一口メモ 秋の風
朝礼時の挨拶や、経営のヒントに――。日常の光景や歴史のエピソード、季節の話題等さまざまなトピックスを題材にまとめたミニコラムです。
「物いへば唇寒し秋の風」といえば、「余計なことを言うと、ろくなことはない」という意味のことわざとして知られているが、これが芭蕉の句であることをご存じだろうか。
江戸深川の長慶寺に翁塚が建てられたときに『芭蕉庵小文庫』という句集が編纂され、このなかに「座右之銘 人の短をいふ事なかれ 己が長をとく事なかれ」という前書とともに、この句が収録されている。研究者によると、門人等からの求めに応じて揮毫(きごう)していたものかという。
それにしても、こんな教訓的な句を芭蕉がつくるものだろうかという疑念は残る。別の俳書によると、芭蕉と同時代の俳人に鶴亀という人がいて、その句に「ものいはでたゞ花をみる友もがな」という句があったという。芭蕉はこの句が気に入っていて、この句を踏まえ、「物いへば」の句をつくったとする。この説に立てば、「おしゃべりはやめて、深まる秋の風情を静かに味わおうではないか」というほどの意味になろうか。
いずれにしても、芭蕉が言っているのは沈黙の価値。いまの日本人が忘れかけているものかもしれない。
◎「一口メモ」2021年11月号
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