Netpress 第2493号 強力なツールだがリスクも! 採用活動における 生成AI対応と活用術
1.大学生等の就職活動、また企業の採用プロセスにおいても、生成AIを利活用する機会が増えています。
2.生成AIをめぐる就職・採用活動の現状を踏まえて、企業の生成AIへの対応と活用術について解説します。
近年、大学生を中心とした就職活動において、生成AIの利用が急速に広がっています。もはや一部の学生が新しい技術を試している段階ではなく、ほとんどの学生が当たり前にAIを使って活動する時代に突入しています。
それと同時に、企業の採用活動においても、面接記録の要約、候補者への自動応答、エントリーシートのスクリーニングなどでAIが導入され始めています。
採用活動におけるAIの役割は、「人事の役割を奪う」のではなく、「人事が本来果たすべき仕事に集中できる環境を整える」ことにあります。そのためには、単純にAI導入の是非を問うのではなく、AIを前提とした選考設計と人の介在の仕方を考えることが不可欠です。
1.求職者側のAI活用実態
学生側がAIを使う場面は、エントリーシートの作成・推敲をはじめ、自己PRや志望動機のブラッシュアップなどです。
模擬面接の準備として、AIに質問をつくらせたり、回答例を生成させたりする手法も広がっています。学生にとっては「ポケットの中の面接官」を手に入れたようなもので、場所や時間を問わず繰り返し練習できる点が魅力です。
また、AIの活用は安心感を与える効果も持っています。AIを使えばいつでも面接などの練習ができ、フィードバックも即座に得られるため、学生は面接に対してより高い「自己効力感」(自分は必要な行動をうまく遂行できるという信念や確信)を持つことができます。これは、自信を持って面接に臨む心理的な土台を築くうえで重要です。
ただし、AIの活用にはリスクも存在します。AIが生成する文章をそのまま使用すると、学生の表現が似通い、独自性や個性が失われる危険があります。AIは事実を誤認したり、論理に不自然な飛躍が生じたりすることもあります。
また、AIの提案を無批判に受け入れてしまうと、面接時に矛盾や不自然さが露呈し、結果として採用担当者が「違和感」を抱く可能性が高まります。
このように、学生側のAI活用には効率性と洗練をもたらす利点がありますが、その一方で個性や真実性を薄める危険があるという二面性を持っています。
企業側は、この現実を踏まえたうえで採用プロセスを設計することが求められています。
2.求職者のAI活用への企業側の対応
学生側のAI活用が一般的になる一方で、企業側の対応はまだ模索段階にあります。学生側のAI活用に対して、明確な姿勢を定められていない企業が少なくありません。
評価される学生側の認識も、企業側のAI利用に対しては複雑なようです。数値化が可能な領域はAIに評価されてもかまわないが、人間性や感情に関わる部分は人に見てもらいたいという意識も見られます。この点は企業側の意識とも共通しており、効率性と真実性の間で双方が揺れているといえます。
このような状況を踏まえ、企業側に求められるのは「AIを使うか使わないか」という二項対立を超えた対応です。
学生側がAIを使うことは前提とするしかありません。だからこそ、「AIによって整えられた表現の背後にある本人の体験や価値観をどう引き出すか」という選考設計に移行する必要があります。たとえば、エントリーシートの内容を事実確認型の面接で補い、具体的なエピソードを深掘りする質問を増やすことなどが考えられます。
3.企業側のAI活用の問題点
(1) 新たなバイアスの温床になるリスク
企業側が採用選考そのものにAIを直接導入する動きは限定的です。エントリーシートの一次スクリーニングにAIを活用する事例はありますが、倫理的な懸念や企業ブランドへの影響から、多くの企業が慎重な姿勢を崩していません。
確かにAIは、人間の持つ無意識のバイアス(例:出身大学、性別、年齢などに基づく思い込み)を回避できる可能性があり、評価の一貫性が高まるため、「公平な評価」として候補者に説明しやすい側面があります。
ただし、学習データやアルゴリズムに偏りがあると、逆に差別を助長するリスクがあります。たとえば、過去の採用データに基づいて学習したAIが、特定大学の出身者を過剰に高く評価する、あるいは女性応募者を過小評価する、といったことが実際に問題視されています。つまり、AIは「人間のバイアスを抑える武器」になり得ますが、設計を誤れば「新しいバイアスの温床」にもなり得るということです。
(2) コンプライアンスの問題
AIによる評価を採用活動に導入することは、法務や倫理の観点からも大きな影響をもたらします。
まず、説明責任の問題です。自動化された判断を受けた候補者には、その評価の根拠やプロセスについて説明を求める権利があるとされています。そのため、AIがどのような基準やロジックで候補者を評価したのかを明示できなければ、違法または不当とみなされる可能性があります。
次に、プライバシー保護の観点です。動画面接や性格特性の分析など、AIが扱うデータの多くは非常にセンシティブな個人情報です。こうした情報の管理体制が不十分であれば、情報漏えいや不適切利用が大きなリスクとなります。
さらに、社会的信用への影響も無視できません。もしAIによる評価が不透明であったり、不公平な結果を生んだりした場合、その事実は候補者を通じてSNSやメディアで瞬時に広がり、企業ブランドに深刻なダメージを与える可能性があります。採用活動は、企業と社会の信頼関係を築く場でもあるため、透明性と公平性を担保することは不可欠です。
4.実務上の留意点
AIを採用活動に活用する際には、いくつかの重要な留意点があります。
第1に、プロンプト依存性です。AIの出力は、入力される指示内容によって大きく変わります。問いの立て方次第で結果がまったく異なってしまうため、適切なプロンプトを設計する力が人事担当者に求められます。
第2に、AIの限界です。候補者の人柄やモチベーションといったニュアンスを理解することはAIには難しく、事実に基づかない情報を提示する「ハルシネーション」と呼ばれる現象もあります。AIの出力を鵜呑みにするのではなく、人間が必ず検証する仕組みを残す必要があります。
第3に、法務・倫理の観点です。採用活動では個人情報を多く扱うため、AIを介するやり取りには情報流出のリスクが伴います。また、「AIによる合否判定は公平なのか」という社会的議論も存在します。導入を急ぎすぎると、企業ブランドを毀損する危険性もあります。利便性に流されることなく、人権や透明性を常に意識する姿勢が求められます。
さらに、AI活用にあたっては段階的な導入が有効です。まずは一次スクリーニングや議事録要約などの限定的な用途から始め、効果や課題を検証しながら導入範囲を広げることが推奨されます。
◎協力/日本実業出版社
日本実業出版社のウェブサイトはこちらhttps://www.njg.co.jp/
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