Netpress 第2125号 仕組みとモニタリングが重要! コロナ禍で海外子会社の不正を防止するには?

Point
1.日系海外子会社(ASEAN地域)で発生頻度が高い不正事例は、圧倒的に「資産流用」です。
2.会社でコントロールが可能な最高の不正防止対策は、不正の「機会」を減らす内部監査です。不正防止のための仕組みをつくることと、継続的なモニタリングがとても重要になります。


みらいコンサルティング株式会社
ASEAN統括リーダー/公認会計士 金井 健一


新型コロナウイルスの感染防止対策として、出張等での移動や出社が制限された結果、リモートワークの促進、証憑類の電子化、勤務形態の多様化といった変革が一気に進みました。その一方で、さまざまな不正が発生するリスクも急激に増大しています。


不正は、一般的に「動機」「機会」「正当化の理由」の3要素が揃うと発生するといわれていますが、特にコロナ禍の海外子会社では、それらの各要素が揃いやすくなっています。


ここでは、海外子会社における不正の発生状況と、その防止策について解説していきます。

1.海外(ASEAN地域)で多い不正事例

具体的に、日本企業の海外子会社では、どのような不正事例が生じているのでしょうか。


不正は、大きく「資産流用」「粉飾決算」「汚職行為」の3つに分類されます。それぞれの代表例としては、次のようなものが挙げられます。


「資産流用」 …… 現金の横領や在庫の横流し、会社経費での私物購入など
「粉飾決算」 …… 売上の水増し、費用、損失の隠蔽、簿外資産の確保など
「汚職行為」 …… 贈収賄やキックバック(リベート)の受領、利益相反取引など


ここで、日本企業が多く展開するASEAN地域に目を移してみましょう。ASEAN地域は、日本に比べて不正が発生しやすい環境が揃っている、と認識されている方は多いかもしれません。


ASEAN地域の日系海外子会社で発生頻度が高い事例は、圧倒的に「資産流用」です。すなわち、現金の横領や公私混同による私的費用計上などで、弊社が携わった海外不正調査の事例でも過半数を占めています。動機はさまざまですが、海外では「周りもやっているから」という“悪魔のささやき”が聞こえることもしばしばあります。


次いで、現地担当者の自己保身的な思考に起因する架空売上計上や費用隠蔽といった「粉飾決算」です。責任感が強い人ほど、あるいは本社からの期待が高い人ほど、粉飾決算の「動機」は高まってしまいます。


また、今後はサイバー不正、つまりハッキングによる機密情報漏洩やランサムウエアによる脅迫、電子メールでの詐欺行為が、加速度的に増加するとの見方が強まっています。

2.海外での不正は絶対になくならない!

海外子会社では不正リスクが高いとわかっていながら、なぜ不正防止が進まないのでしょうか。


その原因は、圧倒的に「モニタリング不足」です。多くの日本企業では、海外子会社の管理を現地駐在員に任せきりにしていて、適度な牽制効果が失われてしまっています。


とりわけ、日本型経営の特徴でもある、従業員の会社への「忠誠心」や、経理担当者は忠実であるとの「性善説」、または一人ひとりの守備範囲を増やそうとする「マルチタスク制」といったものは、海外ではむしろ異質となります。


これらの考え方、およびそれに基づく管理方法を海外子会社でそのまま適用してしまうと、不正の「機会」を増加させることにつながるのです。


さらに、不正の「動機」や「正当化の理由」は、現地の文化や慣習、心理的活動や生活環境にも大きく影響されます。ですから、大前提として、「日本の不正リスクが例外的に低いだけ」という認識をもつことが重要です。

3.どうすれば不正を減らせるのか

では、不正防止のために自社でできることは何でしょうか。


会社でコントロールが可能な最高の不正防止対策は、不正の「機会」を減らす内部管理です。具体的には、「①人による対策」「②仕組みによる対策」「③外部活用による対策」が挙げられます。


①人による対策
複数の人での相互チェックの実施、業務のローテーション化、上司への報告などがあります。重要なのは、一人の担当者への依存度を減らして、牽制の目を利かせることです。
②仕組みによる対策
システムによる履歴管理や在庫管理、アクセス権限の設定やデータ異常値検出・管理というIT技術等を活用したコントロール手法です。これに従来の業務フローの「見える化」や、権限・責任の「見える化」も組み合わせれば、さらに有効な不正抑止策となります。
③外部活用による対策
内部監査や内部通報制度といった社外の組織・専門家を活用した管理です。不正発覚のきっかけは、内部監査や内部通報がほとんどであり、非常に高い有効性をもった方策となります。

  

これらの内部管理について、国・地域や業界などの個別の特性を十分に考慮し、上手く組み合わせて実施することが、海外子会社の不正を抑制するポイントとなります。

4.不正は絶対に隠し切れない!

「不正は絶対になくならない」ものである一方、「不正は絶対に隠し切れない」ものでもあります。


不正には、必ず跡が残ります。そして、必ず誰かが不正を認識しています。さらに、不正の手口は過去の発生事例とほとんど同じで、まったく新しい不正というものは皆無に近いといえます。


したがって、しっかりとした管理体制を構築し、内部監査等によって継続的にモニタリングしていくことで、十分に不正を抑止し得るでしょう。



「不正防止のための仕組みづくり」と「継続的なモニタリング」は、海外においてビジネスを行ううえで、とても重要なものとなります。


欧米企業では、本社から駐在員は派遣せず、海外各国での現地化運営を主流としていることから、いわゆるガバナンスに非常に力を入れています。今後、日系企業の海外子会社運営でも、効果的に取り入れることが望まれます。



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