データの請求書)で、広い考え方ではPDF形式のような請求書も含まれますが、注目したいのは「共通仕様」の電子インボイスです。


共通仕様の電子インボイスの策定を進めている電子インボイス推進協議会には、会計ソフト等を提供するソフトウェア会社が多数加入しており、2022年秋の運用開始を目指しています。


この共通仕様の電子インボイスは、同じ請求情報をもとにやりとりできるため、多くのソフトにおいて幅広い対応が見込まれます。つまり、これまでは同一のシステムでしか請求情報を交換できなかったものが、今後は多くのソフト同士で請求情報をやりとりできるようになり、大きな変化が期待されるわけです。


こうしたことから、対事業者取引がメインの会社の場合、今後、他社から電子化された請求が可能であるか問い合わせを受ける機会も多くなると思われます。


自社からの請求の電子化交渉にあたって、「当社では電子化対応の一環として、PDF形式の請求書による電子送付と、将来的には共通仕様の電子インボイスへの移行を見据えて検討しています」とアナウンスすることも一案です。

3.税法とペーパーレス化の関係

請求業務の電子化に関連して、税法とペーパーレス化の関係についても確認しておきましょう。


税法上の扱いでは、帳簿も請求書等も紙での保存が原則とされていましたが、2021年度税制改正で電子帳簿保存法が抜本的に見直されたことにより、電子データによる保存が容易になりつつあります。


具体的には、電子データで自社が作成した帳簿等を保存するには、電子帳簿保存法において税務署長の承認が必要とされていましたが、2022年1月以降、この承認手続が廃止されました。


従来は、電子データで作成した請求書を印刷して郵送していた場合でも、税務署長の承認を得ていないことから、自社の請求書控えは紙での保存がほとんどでしたが、要件を満たせば電子データでの保存も可能になりました。押印を含めた自社の請求方法は、最終的な保存方法が影響していた可能性もあることに留意してください。


なお、電子データで作成した請求書等を印刷せず、電子データのまま取引先に送信した場合は「電子取引」という区分に該当します。この場合、2022年1月以降、紙に印刷しての保存方法は廃止されています。


今後は、テレワーク対応や社内コスト、税法上の保存要件などを総合的に考えると、紙ベースの処理に不都合を感じる機会も多くなってくるのではないでしょうか。


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