マネプラ・オピニオン グリーン戦略を問う(高橋 進)

本コラム「マネプラ・オピニオン」は、6名の識者の方々に輪番制でご担当頂きます。それぞれがご自身の視点で経営者の方々へのメッセージをまとめた連載コラムです。



政府は、昨年10月、2050年の温室効果ガスの排出を実質ゼロにし、さらに今年4月には30年までに46%削減(13年度比)するという野心的な目標を打ち出した。


今回設定された目標は、現状からの改善策を積み上げて作られたものではなく、数字が先に有りきの目標である。そのため、現状と目標のギャップを埋めるためには、バックキャスト方式で目標達成の途を切り開いていく必要があり、大胆な社会変革と技術革新が不可欠である。


ただし、30年はすぐそこである。日本は、まずエネルギー計画において電源の脱炭素化を進めることが課題であるが、30年までに化石燃料を再生可能エネルギーで代替することは容易ではなく、足らずまいを原発に依存することになる。原発依存の是非を置くとしても、実は原発による発電を今後数年間で増やすこと自体が容易ではない。この意味でエネルギー計画実現のハードルは高い。


企業の経済活動や私たちの日常生活における脱炭素化を進めるためには、化石燃料に代わる燃料の開発とその供給体制の整備が不可欠である。それには多額の財政支援が必要となるが、政府はどうやって財源を確保するのであろうか。代替エネルギーとしての電力の需要が高まれば電力消費が増え、エネルギー計画の見直しが必然となる。


では、50年に向けてはどうだろうか。目標を達成するための技術革新が不可欠であるが、同時に脱炭素に向けた取り組みを足元から長期間にわたって着実に進めていく必要がある。例えば、長期間にわたって使われる住宅や交通網などのインフラは、今から脱炭素を踏まえたものに変えていかなくてはならない。


政府は一刻も早く、日本の社会・経済全体を俯瞰した脱炭素ビジョンを提示すべきである。その際、比較的近い目標に対しては、実現可能性に配慮した柔軟かつ機動的な手段を採用する一方、より長期的な目標に対しては、技術革新と企業や国民の行動変容を促す仕組みをビルトインした工程表を提示することが求められる。


◎「SMBCマネジメント+」2021年11月号掲載記事


プロフィール

株式会社日本総合研究所 チェアマン・エメリタス 高橋 進

(たかはし・すすむ)1953年生まれ。一橋大学経済学部卒業後、住友銀行(現・三井住友銀行)に入行。ロンドン駐在などを経て、株式会社日本総合研究所に転じ、調査部長等を経て2011年6月より理事長。18年4月にチェアマン・エメリタス(名誉理事長)に就任し、現在に至る。内閣府政策統括官(経済財政分析担当)(05年~07年)、内閣府経済財政諮問会議 民間議員(13年~19年)、内閣府規制改革推進会議 委員兼議長代理(19 年~)等、公職を多数歴任。

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