Netpress 第2103号 一歩先のDX推進に向けて データをもっと有効活用するための「外部とのデータ連携」

Point
1.DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進で不可欠なデータ活用において、自社保有データの活用だけでなく、外部とのデータ連携にも関心が高まっています。
2.2021年度税制改正で創設されたDX投資促進税制では、認定要件の一つに「データ連携・共有」があります。
3.外部とのデータ連携で課題となるデータセキュリティやプライバシー保護への対応策として、「秘密計算」という新しい暗号技術が注目をされています。


EAGLYS株式会社
Business Development ディレクター
矢次 弘志


1.企業の競争力を左右するDXとデータ活用の重要性

ビジネス環境の変化への対応や競争力向上を目的として、DX(デジタルトランスフォーメーション)への取り組みが多くの企業で活性化しています。


それを後押しするように、2020年5月15日に施行された「情報処理の促進に関する法律の一部を改正する法律」に基づき、「DX認定制度」がスタートしました。本制度は、DXへの優良な取り組みを行う事業者を認定するものとなっており、本記事執筆時点(2021年7月26日)で、累計141社が認定を受けています(次頁※1)。


DXへの具体的な取り組みは企業ごとに異なるものの、不可欠な要素の一つにデータ活用があります。生産性向上やマーケティング戦略、商品開発など、企業活動のさまざまな分野でデータ活用が求められています。

2.ニーズの高まる外部とのデータ連携

近年、データ分析の取り組みに積極的な企業を中心にニーズが高まっているのが、外部とのデータ連携です。


一般的に多くの企業は、顧客情報や販売履歴、Webサイトのアクセス履歴といった自社で保有するデータを活用してデータ分析を行っています。しかしながら、より精度の高いデータ分析を行いたい場合、自社が保有するデータだけでは不十分なことがあります。


例として、キャッシュレス決済が中心の小売事業者におけるデータ活用を考えてみましょう。


小売事業者では、POSデータの分析がよく行われています。POSデータの分析を行うことで、商品の販売傾向(商品種別、時間等)を知ることができるため、分析結果を活用することで効果の高い商品陳列やキャンペーン等を計画することが可能となります。


ここで、商品の販売傾向に加えて「どのような人が購入したのか」といった情報もあると、さらに精度の高い分析ができるようになりますが、一般的に小売事業者が保有するPOSデータには、購入した人についてのデータ(属性情報)がないため、分析することはできません。そのデータを持つのは、たとえば決済で使用された電子マネーの発行会社です。


消費者の属性情報は、多くの小売事業者にとって活用ニーズの高いデータながら、他社の保有する機密データであり、簡単に入手することはできません。ここに、外部とのデータ連携ニーズがあります。


外部とのデータ連携を実現することで、自社が保有するデータを他社へ提供する、あるいはその逆の取り組みを通じて、新たなデータ活用やデータビジネス創出が可能となります。


関連する動向として、2021年度税制改正で創設されたDX投資促進税制(※2)があります。


本税制は、要件を満たすデジタル関連投資に対して、税額控除や特別償却を措置するものとなっており、その認定要件の一つとして、まさにデータ連携・共有があります。


このことは、社会的なデータ連携へのニーズの高まりを示すものとも考えられるのではないでしょうか。



3.新技術「秘密計算」とは

他社が使いたいと思うデータには価値があり、必然的にその多くは機密性が高く、個人情報においてはプライバシー保護が非常に重要です。


以前からデータ連携の取り組みは存在していましたが、その多くはデータセキュリティやプライバシー保護の事情から、匿名化や人手を介したデータ配送など、必ずしも効率的でないプロセスや個別対応によって実現されていました。結果、大きな人的コストの発生や、持続性のない点が課題となっていました。


理想をいえば、システム化をして自動的に企業間でデータ連携を可能にしたいところですが、従来の技術では複数組織のデータを秘匿して連携することは簡単ではありませんでした。


これを解決するための有効な技術の一つが「秘密計算」です。秘密計算とは、データを暗号化したまま処理できる新しい暗号技術のことです。


秘密計算は、今後のデータ活用における重要インフラ技術として、世界的にも大変に注目をされています。データを暗号化したまま処理できる性質を活かすことで、外部とのデータ連携においては、データの中身を他社へ開示することなく、分析結果だけを提供するといった仕組みを実現することができます。


今後のデータ活用への取り組みにおいて、外部とのデータ連携に関心があれば、秘密計算の活用を選択肢の一つに考えてみてもよいかもしれません。


※1 独立行政法人情報処理推進機構 「DX認定制度 認定事業者の一覧」

https://disclosure.dx-portal.ipa.go.jp/p/dxcp/top


※2 経済産業省 「令和3年度(2021年度) 経済産業関係 税制改正について」

https://www.meti.go.jp/main/yosan/yosan_fy2021/pdf/zeisei.pdf



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