Netpress 第2126号 消費税の扱いなど オフィスを整理・縮小する際の経理処理を確認する

Point
1.新型コロナウイルス感染症の影響等に伴い、オフィスの整理・縮小に踏み切る企業が増えています。
2.ここでは、そうした場合の敷金、固定資産の処分について、会計処理や消費税の扱いを確認します。


税理士 畠山 亮洋


1.敷金の経理処理

(1)原状回復費として返還されない敷金

事業用の賃貸借契約においては、一般的に借主が原状回復費を負担するので、預けていた敷金から原状回復費相当額を差し引いた金額の返還を受けます。


実際には、借主の代わりに貸主が原状回復工事を実施するので、借主からすると、貸主から役務提供を受けていることになります。そのため、退去時に敷金から差し引かれる原状回復費相当額は、役務提供の対価として消費税の課税対象になります。


(2)敷金償却として返還されない敷金

契約書に「退去時に敷金の25%を償却した金額を返還する」などの記載がされていれば、契約時点で敷金の25%は返還されないことが確定します。


敷金償却として返還されない敷金については、オフィスを借りるための対価と考えるので、返還されないことが確定した契約時点で消費税の課税対象になります。


返還されない敷金償却部分は、税法上の繰延資産として取り扱うため、20万円未満であれば一時の経費、20万円以上であれば長期前払費用として資産計上します。


この長期前払費用として資産計上する金額は、5年で償却します。賃借期間が5年未満で、契約更新時に更新料等を支払うのであれば、賃借期間で償却することもできます。


契約を解除した場合には、解除した事業年度において未償却残高のすべてを償却します。なお、礼金についても敷金償却と同様の取り扱いをします。


(3)違約金として返還されない敷金

オフィスの借主が契約期間の途中で解約を申し出る場合、契約内容によっては、敷金から違約金を差し引かれることがあります。解約により発生する違約金は、損害賠償の一種として消費税は不課税です。違約金は、原則として双方合意のうえ、金額が確定した事業年度の経費になります。


なお、中途解約をしたにもかかわらず、明け渡し遅滞が生じると、別途、違約金が発生することもあります。その場合、違約金は貸主の逸失利益の補てんとして支払われるものではなく、契約期間を延長して建物を賃借した対価として支払われるものになるので、消費税の課税対象になります。

2.固定資産を処分する際の経理処理

(1)売却

固定資産を売却する際の注意点は、「損得に関係なく、売却金額に消費税が課税される」ということです(例外として、土地の売却は非課税です)。


貸借対照表上に資産計上している固定資産を売却する場合には、売却時の固定資産の帳簿価額と売却金額の差額を損益として認識します。単価が10万円未満の固定資産、10万円以上30万円未満のもので少額減価償却資産の特例の適用を受けている固定資産など、購入時に全額費用計上した固定資産を売却する場合は、帳簿価額がないため売却金額と同額が収益になります。


なお、一般的な会計ソフトは、固定資産の売却仕訳を入力する際、消費税を正しく自動認識してくれないことがあるので、仕訳に工夫が必要です。


(2)廃棄

固定資産を廃棄する場合は、固定資産の帳簿価額を固定資産除却損として損失計上できます。資産の譲渡等に該当しないため、消費税は不課税です。


廃棄するための費用についても、固定資産除却損として計上できます。廃棄費用は、廃棄という役務提供を受けるので、消費税の課税対象です。


固定資産を廃棄する際は、適切な経理処理であることを証明するために「廃棄の証拠を残す」ことが重要です。「廃棄証明書」「廃棄した固定資産の写真」などを残しておきましょう。業者に依頼せず、社内で処分する場合は、「固定資産の廃棄報告書」を作成して、廃棄する固定資産の名称、数量、廃棄理由などを記載します。


(3)有姿除却

すぐに廃棄できない場合は、有姿除却という選択もあります。有姿除却では、実際に廃棄をしていなくても、「使用を廃止して、今後使用する可能性がない固定資産」について、帳簿価額から処分見込価額(買取価額)を差し引いた金額を損失とすることができます。価値が付かず、処分見込価額がない場合には、帳簿価額を損失計上します。


有姿除却は、実際に廃棄したわけではないので、損失計上の要件である「使用廃止」「今後使用する可能性がない」ことを客観的に証明できることが前提です。有姿除却に至った経緯や理由を記載した根拠資料を残す必要があります。証明できない場合は、実際に廃棄した段階で損失にしましょう。


(4)ソフトウェアの除却

ソフトウェアのような無形固定資産も、機械等の有形固定資産と原則は同じです。


損失計上するには、廃棄した事実の証明が必要ですが、ソフトウェアは無形固定資産であるため、廃棄の事実を物理的に証明するのは困難です。そこで、「事業供用しないことが明らかな場合」には除却できるという規定があります。


自社利用のソフトウェアの場合は、「業務の廃止」「ハードウェアやオペレーティングシステムの変更」等により、「ソフトウェアを利用しなくなったことが明らかな場合」に除却することができます。販売用のソフトウェアの原本の場合は、「新製品の出現」や「バージョンアップ」等により、「今後販売しないことが明らかな場合」に除却することができます。


いずれにしても、利用中止、販売中止に至る経緯がわかる根拠資料を準備し、事業供用しないことが明らかな事実や時期を証明できるようにする必要があります。


(5)一括償却資産の売却と廃棄

取得価額が10万円以上20万円未満の固定資産は、一括償却資産として処理することができます。


一括償却資産は、通常の固定資産とは異なり、1年間に取得した資産のすべてを1つの資産とみなして管理します。一括償却資産を売却・廃棄しても、3年間で帳簿価額がゼロになるように3分の1ずつ均等償却するため、売却した際は売却額のすべてが収益になります。廃棄した際には仕訳をしません。



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