マネプラ・オピニオン 大谷翔平(五百旗頭 真)

本コラム「マネプラ・オピニオン」は、6名の識者の方々に輪番制でご担当頂きます。それぞれがご自身の視点で経営者の方々へのメッセージをまとめた連載コラムです。



敗戦後のモノのない時代に育った私どもの世代にとって、スポーツをするといえば設備のたいしていらないソフトボールやピンポンぐらいだった。草野球で育った世代である。


その頃、頭抜けてうまい者が一人いると、ピッチャーで4番、一人でチームを勝たせるヒーロー的な存在となった。ある時期まで、高校野球の甲子園出場チームにも、そんな存在がいた。


かし、大学や社会人野球、さらにプロにまで進めば、合理的役割分担が確立し、大きな組織の一部品がつとまるか否かが問われるようになった。投手には球数制限が課され、福岡ソフトバンクホークスの周東選手は足が速く、盗塁ができる一役割でレギュラーとなった。星飛雄馬のようなスーパーヒーローは、アニメの世界の話に過ぎないかに見えた。


ところがである。アニメ・漫画にインスピレーションを受けた日本の若者が、近年は本当にヒーローを演ずるようになった。


大谷翔平はその極致であり、エースにしてホームラン王を、なんと大リーグで演じている。


私どもの子ども時代は、古典の名作に志と勇気をもらったものである。今の子どもたちに夢と志を最大出力で提供しているのが、アニメなのである。


それにしても、かつては大リーグから見れば、日本のプロ野球は高校野球レベルと言われた。野茂英雄とイチローが革命を起こし、大リーグのスターとなった。いまや、高校野球時代の夢をもち続けた日本の若者が、大リーグの不世出のスーパースターになろうとしている。


戦前の日本は軍事力に賭けて滅びた。戦後の日本は平和的再生を目指し、経済大国となったが、バブルがはじけて経済賑わず、普通の先進国の一つとなった。


でも嘆くにおよばない。大谷翔平やコロナ下の東京オリンピックのメダルラッシュに見たように、思いがけない分野のスポーツでも世界のトップクラスになれる。


力も経済もいつの時代にあっても大切である。しかし文化とスポーツに秀でることの意味も捨てたものではない。


◎「SMBCマネジメント+」2021年10月号掲載記事

プロフィール

兵庫県立大学 理事長/公益財団法人ひょうご震災記念21世紀研究機構 理事長 五百旗頭 真

(いおきべ・まこと)1943 年兵庫県出身。京都大学法学部卒業。同大学法学博士。神戸大学法学部教授、防衛大学校校長、熊本県立大学理事長などを経て、2018年4月から兵庫県立大学理事長。この間、日本政治学会理事長、政府の東日本大震災復興構想会議議長などを歴任。文化功労者。『米国の日本占領政策』、『日米戦争と戦後日本』、『占領期―首相たちの新日本』、『戦後日本外交史』など著書多数。

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