Netpress 第2135号 変化に対応するために 「PDCAサイクル」と「OODAループ」の違い

Point
1.PDCAサイクルとOODAループは、目的に合わせて適切に使い分けることが必要です。
2.OODAループを組織的に素早く回せる企業は、環境適応能力が高く、強いといえます。


株式会社タナベ経営
大阪HRコンサルティング本部
本部長代理 松本 宗家


1.OODAループとは

VUCA(ブーカ)時代、想定外の不確実性に翻弄される現在の経営環境において、経営計画やトップからの指示を待って行動するのではなく、よりスピード重視の経営を実践できなければ、競争優位性を高めていくことができません。


営業やマーケティング、新しいビジネスモデルの開発、イノベーションの創出など、これからの企業活動において、「現場情報」に基づいた「即興演奏」が求められる時代といえます。


OODAループとは、『孫子』の兵法を起源とし、その後、イギリスの軍事史研究者ベイジル・リデルハートの間接アプローチに引き継がれ、元アメリカ空軍大佐(軍事戦略家)のジョン・ボイドによって『孫』の兵法と宮本武蔵の『五輪書』を参考に、より具体的な戦略・組織論として提唱されました。


この考え方は、湾岸戦争で「左フック戦略」として成功を収めたことでも有名です。


OODAループは、①Observe(観察)、②Orient(情勢判断)、③Decide(意思決定)、④Act(行動)という4つの要素で構成されます。


① Observe(観察)
市場や顧客、競合他社などの情報をリアルタイムで収集する
② Orient(情勢判断)
収集した情報が何を意味しているのかについて理解し、リアルタイムデータを価値判断に使用できる情報へ変換する
③ Decide(意思決定)
価値判断に使用できる情報に基づき、どのような計画を実行するのかを意思決定する
④ Act(行動)
決定した計画を実行し、必要に応じて行動の修正を行う


上記4つの要素を一度きりの実行で終わらせるのではなく、調整を加えながら素早くループする(繰り返す)ことで、高い優位性を獲得することができます。

2.PDCAサイクルとOODAループの異同

PDCAサイクルは、経営の現場において取り上げられることが多く、フレーズとしてもよく耳にします。


最近、このPDCAサイクルとOODAループについて、「どちらのフレームワークがより優れているのか」といった議論が持ち上がることがあります。


しかし、この2つの戦略(考え方)が開発された背景や目的は異なっていることから、比較するよりもその目的に沿って使い分けられるべきものです。


PDCAサイクルは、本来、工場の生産性を高めるために作られたフレームワークです。工場における「生産速度や生産効率といった、決められた工程をいかに低いコストで進め、高い生産性を発揮するか」という課題に対する改善を図るような場面において最適とされています。


つまり、PDCAサイクルは、業務改善に最適なフレームワークですが、工程が明確になっていないものに対しては、あまり効果的ではないとされています。


一方、OODAループは、意思決定をするためのフレームワークです。ジョン・ボイド氏が身を置いていた戦場のように、不明確で常に変化していく状況下では、現状のものから最善の判断を下し、即座に行動しなければなりません。


この即行動を起こせる意思決定を目的としているため、PDCAサイクルのような業務改善ではなく、「新規事業を開発する」「事業を成功させる」といった、明確な工程のない課題に対して効果的なフレームワークです。


すなわち、PDCAサイクルは業務改善のような「How」を求める場合に効果的であり、OODAループは事業開発、営業戦略、マーケティングのような「What」を検討する場合に効果的なフレームワークです。



3.OODAをマネジメントに活用するループ思考

営業戦略やSNSマーケティングなど、具体的なアクションを起こすときに、複数の上司の決裁がなければ動けない。または、PDCAに基づいた計画がなければ実行できない。このような企業が多いのではないでしょうか。


しかしながら、これでは適切なタイミングを逃してしまいます。VUCA時代の経営環境では、現場に蓄積される一次情報に基づいた現場担当者の即断即決が求められています。OODAループを素早く回すことができる組織は、直面する不確実性が競合他社よりも低く、より機動的な戦略を実行することができます。


具体的なビジネスの場面を想定すると、現場情報をいかに観察し、収集できるかがポイントになります。


たとえば、営業現場では自社製品だけでなく、競合製品の販売現場での動向をリアルタイムで観察することが重要です。ライバル企業が急遽、製品価格を変更したり、新しい販促キャンペーンを仕掛けてきたりした場合に、素早くその現場情報をつかんで対抗策を講じる必要があります。


また、開発現場においても、ベンダー等を通じて競合他社の開発動向を即座に把握し、現場判断で個別対応していくことが重要になります。

4.変化に対応するために

現場情報に基づいた即断即決型の「即興対応」が、今後の競争優位性の新たな源泉です。それを可能にするのが、「OODAループを組織的に素早く回す」ということです。


どのような環境変化にも即時対応できる次世代の組織を構築するためには、OODAループ思考を取り入れ、現場の社員一人ひとりが自分自身で状況を見定め、判断する習慣を醸成しなければなりません。そして、その文化を組織、経営へと活かしていく必要があります。


各企業においても、PDCAサイクルの目的、OODAループの目的を正確に押さえ、目的別フレームワークとして、組織に活かすことをお勧めします。



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