Netpress 第2115号 苦戦中のシステム担当者、必読! 情報システムをクラウド化する基本方針の立て方
1.クラウドサービスは、長期的に利用してこそ、大きなメリットを得ることができます。「クラウド・バイ・デフォルト原則」―クラウドサービスの利用を第一候補(デフォルト)とする方針で、クラウド化を検討してみましょう。
2.業務への影響が比較的小さいものから着手し、順を追って着実に進めていくのが賢いやり方です。
さくら情報システム株式会社
技術開発部 松澤 文明
クラウドソーシング、クラウドファンディング、クラウドストレージなど、さまざまなものがインターネット上でクラウドサービスとして提供されており、国内のクラウドサービスは年率約20%という驚異的な成長が予測されているほど利用が増加しています。
しかし、多くのものがクラウドサービスになっているからこそ、「何をクラウド化すればよいのか?」「どうやってクラウド化したらよいのか?」といった悩みが出てくるのではないでしょうか。
今回は、そんな悩みの解決の一助となるように、企業の情報システムをクラウド化する際の基本的な方針、考え方について解説します。
1.企業の情報システムをクラウド化するメリット
クラウドにはいろいろな形式がありますが、全般的なクラウド化のメリットを改めて確認してみましょう。
(1)サーバ更改費用が減少
オンプレミスでは、ソフトウェアやハードウェアの保守切れに伴い、サーバ更改をしなければならず、数年に一度、一時的な更改費用とそれに関わる人的リソースが必要です。
クラウドサービスへ移行すると、そうした一時的な更改費用や人的リソースは不要となります。ただし、仮想サーバ形式でクラウドを使う場合には、プラットフォームのバージョンアップ対応などが利用者責任になりますので、注意しなければなりません。
(2)ハードウェアの運用に関する人的リソースが不要
オンプレミスでは、データのバックアップや監視、機械トラブルによる対応など、情報システム(特にハードウェア)を運用するための各種作業が必要です。
クラウドサービスへ移行した場合、サービス側で行ってもらえるため、そうした作業は不要になります。
(3)システムのサイズアップが簡単
利用者の増加や業務プロセスの変更などにより、サーバ(システム)の必要とする性能が変化します。
オンプレミスでは、それらを見越して高額なハードウェアを購入したり、時には入替えなどを行ったりします。
一方、クラウドでは、ワンクリックで対応することが可能です。ただし、自動拡張の機能などもあり、設定状況や費用については適宜、確認が必要になります。そうした確認を怠ると、思わぬ高額請求が続いたりするので注意しましょう。
(4)技術革新の恩恵を享受
これまで、機能を増やしたり、性能を向上させたりするには、製品のバージョンアップや機器の更改が必要で、その際に多額の費用がかかることもありました。
クラウドサービスでは、同じ費用のなかで、時間の経過とともに便利な機能が増えていくケースが多くあります。この点は、技術革新の恩恵といえるでしょう。
以上、クラウド化のメリットを再確認しましたが、一定期間(5年間)の費用を単純に比較すると、オンプレミスを更改するよりも、クラウドサービスのほうが高額になりがちです。しかし、上記(1)〜(4)のような長期的なメリットを加味した場合、クラウドサービスがよりよい選択になるケースが多いはずです。
2.クラウド化の基本方針
近年、日本政府もクラウド化を積極的に進めており、2018年6月に政府が示した「政府情報システムにおけるクラウドサービスの利用に係る基本方針」のなかに、「クラウド・バイ・デフォルト原則」というものがあります。これは、政府情報システムの構築・整備に際して、クラウドサービスの利用を第一候補(デフォルト)として考えるという方針です。
一般の企業でも、この基本方針や「クラウド・バイ・デフォルト原則」を参考に、クラウド化の基本的な方針を立てて実施するとよいでしょう。その際のポイントは、次のとおりです。
【クラウド化の検討準備】
次の①~⑤について、できる限り具体的に検討しましょう。
① | 業務の基本属性 | サービス利用者やサービスの種別など |
② | 必要なサービスレベル | サービス提供時間、災害対策など |
③ | サービス・業務の定常性 | 定常的か、試行的・一時的サービスか |
④ | 業務量 | 業務処理量の総量と変動の予測 |
⑤ | 取り扱う情報 | 情報の格付け、取扱制限 |
【クラウド化の検討の優先順位】
どの形式でシステムを利用できるか検討しましょう。この検討は、次の(1)〜(3)の順番に行います。
(1) | SaaS:クラウドサービスとして利用できるか |
(2) | PaaS/IaaS:クラウドサービス上でシステムを利用できるか |
(3) | オンプレミス |
3.企業の情報システムのクラウドの進め方
最初から基幹業務システムなどの難易度の高いシステムをクラウド化の対象として、更改に失敗してしまった場合、業務に甚大な影響を及ぼしかねません。
業務への影響が比較的小さいものから始めて、クラウド化のコツやノウハウ、知見を自社に蓄積し、少しずつ着実に進めていきましょう。具体的には、次の(1)から(3)のような流れになります。
(1) | メールやグループウェアといった、システム連携が少なく、顧客への影響が比較的小さいもの |
(2) | 人事給与、会計など、さまざまなシステムとの連携が多く、やや重要度が高いもの |
(3) | 基幹業務システムなど、重要度が高いシステム |
更改のために業務フローの確認、整理(見直し)を行い、場合によってはプロセス自体をシステムに合わせて変更することで、業務が高効率になるケースが多くあります。
その辺りを念頭に置きつつ、クラウド化を進めていくと、スムーズに行えるのではないでしょうか。
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