Netpress 第2528号 違法と判断されないために 法令からみた「退職勧奨」を行う際のポイント
1.退職勧奨は自由に行うことができるとされていますが、その手段や方法等が社会通念上相当な範囲を超えると、「退職強要」として違法となるリスクが生じます。
2.近年のパワーハラスメント防止措置の義務化を踏まえ、退職勧奨の態様には十分配慮したうえで対応する必要があります。
退職勧奨とは、使用者が労働者に対して自発的な退職を促す働きかけをいいます。そのため、これに応じる否かは労働者の自由な意思に委ねられており、退職勧奨自体が直ちに違法となるものではありません。しかし、その手段や方法等が社会通念上相当と認められる範囲を逸脱した場合には、違法となる可能性があります。
そこで本記事では、違法となり得るポイントや近年のパワーハラスメント(以下「パワハラ」といいます)防止措置の義務化を踏まえ、実務上の留意点を整理します。
1.退職勧奨の適法性に関する基本的な考え方
退職勧奨は、それ自体は事実行為とされており、法令上の規制は特になく、使用者はいつでも自由に労働者に対して退職勧奨を行うことができるものとされています。
他方で、労働者が退職勧奨に応じるか否かについても自由とされています。
このように退職勧奨は、使用者と労働者双方の自由な意思に基づく合意形成のための手段にすぎず、退職を強制することは許されません。
そして労働者の退職に関する自己決定権を侵害するような退職勧奨がなされた場合には違法とされ、使用者は不法行為に基づく損害賠償責任を負う可能性があります。
退職勧奨の適法・違法の判断にあたって考慮される事情としては、主に次のようなものがあります。
| ① 退職勧奨の態様(回数、期間、時間、人数等) |
| ② 退職勧奨における言動(侮辱的な言葉、名誉感情を害する言辞、虚偽や不正確な内容等) |
| ③ 不当な権限行使(嫌がらせ目的等) |
| ④ 優遇措置の有無(退職金の上乗せ等) |
| ⑤ 被勧奨者の選定の合理性(恣意的、差別的取扱い等) |
このような事情を総合的に勘案し、労働者の自由な意思決定が妨げられる状況であったか否かを基準として、適法・違法を判断するものとされています。
2.退職勧奨が違法と判断された場合の使用者の責任
前述のとおり、違法な退職勧奨であると認められた場合、使用者は、労働者に対して不法行為に基づく損害賠償義務を負う可能性があります。
損害賠償の範囲については、主に精神的苦痛に対する慰謝料が想定されますが、状況によっては逸失利益(再就職までの賃金相当額)や治療費等が認められる場合も考えられます。
さらに、違法な退職勧奨によってなされた退職の意思表示は、錯誤や強迫を理由として無効・取消しの対象となる可能性があります。
その場合、退職から判決確定時までの期間の賃金(バックペイ)の請求が認められる可能性があります。
退職勧奨を行う場合には、このようなリスクに留意する必要があります。
3.パワハラ防止措置義務との関係
近年、退職勧奨を検討するうえで重要となるのは、パワハラ防止措置義務との関係です。
労働施策総合推進法30条の2は、事業主に対し、職場におけるパワハラを防止するために必要な雇用管理上の措置(事業主の方針の明確化と周知・啓発、相談体制の整備、迅速かつ適切な対応、不利益取扱いの禁止等)を講じる義務を課しています(2022年4月1日より、すべての事業主に適用があります)。
パワハラは、優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることと定義され、その類型の一つとして、従業員に対する「精神的な攻撃(脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言)」が挙げられています。
そしてそれは、前頁「1.退職勧奨の適法性に関する基本的な考え方」の退職勧奨の適法・違法の判断にあたって考慮される事情としての「②退職勧奨における言動」と重なることが考えられます。
そのため、たとえば、労働者の名誉感情を不当に害する言辞で行われた退職勧奨は、それ自体が違法であるとともに、パワハラとしての評価を受けることも考えられます。
労働施策総合推進法33条は、厚生労働大臣がパワハラ防止措置義務に違反している事業主に対して勧告、公表をすることができるものとしており、事業主としては、リスク管理の一環として退職勧奨の適法性を認識する必要があると考えます。
4.実務上の留意点
以上を踏まえ、企業における実務上の留意点について若干整理します。
基本的な方針は、退職勧奨の適法・違法の判断にあたって考慮される事情(前頁1の①〜⑤等)を意識することとなります。
具体的には、次のような対応等が考えられます。
| ・必要以上に勧奨を行わないこと ・面談を行う場合には、圧迫面談とみられることがないように配慮すること ・適切に把握した事実に基づく内容とし、侮辱や虚偽となる内容を避けること ・可能であれば優遇措置を設けること |
また、場合によっては、無理に退職勧奨を推し進めるのではなく、就業規則に基づく懲戒処分や人事権の行使等を検討することも必要です。
退職勧奨を行うにあたっては、労働者の自由な意思決定を尊重することを基準として持ち、慎重に対応することが重要となります。
◎協力/日本実業出版社
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