Netpress 第2139号 IS0 30414 人的資本情報開示ガイドラインに対応する科学的人事の実践

Point
1.企業経営に対して大きな影響をもたらすテーマとして、いま「ISO 30414」が注目を集めています。
2.ビジネスのグローバル化が進むなか、日本企業が生産性や企業価値を高めていくためにも、今後は国際的な運用ルールに沿った人事情報の開示を進めることが必須になっていくでしょう。


株式会社セレブレイン
代表取締役社長 高城 幸司


「ISO 30414」とは、2018年に国際標準化機構(International Organization for Standardization : ISO)が公開した、人的資本(Human Capital)に関する情報開示について定めたガイドラインであり、企業・組織における人的資本の情報開示に特化した世界初の国際規格です。


ISO 30414は、アメリカではすでに上場企業に義務化されていますが、日本でも社員に対するエンゲージメントの必要性とも相まって、どのように取り組んでいくべきか検討を始めたという話を聞くことが増えてきました。


一方で、名前は聞いたことがあるものの、関係がないと考えている企業が多いのも事実です。まずは、基本を押さえていただくべく、ISO 30414の規格内容や制定された背景、今後の日本企業の対応について紹介します。


1.ISO 30414の規格内容

ガイドラインは、組織人事全般に関わる11の領域(下表)と、58の項目から構成されています。ただし、すべての項目を開示する義務はなく、開示内容は基本的に組織や企業に委ねられています。



人事全般に関わる11の領域
(1)
コンプライアンスと倫理(compliance and ethics)
(2)
コスト(costs)
(3)
多様性(diversity)
(4)
リーダーシップ(leadership)
(5)
組織文化(organizational culture)
(6)
組織の健康・安全・福祉(organizational health, safety and well-being)
(7)
生産性(productivity)
(8)
採用、配置・異動、離職(recruitment, mobility and turnover)
(9)
スキルと能力(skills and capabilities)
(10)
後継者の育成(succession planning)
(11)
労働力の可用性(workforce availability)


2.ISO 30414が制定された背景

アメリカでは、2020年8月に、証券取引委員会(SEC)が「レギュレーション S-K」(非財務情報の開示に関する要求事項)の改訂を発表しました。


この改訂により、開示項目に人的資本情報が加えられ、同年11月から上場企業に対して義務化されています。当時のSEC会長、Jay Clayton(ジェイ・クレイトン)氏は、プレスリリースで「さまざまな業界や企業の長期的な価値において重要な原動力となりうる人的資本の開示に重点を置いていることを特に支持する」とコメントしています。


アメリカで人的資本情報の開示が義務化された背景には、欧米の機関投資家から企業に対して、情報開示の強い求めがあったことが挙げられます。


産業構造が変化するに従って、企業の人材活用力や企業文化などの人的資本が、企業の成長に大きく影響するようになりました。そのため、投資家が企業の価値をより正確に評価するには、財務諸表のみでは不十分となり、非財務情報を重視する流れが生まれました。


そのなかで、人的資本についても情報の開示が求められるようになってきたのです。


3.日本企業に求められる対応

日本では、2020年10月に「ISO 30414調査研究レポート」が、国内初のレポートとして発表されています。


日本企業でも、今後、ISO 30414対応への流れは加速するものとみられており、人事担当者はいまから人的資本情報をどのように開示すべきかの検討や、自社データの収集・分析を始めていく必要があります。


たとえば、多くの投資家が注目する「生産性」のデータなら、どれだけの人材採用・育成・研修費用を投資して、どれくらいのリターン(成果)があったかを明示する、といったようになります。


11の領域と58の項目のなかで、まずは自社にとって事業との関連性が強く重要だと判断した項目からデータを収集していくとよいでしょう。開示への準備だけではなく、自社の状態を把握することにも役立ちます。


また、ISO 30414が定める開示項目には、従業員に加えてリーダーシップに関わる項目も含まれていることから、経営陣も含めて組織全体で対応できる体制・仕組みをつくっていくことが求められます。


幅広いデータを継続的に収集していくためには、HRテクノロジーなどをうまく活用し、できるだけ人の手をかけずにデータを取れるようにする仕組みが必須となるでしょう。


このように、経験と勘からデータ活用による人事に転換することが、科学的人事に取り組む第一歩といえます。


たとえば、経営方針を踏まえた数値目標を設定した人材戦略の策定や、自社のHRデータの分析による強み・弱みの把握を行っていくことなどです。


こうした取り組みによって、採用や配置、リテンション施策などを合理的に行えるようになります。どうして欲しい人材が採用できないのか、なぜ離職者が増え続けるのかといった課題に対して、「何となく」ではなく、データに基づいた施策を実施することで、改善・進化が可能になります。


科学的人事に取り組むことは、企業の人材マネジメントを成長させる機会になると考えて、できるだけ早く取り組むべきです。そうであるとすれば、繰り返しになりますが、幅広いデータを継続的に収集していくためにHRテクノロジーなどをうまく活用し、できるだけ人の手をかけずにデータを取れるようにする仕組みを準備しましょう。



前述したように、ISO 30414は国際標準化機構が制定した規格の一つであり、人的資本に関する情報開示におけるガイドラインを示した世界初の国際規格です。


企業の人的資本の情報を可視化し、それらをもとに企業価値を測ることがグローバルスタンダードになりつつあります。ISO 30414の制定によって、「人材や人材マネジメント力は企業の大切な資産」という概念は、ますます世界各国に浸透していくと考え、自分事として今後の動きを注視してください。



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