Netpress 第2114号 飛躍のチャンス! 「DX投資促進税制」の活用で企業変革を実現する

Point
1.DX投資促進税制を適用するには、「事業適応計画」を策定し、必要な認定を受けることが前提となります。
2.計画の策定や投資にあたっては、現場任せにせず、経営者自身がリーダーシップを発揮することが肝要です。


御堂筋税理士法人
税理士 上野 巧


2018年に経済産業省が発表した「2025年の崖」(2025年以降、最大で年12兆円の経済損失)を克服するためにも、新型コロナウイルスの感染拡大の影響など、ビジネス環境の激しい変化への対応として、「デジタルトランスフォーメーション(DX)」をスピーディに進めていくことが求められています。


すでに環境変化への対応策としてDX投資を進め、データ活用とデジタル技術を生かして大きく業績を伸ばしている企業もありますが、国内外での競争上の優位性を確立するためには、さらに推進していくことが求められています。


独立行政法人情報処理推進機構(IPA)によると、中小企業においてもAIの活用により従業員の意識向上や企業風土の改革を行い、生産性向上に成功している事例も一部にはありますが、まだまだ多くはないようです。


大きく変化している社会のニーズをもとに製品・サービスを改革していくには、経営者自身が明確なビジョンを示したうえで、会社全体でDXへの取り組みを効率よく進めていく必要があります。


本年度の税制改正により、ウィズ・ポストコロナ時代を見据え、デジタル技術を活用してビジネスモデルや働き方を変えていくことを目的とした「DX投資促進税制」が創設されました。


また、企業のデジタル面での経営改革を促進することを目的として、「DX計画認定制度」を追加した産業競争力強化法も改正施行され、いよいよ税制面の支援も進んできました。


生産性向上や売上高アップのためにもぜひ活用したい税制ですが、制度の適用を受けるには一定の条件をクリアする必要がありますので、その内容を確認していくことにします。

1.適用対象法人とDX認定取得

DX投資促進税制の適用対象法人は、青色申告書を提出する認定事業適応事業者である法人です。このため、産業競争力強化法に規定する事業適応計画を作成し、IPAの審査を経て事業所管大臣の認定を受けることになります。


計画が認定を受けるには、大きく分けて、次の「デジタル要件」と「企業変革要件」の両方を満たす必要があります。


(1)デジタル要件


①データ連携・共有(他の法人等が有するデータまたは事業者がセンサー等を利用して新たに取得するデータと内部データとを合わせて連携すること)
②クラウド技術の活用
③IPAの「DX認定」の取得(レガシー回避・サイバーセキュリティ等の確保)



(2)企業変革要件


①生産性向上または売上高上昇が見込まれる
 ㋐総資産利益率(ROA)が2014~2018年平均から1.5%ポイント向上
 ㋑売上高伸び率≧過去5年度の業種売上高伸び率+5%ポイント
②計画期間内で、商品の製造原価が8.8%以上削減されること等
③会社全体の意思決定に基づくもの


2.税制措置の概要

(1)指定期間

改正産業競争力強化法の施行日である2021年8月2日から2023年3月31日までの期間


(2)対象資産

認定事業適応事業者が、指定期間内に認定事業適応計画に基づいて事業適応の用に供する資産で、以下のもの



①ソフトウエア(新設もしくは増設)
②繰延資産(クラウドシステムへの移行に係る初期費用)
③機械装置および器具備品(ソフトウエア・繰延資産と連携するもので新品のもの)



(3)税額控除または特別償却額

対象資産を事業の用に供した日を含む事業年度において、税額控除または特別償却のいずれか一方を選択適用することができます。


なお、適用対象資産の取得価額は300億円で頭打ちとなり、投資額下限は国内売上高の0.1%以上とされています。



税額控除
・対象設備の取得価額の3%(グループ外法人ともデータ連携する場合は5%)
・税額控除上限額は、別途創設された「カーボンニュートラルに向けた投資促進税制」と合わせて、当期法人税額の20%まで
特別償却
・対象設備の取得価額の30%(所有権移転外ファイナンスリース物件は対象外)


3.DX投資を成功に導くために

多くの企業に内在する、既存システムの老朽化・複雑化・ブラックボックス化や、保守期限切れ問題を抱えたままでは、投資の効果も限定的なものになってしまうでしょう。


また、事業認定には全社的レベルの計画が必要で、既存システムの刷新等による従来の仕事のやり方の変更も生じると考えられており、「経営陣は掛け声だけで、あとはIT部門へ丸投げ」では、立ち行かなくなってしまいます。


DX投資の実施にあたっては、次のようなプロセスで進めていくことが想定されますが、投資効果を確実なものとするためには、経営者がリーダーシップを発揮し、社内部門間の意思統一を図ることが肝要です。



①現在の自社のビジネス環境について整理し、競争環境への影響を分析したうえで、経営ビジョンを実現するためのビジネスモデルの方向性を検討
②社内体制やITシステムの整備に向けた方策を含む「DX戦略」を策定
③取締役会の承認を取り、公表
④達成度を測定する指標や推進状況を管理する仕組みを検討して「DX戦略推進管理体制」を策定、公表
⑤経営者自身による戦略推進状況等の情報発信
⑥指標等による自己分析を行った結果のまとめ
⑦サイバーセキュリティ対策の実施と報告書のとりまとめ



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