Netpress 第2107号 便利だがトラブルも多発! 「直行直帰」にまつわる労務管理の急所と対応策

Point
1.コロナ禍は働き方を大きく変えましたが、感染防止の一環としても、直行直帰を行う機会が増えています。
2.一方で、労働時間などをめぐるトラブルも生じていることから、直行直帰の労務管理について確認します。


社会保険労務士 三田 弘道


「直行」とは、所属する会社に出社せずに、直接仕事先(顧客、営業先の会社など)に出向くことをいい、「直帰」とは、仕事先から直接自宅に帰ることをいいます。


新型コロナウイルスの感染対策として、決まった時間の通勤がなくなれば、満員電車を避けることができます。また、出社機会を減らし、社内感染を防ぐ効果もあります。もちろん、移動時間の短縮による生産性のアップ、交通費や残業代の削減、本人のモチベーションアップなど、感染対策とは関係のないメリットも挙げられます。


一方で、直行直帰には、社員の行動の管理ができない、コロナ禍でのやむを得ない直行直帰では、本来社内で行うべき業務が滞るといったデメリットもあります。


こうしたことを踏まえて、以下では直行直帰における労務管理のポイントを解説します。

1.直行直帰の場合の労働時間の考え方

直行直帰の労働時間の管理で問題になるのは、通勤時間と労働時間の境目がはっきりしないことです。


労働時間とは、「使用者の指揮命令下に置かれている時間」を指します。通勤時間は、この条件に当てはまらないため労働時間とはならず、賃金も発生しません。


直行直帰における通勤時間は、次のとおりです。


【直行】 → 自宅から訪問先に到着するまでの時間


【直帰】 → 訪問先から直接自宅に帰るまでの時間


したがって、訪問先が1社の場合の往復の時間は、すべて通勤時間になります。訪問先が複数あるときは、最初の訪問先までが通勤時間になり、その後の訪問先への移動は労働時間になります。訪問先から次の訪問先への移動は、労働から離れることを保証されているわけではなく、使用者の指揮命令下に置かれている時間と判断されるからです。そして、最後の訪問先から自宅に帰るときは、通勤時間になります。

2.労働時間の管理と事業場外みなし労働時間制

直行直帰の労働時間は、把握しやすいケースと、そうではないケースに分かれます。


把握しやすいのは、訪問介護のヘルパーなど、訪問時間やサービス提供時間が決まっているケースです。


一方、営業職などは突発的な移動が多く、労働時間を把握することが難しいといえます。こうした職種の場合、「事業場外みなし労働時間制」を導入しているケースが多くみられます。


事業場外みなし労働時間制は、会社以外の場所での労働について、労働時間の把握が難しい場合に、あらかじめ定めた一定時間、労働したものと「みなす」制度です。


この制度を適用するためには、次の3つの条件をクリアしなければなりません。



事業場外で業務に従事していること

使用者の具体的な指揮監督が及ばないこと

労働時間を算定することが困難であること


①は比較的クリアしやすい条件ですが、②と③については、携帯電話やパソコンなどを社外でも使う機会が増えており、クリアするのが難しくなってきていると思われます。


たとえば、次のようなケースは、事業場外みなし労働時間制の適用外と判断される可能性が高いでしょう。


・会社からの連絡を受けられるように、携帯電話等の電源を入れておかなければならない
・スケジュールを変更する場合、会社に携帯電話等で連絡をしなければならない
・詳細な訪問日時などを記載した報告書(日報など)の提出が義務付けられている
・携帯電話やメールなどで、随時、会社(上司)から指示を受けている
・複数のグループで事業場外労働をするとき、そのなかに社員を管理する者がいる


あくまでも、勤務の実態や状況を客観的に確認のうえ、「労働時間の算定が困難」かどうかで判断されます。

3.直行直帰のルール作成について

直行直帰でよくあるトラブルとして、「残業代の未払い」「長時間労働」「営業先が遠方の場合の遅刻・早退」「労働時間の不正申告」「情報の漏えい」「社員の自己管理不足」などが挙げられます。


こうしたトラブルを防ぐためにも、直行直帰のルールを明確にしておく必要があります。


具体的には、労働時間の管理方法、業務の進捗の報告、報告の方法やタイミング、事前申告制にするか否かなど、運用のルールを定めて、その内容を就業規則に記載します。


直行直帰は、労務管理の観点から、事前申告制にしておくことをおすすめします。事業場外みなし労働時間制を適用しているケース以外は、労働時間の把握が必要です。「社員が労働時間を正しく報告しない」「社外だから労働時間を把握できない」という状況にならないしくみを整えておきましょう。


ルールを定めたら社員に周知し、ルールに沿って運用できているか、随時、確認する必要があります。

4.勤怠をクラウド管理する場合の注意点

勤怠の管理について、タイムカード等による管理からクラウド管理に移行する会社が増えています。直行直帰の労働時間をクラウド管理する場合には、次の点に注意してください。


(1)打刻のタイミング

クラウド管理であっても、始業や終業などの正確な記録が大前提ですから、どのタイミングで打刻するのかを決めます。最近は、GPSで位置を知らせるサービスもあり、不正打刻を防ぐことができます。


(2)直行直帰時の活用方法

自宅から遠方の訪問先に直行する場合など、訪問先に到着した時間が始業時刻より後になるケースがあります。その場合に、クラウド上でどのように処理するのかを事前に決めておきます。


(3)訪問先での遅刻・早退

訪問先での遅刻・早退について、上司に直接連絡するのか、クラウド上で申請するのかなどを明確にしておきます。


なお、クラウドにより現場で打刻できるときは、労働時間の管理ができているとみなされ、事業場外みなし労働時間制は適用されませんので、注意が必要です。



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