Netpress 第2119号 DXの実現に向けて 行動観察を起点とした「顧客発見」重視のデザイン思考
1.デジタルトランスフォーメーション(以下、「DX」といいます)を実現するためには、単なるデジタル化ではなく、「顧客や社会の課題やニーズ」に沿った変革を進める必要があります。
2.「顧客や社会の課題やニーズ」を明らかにするにあたって、「デザイン思考」は有効な手段です。
3.他社との差別化を図るには、事実から潜在的な課題やニーズを明らかにし、自社の方向性や意志、外部環境なども統合して提供価値を考えることが大切です。
株式会社オージス総研
保手浜 勝
企業を取り巻くビジネス環境は激しく変化しており、これまでのビジネスの延長線上で競争していくだけでは厳しい時代に入っています。そうしたなか、最近よく耳にするキーワードとして、「DX」があります。
DXの定義はいくつかありますが、経済産業省のDX推進ガイドラインにおいては、「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と定義されています。
この定義により、明らかにDXは、先端技術やデジタル技術を導入するだけではなく、「顧客や社会の課題やニーズ」に沿った変革を進めるという意味が具体的に入ることとなりました。
当社は、これまで、ユーザーや顧客の事実に基づいた新たなビジネスモデル(新価値)創造や、組織開発、サービスアイデア・施策案導出などのコンサルティングを行ってきました。
DXを推進するうえでも、こうしたユーザーや顧客の事実に基づいた「顧客や社会の課題やニーズ」を把握することが求められていると考えられます。
ここで、「顧客や社会の課題やニーズ」を把握する方法として、「デザイン思考」という考え方があります。これは、Appleのマウスなど画期的なプロダクトデザインで知られるデザインファームIDEOのイノベーション手法です。
IDEOの元CEOティム・ブラウン氏は、デザイン思考を次のように定義しています。
「デザイナーの感性と手法を用いて人々と技術力を取り持つこと」、あるいは、「現実的な事業戦略にデザイナーの感性と手法を取り入れ、人々のニーズに合った顧客価値と市場機会を創出すること」
一般的にデザイン思考は、「共感(Empathize)」「定義(Define)」「創造(Ideate)」「試作(Prototype)」「試行(Test)」の5つのステップから構成されています。
当社のプロセスは、デザイン思考をベースとしつつ、下図のようなアプローチをとっています。
主な特徴としては、最初のプロセスで行動観察により「事実(現場・現物・現実)」をしっかり収集することと、事実をもとに分析をしてアイデアを考える前に「提供価値」を考えることが挙げられます。
事実の収集と提供価値について、それぞれの特徴をもう少し詳しく説明しましょう。
<事実の収集について>
「事実」とは、現場やユーザーから得られる情報(発言/行動/状況)ですが、単純に「観察」「質問」するだけでは、新たな顧客や社会の課題やニーズを発見するのは困難です。
そのため、能動的に「気づきを得る」ことを意識しながら、「共感」だけでなく「違和感」や「モヤモヤ」をできるだけ多く収集しています。たとえば、観察しているときには、その行動の意味がわからなくても何か違和感などがあれば記録しておき、他の情報と合わせてみることで、その行動の意味がわかってくることもあります。
<提供価値について>
「提供価値」とは、エンドユーザーに届けたい体験価値や生活変化を描くことです。
顧客や社会の課題やニーズが明らかになると、それに対応するアイデアをすぐに考えたくなりますが、その前に提供価値をしっかり考えることが重要です。新たな価値を検討する際には、プレゼントを贈るときのように、相手のことだけでなく、自分の思いや在り方も知る、すなわち顧客視点だけでなく、企業の方向性や意志、外部環境なども統合することでよりよい提供価値が生まれ、他社との差別化につながります。
IDEOのデザイン思考でも同じですが、それぞれのステップを順番に1回実施して終わりではなく、必要に応じて前(あるいは複数前)のステップに戻り、再度検討するという進め方をとります。
また、プロトタイプ検証の後、開発工程にシームレスにつなぐ必要もあります。デザイン思考と開発を別々に実施し、担当する部署や人も変わっているというケースが多く見受けられます。その場合、デザイン思考をする部署でユーザーのアイデアを検討し、インサイト(潜在的なニーズ、本質的な欲求)を考えてプロトタイプを作り、「これがいい」となった後で開発部門につなぎ、そこで実際にモノを作るという流れになります。
このように担当部署が分かれてしまうと、そもそもユーザーが何を求めていたのか知らない人がモノを作るということになり、だんだんと当初の思いとはかけ離れていってしまいがちです。
そうした問題を解決するために、当社では「OGIS-Creation Style」というアプローチ方法を開発し、採用しています。
DXと聞くと、既存の業務やサービスをデジタルに置き換えること(デジタル化)に目が行きがちです。しかし、実はその前に、そもそも現場に隠れた課題やニーズをしっかり把握して、それをどのように解決するか、満たすかを考えることが、DXを実現するためには重要になってきます。
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