Netpress 第2138号 契約業務の効率化等を実現! 「電子契約」の導入に際して押さえておきたい実務の留意点

Point
1.コロナ禍を契機として、電子契約の導入が急速に進みつつあり、対応を迫られる企業が増えています。
2.ここでは、中小企業が電子契約を導入する際に押さえておきたい知識や実務上の留意点を確認します。


弁護士 石井 邦尚


1.「電子契約」とは

電子契約とは、広い意味では、書面ではなく、電磁的記録(電子データ)を用いて締結する契約全般を指しますが、一般的には、そのような契約のうち、電子署名法が適用される電子署名を施して締結するものをいいます。本稿でも、このような電子署名を施したものを「電子契約」と呼びます。


電子契約には、誰が電子署名を行うかにより、大きく分けて、①当事者電子署名型と、②事業者署名型(立会人電子署名型)の2つのタイプがあります。



① 当事者電子署名型

契約当事者双方が、それぞれの署名鍵(秘密鍵)と電子証明書を用いて電子署名を行う。契約当事者双方が、署名鍵という「電子的な印鑑」を持つようなもので、双方が紙の契約書に押印するイメージに近い。

認証局が身元確認をしたうえで電子証明書を発行するので、この点で、事業者署名型より信頼性が高い。

② 事業者署名型(立会人電子署名型)

電子契約サービスを提供する事業者が、契約当事者の指示に基づいて、事業者自身の署名鍵で電子署名を行う。

当事者電子署名型と異なり、契約当事者は署名鍵や電子証明書を準備する必要がないため、より簡便に利用できる。



契約当事者間で契約内容が合意に達したあと、電子契約(事業者署名型)を締結する際の典型的な流れは、次のようになります。




2.電子契約の主なメリット

一定の契約書には、収入印紙を貼付して、印紙税を納付する必要があります。そのため、日常的に多くの契約書を交わしている企業では、印紙税の負担も大きなものになります。


一方で、電子契約では、物理的な「書類」を作成するわけではないので、収入印紙を貼付する必要はなく(貼付する場所もありません)、印紙税は不要です。これは、電子契約を導入するメリットの1つです。


また、電子契約の場合は、紙の契約と比べて、印刷・製本や郵送・返送などの手間がなく、契約締結に要する時間も短くなるなど、契約締結業務を効率化することができます。紙代や郵送代が不要になること、業務効率化により人件費の削減が図れることなどにより、費用の削減にもつながります。


特にテレワークの観点からは、契約書の作成や押印、郵送やその受け取りなどのために出社する必要がなくなることは、大きなメリットといえるでしょう。


また、契約書の数が多い企業では、紙の契約書を管理・保管するスペースを削減することができます。電子的に管理されるため、契約書の持ち出しや紛失というリスクも低減されます。


3.適切な管理の重要性

電子署名には、紙の契約書に押印するのと同様の法的効力があります。したがって、権限のない役員や従業員が、電子署名を用いて電子契約を締結した場合でも、訴訟では会社の意思(権限のある者の意思)に基づく電子契約であること(文書の真正)が推定されます。


もっとも、これはあくまで「推定」にすぎず、権限のない者が電子署名をしたことを立証することによって、推定を覆すことは可能です。ただし、そのような立証は簡単ではありませんし、立証に成功したとしても、民法の表見代理として契約の成立が認められることや、契約は不成立でも、不法行為として損害賠償責任を負うこともあります。


こうしたことから、電子契約の導入を躊躇する気持ちが生じるかもしれません。しかしながら、紙の契約書でも、権限のない役員や従業員が、会社の実印や契約書用の印鑑を用いて契約書を作成してしまった場合には、同様の問題が生じます。そのため、実印などは、たとえば金庫に入れたうえで、2人の役員や従業員が揃わないと金庫を開けられないようにする、実印などを使用した記録をきちんと残すなどして、冒用が生じないよう管理に気をつかいます。


これと同様に、電子契約サービスでも、権限のない役員や従業員が勝手に用いてしまうことがないよう、適切に管理をする必要があります。サービスログイン情報等の適切な管理は、電子契約を導入する場合の重要なポイントです。


4.電子契約サービスの選択と考え方

電子契約は、取引先が電子契約で契約を締結することを受け入れてくれて、初めて利用することができます。したがって、電子契約サービスを選ぶ際には、自社の都合・メリットだけではなく、取引先のことも考える必要があります。


取引先の立場からすれば、まずは安心・信頼できるということが大切です。そうすると、利用者の少ないサービスよりも、実績があって広く利用されているサービスを安心と感じる取引先が多いでしょう。Webサイトなどで、電子契約サービスについて、きちんとわかりやすく説明しているかも判断材料になります。


ただし、安心・信頼できるサービスであっても、利用しにくかったり、手間やコストがかかったりすれば敬遠されかねません。この観点からは、当事者電子署名型のサービスよりも、事業者署名型のサービスに優位性があります。


とはいえ、当事者電子署名型のサービスにも、より確実な身元確認がなされるというメリットがあるので、どちらを選択するかは悩ましいところです。当事者電子署名型と事業者署名型の双方を利用できる電子契約サービスもあるので、取引に応じて使い分けることも選択肢になるでしょう。


自社のメリットの観点からは、さまざまな付加機能も考慮要素です。特に、契約の管理機能を利用するかどうかは、ポイントの1つになります。API(第三者が開発したソフトウェアと機能を共有できるようにするしくみ)により、ほかのサービスと連携ができるものもあるので、必要に応じて利用を検討してください。



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