Netpress 第2118号 「企業の価値」とは? 未上場企業の株主価値と評価方法(事例)
1.事業承継目的など、未上場企業のM&Aを行う際には、株主価値の算出方法や自社の株主価値を把握しておくことが重要です。
2.未上場企業は市場株価がないため、業界・業況・財務状況など、入手可能な情報による評価が必要です。
アドバンスト・ビジネス・ダイレクションズ株式会社
コンサルタント 中平 雄大
1.事業承継に注目が集まる!
昨今、創業者の高齢化が進行し、企業を継続するうえで後継者問題が未上場企業の課題の一つといえます。後継者問題の解決策としてM&Aが注目されており、事業承継を目的としたM&A件数は、2012年の184件から2020年には616件と、8年間で3倍超に増加しています。
ただし、未上場企業は市場株価が存在しないため、「企業の適正価格」がわかりにくく、価格交渉が難航することも少なくありません。したがって、M&Aを検討するにあたり、企業価値評価の概念を押さえているか否かは、結果に大きな違いをもたらします。
2.企業価値評価とは
企業価値評価の手法は、大きく次の3つに区分され、それぞれ「DCF法」「類似企業比較法」「修正純資産法」に代表されます。
(1) 企業の「将来収益」に着目したインカムアプローチ
(2)「類似企業の市場取引価額」に着目したマーケットアプローチ
(3)「保有する資産の時価」に着目したコストアプローチ
また、企業価値評価を理解するうえでは、「事業価値」「企業価値」「株主価値」という3つの価値の整理が必要です。
「事業価値」とは、本業の価値を指し、本業に投下した資産から稼得される利益から算出します。
「企業価値」とは、企業全体の価値を表わし、事業価値に本業以外の投融資資産を合計して算出します。
「株主価値」とは、企業の株主に帰属する価値を示し、M&Aにおいて株主へ支払われる売却金額を意味します。企業価値から、純有利子負債を差し引くことで算出できます。(下図参照)
今回は、企業価値の算出が比較的容易な類似企業比較法による算出手法を紹介します。
3.類似企業比較法を使って企業価値評価をしてみよう!
類似企業比較法は、上場企業のなかから評価対象企業と類似業種の企業を選定し、株式市場で売買されている株価を参照して計算されます。計算方法は、【類似企業の時価総額から算出される評価倍率】×【評価対象会社の財務数値】と表わすことができます。以下、4つのSTEPに分けて算出過程を紹介します。
●【STEP1】:類似企業の選定
評価対象会社の属する業種から企業規模・業歴等を考慮し、5~10社程度の上場企業を選定したうえで、各社の有価証券報告書と株価データを取得します。財務データや株価は、インターネットで取得可能です。
●【STEP2】:評価倍率の取得
ここでは、評価倍率の代表的指標である「EBITDA(償却前利益+税金+金利)倍率」を使用します。EBITDAは、企業に投下されている資産全体から稼得される収益を表わすため、企業全体の価値に対応する「企業価値」を算出することが可能です。類似企業のEBITDA倍率の算出方法は以下のとおりです。
【EBITDA倍率 = 企業価値(②) ÷ EBITDA(①)】
① EBITDA = 経常収支 - 受取利息 + 支払利息 + 償却費 (類似企業の損益計算書より)
② 企業価値 = 株主時価総額(③) + 純有利子負債(④)
③ 株主時価総額 = 発行済み株式数 × 株価 (類似企業の有価証券報告書より)
④ 純有利子負債 = 有利子負債の合計 - 現預金 (類似企業の貸借対照表より)
この計算を選定した類似企業各社に対して行い、各社のEBITDA倍率の平均値をとり、「類似企業の平均EBITDA倍率」を算出します。
●【STEP3】:評価対象会社の財務数値の取得
評価対象会社の決算書から、STEP2の算出方法を使用して、「EBITDA」と「純有利子負債」を出します。
●【STEP4】:評価対象会社の株主価値算出
評価対象会社の株主価値の算出方法は以下のとおりです。
【評価対象会社の株主価値 = 評価対象会社の企業価値(①) - 評価対象会社の純有利子負債(※)】
① 評価対象会社の企業価値 = 類似企業の平均EBITDA倍率 × 評価対象会社のEBITDA
※評価対象会社の純有利子負債はSTEP3で算出済み
ここでは、EBITDA倍率12.77倍、対象会社EBITDA140百万円、純有利子負債300百万円とする算出例を紹介します。
対象会社の株主価値は1,488百万円となり、これがM&Aにおける株主へ支払われる金額となります(下図参照)。
本来であれば、EBITDA倍率以外にも営業CF倍率やPER倍率等を使用した株主価値を同時に算出し、各倍率や他手法により算出した評価額を総合的に評価します。また、未上場企業の場合、企業規模や出資比率等をリスクとして考慮するため、評価額より20~30%程度のディスカウントを行うことが一般的です。
4.最後に ~留意点~
ここまでEBITDA倍率を使った評価手法を中心に説明しましたが、企業価値評価の手法は複数存在します。評価対象会社の業界・財務内容・成長性等により選択すべき手法は異なるため、企業価値評価には客観性や専門性が求められ、数値の精査が必要不可欠です。実際の取引や具体的な検討にあたっては、専門家への相談をおすすめします。
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