Netpress 第2104号 認定・給付は? 新型コロナ感染・テレワークの労災保険の取り扱い

Point
1.新型コロナウイルスに感染した場合、医療従事者や介護業務従事者以外の労働者でも、労災保険給付の対象となる場合があります。
2.在宅勤務をしている労働者、テレワークを行う労働者についても、事業場における勤務と同様に、労災保険給付の対象となる場合があります。
3.ここでは、新型コロナウイルスに感染した場合と、在宅勤務・テレワークで労働する場合について、労災保険給付が受けられる条件や留意点を解説します。


社会保険労務士法人NACマネジメント研究所
特定社会保険労務士・中小企業診断士
小林 弘和


労災保険は、業務上の事由または通勤による労働者の負傷・疾病・障害または死亡に対して、労働者やその遺族のために必要な保険給付を行う制度です。


業務に起因してけがをしたり病気にかかった場合や通勤途上で災害に遭った場合には、正規雇用、非正規雇用などの雇用形態にかかわらず、次のような労災保険給付が受けられます(カッコ内は、通勤災害での給付)。



1.療養補償給付(療養給付)
業務上または通勤による傷病により、労働者が療養を必要とする場合に支給される。
2.休業補償給付(休業給付)
業務上または通勤による傷病の療養のために働くことができず、給与が支給されない場合に、休業4日目から支給される。
3.遺族補償給付(遺族給付)
遺族補償年金(遺族年金)と遺族補償一時金(遺族一時金)があり、業務上または通勤により死亡した労働者の遺族に支給される。



以下、新型コロナウイルスに感染した場合と、在宅勤務・テレワークで労働する場合について、労災保険給付が受けられる条件や留意点を解説します。

1.新型コロナウイルスに感染した場合の取り扱い

労働者が新型コロナウイルスに感染した場合、「業務によって感染したもの」と認められる場合には、労災保険給付の対象となります。


(1)業務によって感染したものと認められる場合

感染経路が業務によることが明らかな場合や、感染経路が不明な場合でも感染リスクが高い業務に従事し、それにより感染した蓋然性が強い場合には、「業務によって感染したもの」と認められます。


なお、患者の診療もしくは看護の業務または介護の業務等に従事する医師・看護師などの医療従事者、介護業務従事者等が新型コロナウイルスに感染した場合には、業務外で感染したことが明らかである場合を除き、原則として労災保険給付の対象となります。


医療従事者や介護業務従事者以外の労働者が感染した場合は、個別の事案ごとに労働基準監督署が業務の実情を調査のうえで、業務との関連性(業務起因性)が認められるか否かを判断します。


感染経路が判明し、感染が業務によるものである場合は、労災保険給付の対象となります。感染経路が判明しない場合であっても、感染リスクが高いと考えられる業務(複数の感染者が確認された労働環境下での業務や顧客等との近接や接触の機会が多い労働環境下での業務など)に従事していた場合は、労働基準監督署が個別に業務との関連性を判断することになります。


(2)感染リスクが高いとされる業務とは

感染リスクが高いと考えられる「複数の感染者が確認された労働環境下」とは、対象者を含めて2人以上の感染が確認された場合をいいます。対象者以外の他の労働者が感染している場合のほか、たとえば施設利用者が感染している場合等が想定されています。また、「顧客等との近接や接触の機会が多い労働環境下」での業務として、小売業の販売業務、バス・タクシー等の運送業務、育児サービス業務等が想定されています。


なお、上記以外の業務でも、感染リスクが高いと考えられる労働環境下の業務に従事していた場合には、潜伏期間の業務従事状況や一般生活状況を調査のうえ、個別に業務との関連性を判断します。

2.在宅勤務・テレワークの場合の取り扱い

在宅勤務・テレワークを行う労働者についても、会社での勤務と同様に、労災保険給付の対象となります。


(1)労災保険給付の対象となるための要件と留意点

業務災害として労災保険給付の対象となるためには、労働契約に基づいて事業主の支配下にあって生じた災害であることが要件となります。したがって、私的な行為など業務以外の行為が原因である場合には、労災保険給付の対象とはなりません。


在宅勤務やテレワークの場合は、さまざまな私的な行為が行われることが多いと考えられ、業務と私的な行為との切り分けが問題となります。そのため、この業務か私的な行為かについての確認が、労災保険給付の対象となるか否かのポイントです。


たとえば、自宅で所定労働時間にパソコン業務をしていたが、トイレに行くため作業場所を離席したのち、作業場所に戻り椅子に座ろうとして転倒した事案があります。


この事案については、業務行為に付随する行為に起因して災害が発生しており、私的な行為によるものではないため、業務災害と認められています。


しかし、同じ就業時間中であっても、自宅のベランダで洗濯物を取り込む行為や個人宛の郵便物を受け取る行為で転倒してけがをした場合には、私的な行為が原因であるとされ、労災保険給付の対象とはなりません。


(2)通勤災害の対象となる場合

通勤災害とは、労働者が就業に関し、住居と就業の場所の往復等を合理的な経路・方法で行うこと等によって被った負傷等をいいます。


サテライトオフィス勤務やモバイル勤務の場合、自宅から就業場所への移動中の事故は、通勤災害と認められるケースもあるでしょう。


一方、在宅勤務・テレワークでは、自宅が就業場所となるため、通勤災害と認められる余地はほぼないものと考えられます。ただし、業務上の必要性などから会社への出社を求められた場合には、その途上で発生した災害は、通勤災害と認められることになるでしょう。



新型コロナウイルスに感染した場合も、在宅勤務・テレワークの場合も、状況によっては、労災保険給付の対象となります。労災保険の給付内容は、健康保険の給付より労働者にとって有利です。この点を従業員にも周知したうえで、正確に状況を把握して、業務が原因と疑われる場合には、労災保険給付の請求をするようにしてください。


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