IPOにおける労務管理の重要ポイント ④フレックスタイム制度の運用

はじめに
 これまでに解説した「労働時間の把握」「割増賃金の支払」とも関連が強い「フレックスタイム制度」について解説します。これは、労働基準法(以下、労基法)で定められている労働時間制度の一つです。
 フレックスタイム制度は、労働者が日々の始業及び終業の時刻を選択できるため、近年、多様な働き方の推進を目的として導入する企業が増えています。こうした環境を整えることは、優秀な人材の確保にも有効です。
 一方で、IPOを目指す企業にとってはリスクとなるケースがあります。柔軟な働き方が可能な反面、その運用には誤解も多く、結果として適切な労働時間管理ができていないことが問題となります。いくら柔軟な制度であっても、労働時間の把握・管理義務は免除されません。また、労働者に時間を委ねる結果、偏った働き方になる場合もあるため、企業として適切な健康管理を行わないと安全配慮義務違反を問われるリスクもある点に注意が必要です。
 そこで今回は、フレックスタイム制度の運用について解説します。


1. フレックスタイム制度の導入の手続き

 フレックスタイム制度の運用にあたり、まずは導入手続きが法的に正しく行われているかを確認する必要があります。労基法第32条の3では、就業規則等で始業及び終業の時刻を労働者に委ねる旨を定めた上で、労使協定で以下の事項を締結(清算期間が1か月を超える場合には届出も必要)することが要件とされています。


対象となる労働者の範囲

清算期間

清算期間中の総労働時間

標準となる1日の労働時間

コアタイム・フレキシブルタイムを定める場合には、その時間帯の開始及び終了の時刻


 フレックスタイム制度は始業および終業の時刻の双方を労働者に委ねる必要があるため、定刻の朝礼などにより始業時刻が固定されている場合は制度の要件を満たしません。

 また、休憩時間は労働者に委ねる対象外であり、労基法通りに与える必要があります。取得時間帯も委ねる場合は、就業規則で休憩の長さを定めた上でその旨を規定します。なお、一斉休憩の原則が適用される業種では、一斉休憩の適用除外に関する労使協定の締結も必要となることに注意しましょう。


2. 労働時間のカウントのルール

 フレックスタイム制度では、週40時間、1日8時間を超えても直ちに時間外労働にはなりません。労働時間は日単位・週単位ではなく清算期間ごとに集計し、その清算期間における法定労働時間の総枠を超えた分が時間外労働となります。なお、清算期間が1か月を超える場合はルールが複雑になりますが、「総枠を超えた分が時間外労働になる」という基本は共通です。今回は、原則となる1か月を超えない場合を解説します。


(1)法定労働時間の総枠の計算式

 フレックスタイム制度を正しく運用するためには、まず対象期間における法定労働時間の総枠を正確に把握し、日々の労働時間を注意して集計する必要があります。法定労働時間の総枠は、以下の計算式で求められます。

【 1週間の法定労働時間(原則40時間) × 清算期間の暦日数 ÷ 7 】 ※1

 [図表1] 法定労働時間の総枠

清算期間
の暦日数
法定労働時間の総枠
(週40時間の場合)
法定労働時間の総枠
(週44時間の場合※2)
31日177.1時間194.8時間
30日171.4時間188.5時間
29日165.7時間182.2時間
28日160.0時間176.0時間


※1 各時間数は、計算結果に1分未満の端数(小数点第2位以下)が出た場合、切り捨てて表示しています。

※2 特例措置対象事業場(常時10人未満の労働者を使用する商業、映画・演劇業〈映画の製作の事業を除く〉、保健衛生業、接客娯楽業)では44時間として計算します。


 なお、清算期間の途中で入退社があった場合も、在籍日数に応じて総枠を日割り計算します。特に、前半に多く働き後半で抑える予定が途中で退職となったケースなど、思わぬ時間外労働が発生している可能性があるため注意が必要です。


(2)完全週休2日制の事業場における特例

 完全週休2日制の事業場では、1日8時間勤務であっても曜日の巡りによっては清算期間の所定労働時間が法定労働時間の総枠を超えてしまう場合があります。例えば[図表2]のように、時間外労働がなくても23日×8時間=184時間となり、本来の総枠である177.1時間を超えてしまいます。

 この不都合を解消するため、労使協定の締結により「所定労働日数 × 8時間」まで総枠を引き上げることが可能となります。そのため、自社のカレンダーに応じた総枠を正しく理解し、36協定の上限を超えないよう管理することが重要です。


[図表2] 完全週休2日制のカレンダー例



12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
2728293031

 
(例)暦日数が31日の場合
所定労働日数   : 23 日
1日の所定労働時間: 8 時間
月間の所定労働時間:184 時間(23日×8時間)
法定労働時間の総枠:177.1 時間
※完全週休2日制の特例により、労使協定を締結すれば総枠が184時間になります 
 














(3)休日労働及び深夜労働の取り扱い

 フレックスタイム制度であっても、休日労働や深夜労働の扱いは通常の労働時間制と同様です。まず、法定休日労働は通常の労働日とは別に集計して把握する必要があります。法定休日以外の所定休日での労働は、原則として通常の労働時間と合算し、清算期間の総枠を超えた分を時間外労働として取り扱います。

 また、午後10時以降の勤務は深夜労働となり、割増賃金の支払いが必要です。「フレックスだから割増不要」という誤解も見受けられますが、フレキシブルタイムが深夜に及ぶ場合などは発生リスクが高くなります。そのため、日々の勤務状況を正しく集計し、適切に管理することが重要です。


3. 最後に

 従業員の働きやすさを重視してフレックスタイム制度を導入している企業は多いと思います。しかし、導入の手続きや日々の正しい労働時間管理を怠っていると、結果として未払賃金などの問題を抱えることになり、IPOに向けての大きな障壁となってしまう可能性があります。

 IPOを目指すのであれば、フレックスタイム制度の取扱いは非常に重要なポイントの一つとなります。多田国際社労士法人では、IPOを目指す企業様の導入支援を行っております。ぜひお気軽にご相談ください。




プロフィール

多田国際コンサルティング株式会社 IPO事業部マネージャー 木村統

私たち多田国際コンサルティンググループは、多田国際コンサルティング株式会社と多田国際社会保険労務士法人で構成しております。

多田国際コンサルティング株式会社では、労務分野の豊富な知見をベースとした、専門性の高い人材・組織系のコンサルティングサービスにより、人事制度、人材育成、労務管理等はもちろん、 IPO、M&A、海外進出といった企業を取り巻く様々な課題の解決を通して、企業価値向上をサポートして参ります。

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