Netpress 第2130号 法令違反にならないために 外国人雇用を進める際に留意すべきこと

Point
1.外国人労働者を雇用する際のポイントは、就労が認められていない者を雇用しないこと、就労が認められている範囲で雇用することです。
2.技能実習生を含めて、外国人労働者にも労働基準法や最低賃金法といった日本の法律が適用され、社会保険についても、日本人と同じ条件で加入させる必要があります。


みらいコンサルティンググループ
特定社会保険労務士 福本 祐子


1.在留資格とその確認方法

在留資格とは、外国人が日本に滞在する根拠となるもので、出入国管理及び難民認定法に定める活動を行うことができる資格のことです。外務省が発行するビザは日本に入国する時に必要になる入国審査を受けるためのもので、法務大臣が与える日本国内で行える活動の範囲や資格である在留資格とは異なります。日本に入国可能なビザを持っていても、すぐに採用して就労できないケースもありますので、留意しましょう。


外国人労働者を採用する際は、事前にパスポート、在留カード、資格外活動許可書(該当者のみ)、指定書(該当者のみ)等を応募者に提示してもらい、必ず現物確認を行いましょう。不法就労の場合、就労している本人に強制退去などの処分が課せられるだけでなく、雇用している事業主にも罰則規定が適用されます。受け入れ企業側は、不法就労とならないよう、雇用要件を適切に満たしているか確認する責任があります。


確認するポイントは、「在留資格」、「在留期間」、「在留期限」、「就労制限の有無」の4点です。在留資格の確認と同時に、従事させる予定の業務内容と本人が就労できる業務の内容が合致するか、確認を行うことも重要です。


不法就労となるケースの例は、次のとおりです。

・密入国した人や在留期限が切れている人が働く

・留学生が許可された時間数を超えて働く

・外国料理の料理人や語学学校の先生として働くことを認められた人が工場で作業員として働く

2.外国人労働者の労働保険と外国人雇用状況の届出

労働保険のうち、労災保険は、日本で就労する限り、国籍や雇用形態を問わず、不法就労であっても適用されます。雇用保険は1週間の所定労働時間が20時間以上で、かつ31日以上の雇用継続見込みがあれば、加入させる必要があります(昼間学生等の適用除外者を除く)。


また、外国人労働者を雇い入れた企業は、すみやかに外国人労働者に関する情報を所轄公共職業安定所に提出することが義務付けられています。その際、対象者が雇用保険被保険者に該当する場合には、「雇用保険被保険者資格取得届」の備考欄に国籍、在留資格等を記入のうえ、資格取得手続きと同時に届出を行います。一方、雇用保険に加入しない場合には、国籍や在留資格等を「雇入れ・離職に係る外国人雇用状況届出書」に記載し、所轄公共職業安定所へ届け出なければなりません。外国人労働者を雇用した時に必要となる代表的な手続きと提出期限は次の表のとおりです。




3.外国人労働者の社会保険と給与計算

社会保険(健康保険、介護保険、厚生年金保険)についても、法令で加入が義務付けられています。ただし、社会保障協定が締結されている国から来日している場合、保険料の二重払いを回避するため、「社会保障協定適用証明書」を取得していると、日本の社会保険に加入義務がないケースもあります。


募集、採用面接時など、雇用契約を締結する前から、国籍を問わず、社会保険の加入要件を満たす場合には、社会保険加入義務があること、給与から控除される保険料と給付について丁寧な説明をすることがトラブル回避につながります。なお、日本国籍を有していない労働者が退職し、日本に住所を有しなくなった日から2年以内である等の要件を満たせば、国民年金・厚生年金について「脱退一時金」を請求できます。出国して、かつ、日本に住所を有しなくなってからの受給申請となるため、対象者に対して説明しておくとよいでしょう。


外国人労働者であっても、日本国内で就労する限り、最低賃金は適用されます。技能実習生についても同様で、最低賃金法に基づき、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければなりません。


給与計算を行う場合、国籍に関わらず、居住者か非居住者のどちらかに該当するかにより、所得税の計算方法や作成すべき法定調書が変わります。日本の居住者に該当する場合、年末調整(所得によっては確定申告)において要件を満たせば、配偶者控除や扶養控除を受けることが可能です。別居していても生計を一にする状態であれば、母国に残してきた親族を所得税法上の扶養親族にできますが、親族関係書類や送金関係書類が必要です。国籍に関わらず、給与計算を行う際には、居住者・非居住者による所得税率の違いや年の途中で出国した場合の取扱いなど、多岐にわたる留意事項を理解し、正確に計算できるよう留意しましょう。

4.就業規則の整備

外国人労働者が日本国内で就労する場合は、国籍に関係なく労働関係諸法令が適用されます。同様に、自社の就業規則などの諸規程も外国人労働者に適用されます。国籍を理由に、労働者に対して差別的取り扱いをすることは禁じられているため、原則、外国人労働者のみに適用される就業規則や賃金規程を作成することはできません。


外国人労働者の受け入れにあたって、労働基準法上、外国人労働者の母国語に翻訳した就業規則の作成は義務付けられていませんが、外国人労働者が理解できるよう、母国語や分かりやすい日本語で説明する等して、就業規則を周知する必要があります。外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針に沿って、職場環境を整備することが望まれます。




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