Netpress 第2524号 2026年12月改正法施行 内部通報制度の仕組みと改正を踏まえた実務対応
1.内部通報制度は、経営上のリスクを早期に発見・是正することによって企業のコンプライアンスを推進するための重要な仕組みです。
2.通報窓口の複数設置や、社内での周知活動など、制度を利用しやすくし、形骸化させない取り組みが重要です。また、通報者保護のための秘密保持が制度への信頼の基盤となります。
3.2026年12月1日に施行される改正公益通報者保護法(以下、「改正法」といいます)を踏まえた実務対応について説明します。
1.内部通報制度と公益通報
公益通報者保護法は、特定の法令(2026年6月現在、通報対象となる509本の法律が指定されています)についての法令違反行為を通報した労働者等を、不利益な取扱いから保護する法律です。
保護の対象となる「公益通報者」には、正社員、契約社員、パート、派遣労働者、退職後1年以内の者、役員が含まれます。さらに、改正法により、フリーランスや、業務委託関係が終了して1年以内のフリーランスも対象に含まれることになります。
公益通報者保護法の対象になる通報(公益通報)の内容は、特定の法令違反行為に限られていますが、実際に企業の内部通報の窓口に寄せられる通報の内容を見ると、法令違反のみならず、社内ルール違反やハラスメントに関する通報などの多様な内容が含まれているのが通常です。
内部通報制度の目的は、企業のコンプライアンス・リスクを早期に発見・是正することにあります。そのため、内部通報の仕組みにおいては、公益通報者保護法の対象になるかどうかにかかわらず、企業のコンプライアンス・リスクに関わる内容について、広く調査・対応の対象として取り扱うことが適切です。
2.体制整備と周知のポイント
(1) 体制整備義務の強化
公益通報者保護法では、常時使用する労働者数が300人超の事業者において、公益通報に適切に対応するための体制整備が法的義務とされています(300人以下の事業者においては努力義務)。
体制整備にあたっては、社内規程を制定し、通報の受付から調査、是正措置に至る業務フローや、法律上重い守秘義務を負う公益通報対応従事者(従事者)の指定や任務について、明確に定めておく必要があります。
(2) 通報窓口の整備
通報をしやすくするためには、社内窓口を設置するとともに、一定の独立性のある外部窓口(法律事務所など)を設置することが有用です。
通報先の窓口の選択肢が社内の一つの部署に限られていると、心理的なハードルから通報がためらわれる場合があります。
匿名の通報については、原則として、受け付ける設計が妥当です。
(3) 周知活動
内部通報制度の運用にあたっては、経営トップ自らが「内部通報は企業を守る正当な行為」であると継続的に発信することが重要です。
改正法では、事業者が労働者等に対して通報窓口等の体制を周知する義務が明記されています。ポスター掲示や研修などによる全社的な周知活動が求められます。
3.通報者保護と適切な調査の徹底
(1) 通報者探索等の禁止
通報者が「通報したことが周囲に知られ、不利益を受ける」事態は避けなければいけません。通報者を特定させる情報の共有は、調査等に必要な最小限の範囲に限定します。
改正法では、正当な理由なく通報者を特定しようとする通報者探索(通報者探し)が明確に禁止されています。
あらかじめ通報しない旨の合意を求めたり、通報を妨害したりする行為も禁止され、これに違反する合意は無効となります。
(2) 適切な調査とフィードバック
調査の開始の有無、結果、是正措置について、プライバシー保護に支障のない範囲で、通報者に適切に通知(フィードバック)することが重要です。
調査にあたっては、通報対象事案に関係する役職員を関与させず、中立性と公平性を確保する必要があります。経営幹部が関与する事案では、監査役や社外役員が対応するなどの仕組みが望まれます。
4. 刑事罰と立証責任の転換
改正法では、公益通報を理由として解雇や懲戒を行った場合、制裁としての刑事罰が新設されます(意思決定に関与した個人には6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金、事業者には3,000万円以下の罰金)。
民事紛争についても、通報後1年以内の解雇・懲戒は「公益通報を理由としてなされたものと推定」される規定(立証責任の転換)が新設されます。
解雇・懲戒の効力が争われた場合、事業者は「処分が通報とは無関係な正当な理由によるものであること」を客観的証拠で証明する必要がありますから、日頃から、人事評価や指導記録等の記録を適切に作成・保存する体制が不可欠です。
5. ハラスメント相談窓口との関係
事業者は、パワハラ防止法等に基づきハラスメント相談窓口を設置する義務を負っています。2026年10月1日以降は、カスハラに関する体制整備も法的義務となります。
消費者庁の調査によれば、内部通報窓口とハラスメント相談窓口を一本化して運用する企業は約6割に上ります。
なお、ハラスメント事案は被害者のプライバシーやメンタルケアなどに特有の配慮が求められるため、人事部門等と連携した柔軟な運用体制を敷くことが重要です。
6. おわりに
内部通報制度を企業のリスク管理に積極的に活用するためには、継続的な運用改善や仕組みをアップデートしていくことが重要です。
改正法を踏まえ、人事労務のあり方を含めた総合的な体制の点検を行うことが望まれます。
◎協力/日本実業出版社
日本実業出版社のウェブサイトはこちらhttps://www.njg.co.jp/
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