研修界隈 第三回 未来を見据え、自ら正解を定義する役員に必要な「視座」と「哲学」とは
PROFILE
HRビジネスソリューションズ株式会社代表取締役社長。東京大学経済学部卒。外資系の大手人事コンサルティング会社の日本代表を経て現職。人事制度改革、人材育成、組織活性化などで、民間企業から公的機関に至るまで数多くの支援実績を有する。講師を務めるビジネススクールも人気を博している。『10年後の人事』など著書多数。
役員だからこそ学ぶべき哲学がある
社員向け研修のニーズが高まっているという昨今。そこには、どんな理由があるのだろう。
知久 2015年4月に初めて、上場企業に向けてコーポレートガバナンス・コードというルールが整備されたこともあり、役員向けの研修のニーズがグッと高まりましたよね。
舞田 加えて、先行きが不透明な時代になったことで、上に立つ者も学び続けなければならないという意識が芽生えたことも大きいです。かつては「役員に研修なんて不要」という風潮がありましたが、それが見直されてきた。今では社外取締役の立場で受講される方も多いですね。
社内外で実績を積み「役員」となったビジネスパーソンが、改めて研修を受ける意義とは。舞田氏は、「必要な技術はもちろんのこと、役員だからこそ学ぶべき哲学がある」と強調する。
舞田 大前提として、役員と一般の従業員は、いわば次元が違う存在なんです。ゆえに身に付けるべきことも異なります。役員に必要な「技術」はありますが、それは正解を学べばいい。一方の「哲学」には明確な正解があるわけではない。役員は会社のあり方や組織の導き方など、経営に関する自分だけの哲学をもたなくてはなりません。
知久 正解を学べばいい立場から、自分で答えを定義する立場へと変わるわけですね。
舞田 その通りです。他人から聞きかじった答えを流用するのでは意味を成しません。自分で考え、「私はこう思う」と言い切れる存在になる。それが役員として上に立つということです。
知久 先生のセミナーの受講者アンケートでは、「矛盾の両立」という言葉をよく見かけます。
舞田 そこは、私のセミナーにおいて重要なポイントです。経営は、短期と長期、財務的安定と挑戦的投資といった、いくつもの矛盾を抱えるもの。そこでバランスを取り、対立することを両立させるには、やはりその人なりの哲学が不可欠なのです。
舞田氏は「従業員だったときとは、求められる視座が異なる」と続ける。
舞田 たとえば部長だった頃は、自分の部の今年の目標を達成すればよかった。しかし役員は、10年後、30年後、100年後の会社を考えなくてはなりません。また、顧客だけでなく株主も満足させないといけない。お金を必要経費ではなく、投資として使うことも必要。役員には、従業員の延長線上ではない、高い視座が求められます。そういう意味でも次元が違うわけです。
知久 同じ会社にいても、見るべき世界がまったく違うということですね。
舞田 それにもかかわらず、多くの日本企業では、課長、部長、役員と連続的に昇進するため次元を超えられず、従業員の視座のまま考える癖がついています。役員は全社を横断的に見て、「この事業をやる・やめる」「こういう人材を増やす・減らす」といった決断を行う立場です。

独自の講義スタイルで哲学を磨く機会を創出
続いては舞田氏の講義スタイルについて。これまでの経験から、「講師が喋る分量が少ないほど、受講者の満足度が高まる」のだと舞田氏は笑顔で語る。
知久 舞田先生の場合、講義の進め方も特徴的ですよね。対話が中心といいますか。
舞田 そうですね。一方的に話すより、受講生に問いかけたり、話し合ってもらったりすることが多いです。イメージとしては、ジャムセッション(※楽譜やアレンジにとらわれず、相手の音を聴きながら、即興で楽しむ演奏形式のこと)でしょうか。
知久 そのプロセスが、それぞれの哲学を見つけていくことにつながるということですね。
舞田 技術は学ぶことで得られても、哲学は自分の言葉で語ることでしか磨かれませんからね。語った言葉へのさまざまなフィードバックがあり、さらに一段深いところで考え、また発言する。その繰り返しの中で、自らの哲学を確立する手掛かりを見つけてほしいと思っています。
「新任取締役・執行役員セミナー」では、舞田氏が専門とする人事・組織マネジメントにおける役員のあり方のほか、経営戦略や財務、ガバナンスなどさまざまなプログラムが揃う。
知久 先生のお話を聞いていると、どの分野においても学び続けることに意義があるのだと改めて感じます。
舞田 役員には2次元の視野、3次元の視座に続き、「4次元の視点」、すなわち時間軸をもってほしい。それも、千年単位の「歴史的世界観」です。今の世界の対立構造やパワーバランスは、歴史を遡らなければ決して理解できませんよね。歴史的世界観をもち、山頂から世界を見渡すような視座の転換こそが、役員として機能するためには不可欠。教養としての歴史にまで目を向け、学び続けられるような役員が増えれば、日本企業は変わっていくはずです。
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◎文/明日陽樹 写真/小嶋淑子
◎「SMBCマネジメント+」2026年6月号掲載記事
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