Netpress 第2117号 afterコロナ新環境のアップデート 企業価値を高めるブランディングの進め方
1.コロナショックにより変容した社会課題や顧客課題を正しくつかみ、企業価値を見つめ直す必要があります。
2.リアルとデジタルを融合したブランディング強化への取り組みに着手するとともに、企業価値を高めることにより、仕事や顧客、人材を“集める”ことから、“集まる”ことへの変革を目指しましょう。
株式会社タナベ経営
経営コンサルティング本部
本部長代理 森田 裕介
1.未来の会社をブランディングする
米国の経営学者P.F.ドラッカーは、「企業の目的は顧客の創造である」と述べています。afterコロナ新環境に加え、オリンピックイヤーの2021年以降は、あらゆる産業の内需縮小が予測されるなか、既存の延長線上のブランディングでは、企業の競争力は低下する一方です。その現実に目を背けることなく、正しい危機感のもと、ブランディングへ経営資源を投下し、新たな顧客を創造していくことが重要です。
ブランド(brand)の語源は、牛に焼印を付ける意味の“brandr(ブランドル)”といわれています。したがって、ブランドとは顧客の心に焼き付ける、つまりは「顧客価値を定義、約束し、顧客との信頼関係を構築するもの」といえます。
タナベ経営では、ブランディングを「会社、ビジネスモデル、人材の3つのブランド価値を顧客へ提供し続ける日常活動」と定義しています。ウィズコロナにおいては、会社=応援したくなる会社、ビジネスモデル=成長し続ける事業、人材=前向きな社員、という価値の高め方が重要です。
2.ブランディングを推進する3つの着眼
コロナ禍におけるブランディングの推進ポイントは、次の3点です。
(1)フルモデルチェンジ
コロナショックにより、社会課題や顧客課題は大きな変容を見せました。その課題を的確につかみ、社会課題、顧客課題に自社の価値を適合させることが求められます。
そのためには、価値の再定義と絞り込みが肝要で、「まるごと変える」という経営の意思決定が大切です。
(2)「リアル×デジタル」の融合
デジタル投資は、大企業とそれ以外の企業において年々格差が広がっています。
不確実性が高い環境下であるからこそ、攻めに転じるための投資が競争力の強化につながります。「ブランディング×テクノロジー」を着眼とし、リアルとデジタルを融合したブランディングの最適化が必要です。
(3)スピード化
圧倒的な顧客創造力の向上に向けては、ライバルに先んじて攻めに転じることが近道です。全従業員のデジタルリテラシーを高め、会社全体を垂直的にデジタル化へとシフトしていくことが求められます。
加えて、さまざまな助成金制度など、DX(デジタルトランスフォーメーション)への政府の後押しもあります。それを正しく認識したうえで、企業規模を問わず攻めのDXへと転じ、垂直的に立ち上げる必要があります。
3.実例から学ぶブランディング
弊社のクライアント先であるC社(大阪府・専門工事業・年商30億円)では、ブランディング戦略構築をテーマにコンサルティングを進め、企業イメージを大幅に刷新しました。
その背景は、建設業のなかでも、いわゆる「3K」(きつい、汚い、危険)といわれる仕事が中心であり、人材不足の課題に直面していたことです。案件依頼があったとしても、案件を実行する作業員が不足することで事業成長の機会を失う恐れがあり、さらには作業員の高齢化に伴い、近い将来に技術の伝承が途絶え、自社の強みが失われかねないという危機感もありました。
その環境下において、同社は次に挙げる2点のブランディングに取り組んだことにより企業価値を高め、さらには採用募集人員に対して約2倍の応募人数を集めることに成功しました。
(1)ホームページリニューアルによる企業イメージの刷新
同社は3年前に経営改革を行い、経営理念の見直しや中期ビジョンの策定に取り組みました。その中期ビジョンは「環境配慮型工法でNo.1」であり、現在は次世代幹部が中心となって中期ビジョンを推進しています。
その推進の一つのチームが、「ホームページリニューアルプロジェクト」です。リニューアルの目的は、営業案件の引合い増加と採用強化の2点で、チーム主導でコーポレートサイト、採用サイトの2サイトを見直しました。当サイトのすべては、中期ビジョンを軸に設計されています。
コーポレートサイトでは、自社の固有技術をPRするため、「工法」を前面に打ち出しています。
一方、採用において求職者が求めることは、求職者自らが入社した後にどのような経験を積んで成長できるか、そのような“等身大”の情報です。ゆえに採用サイトは、事業内容や施工事例の紹介、実績などを単に並べるのではなく、求職者の価値観の変容を正しくつかみ、働く技術者、作業員たちにスポットを当てたページ構成となっています。
世間一般では“不人気業種”との共通認識もあるなかで、その常識を覆すべく、“技術者であることに誇りを持つ”という信念がサイトを通しても見て取れます。
(2)人材活躍を実現するアカデミーの推進
採用さえ成功すれば、人手不足は解消される・・・ことにはなりません。同時に定着率を改善することも重要です。同社はその取り組みとして、「アカデミー」という企業内大学を開校しています。
OJTが中心の建設現場の業務ですが、実務だけでなく、オンライン研修や集合研修など、リアルとデジタルを融合した多様な学ぶ機会を提供しています。このアカデミーの取り組みは、自社の教育水準を引き上げ、育成のスピード化を実現し、併せて技術を次代に伝承していく仕組みとしても機能しています。
また、採用ブランディングにも効果を発揮しており、新卒採用説明会時に学生へリーフレットを配布、説明することにより企業の魅力度を上げ、結果として採用の質と量の両面から改善を図っています。
社会課題や顧客課題が大きく変容するafterコロナ新環境をチャンスと捉え、企業価値を高めるためのブランディングのアップデートに取り組みましょう。
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