Netpress 第2479号 物流業界の今後は? 物流二法の改正法施行と改正貨物運送事業法の成立

1.2025年4月1日に物資流通効率化法(旧称:流通業務総合効率化法)と貨物自動車運送事業法(以下、「貨物運送事業法」という)のいわゆる「物流二法」の改正法が施行されました。
2.物流二法の改正は、物流2024年問題による輸送力の不足に対応するため、荷主企業、物流事業者、一般消費者が協力して我が国の物流を支えるための環境整備を行うことを目的としています。
3.さらに、2025年6月11日に公布された貨物運送事業法の改正法により、今後、運送事業者の再編の促進等、物流業界の大きな変革が予想されます。
「物流2024年問題」とは、2024年4月1日に、2019年4月1日の働き方改革関連法の施行時に労働基準法改正による労働時間の上限規制の適用が5年間猶予されていた物流業等の運転手に対する労働時間の上限規制、それに伴う改正改善基準告示に基づく拘束時間の短縮が適用されることにより発生が想定される問題のことをいいます。運送業においては、何も対策を講じなければ、2030年度には34%の輸送力の不足の可能性があるとされています。
1.物資流通効率化法の概要
物資流通効率化法においては、荷主・物流事業者の商慣習を見直し、荷待ち・荷役時間の削減や積載効率の向上を図るため、事業者に以下の義務が課されます。
(1) すべての事業者の義務
荷主、物流事業者に対し、荷待ち時間の短縮、荷役時間の短縮、積載率の向上等の取り組むべき措置について努力義務が課されます。
なお、事業者が取り組むべき措置については、国が下記のような判断基準を策定し、その取り組み状況について、判断基準に基づく指導・助言、調査・公表を行うことになっています。
取り組むべき措置 | 判断基準(取り組みの例) |
荷待ち時間の短縮 | 適切な貨物の受け取り・引き渡し日時の指示、予約システムの導入 等 |
荷役時間の短縮 | パレット等の利用、標準化、入出庫の効率化に資する資機材の配置、荷積み・荷卸し施設の改善 等 |
積載率の向上 | 余裕を持ったリードタイムの設定、運送先の集約 等 |
(2) 一定規模の事業者(特定事業者)の義務
一定規模の事業者(特定事業者)に対しては、中長期計画の作成や定期報告等を義務付けます。
また、中長期計画の実施状況が不十分な場合には、国が勧告・命令を実施するとともに、特定事業者のうち荷主については物流統括管理者の選任が義務付けられます。
なお、特定事業者の範囲は、以下のように設定される予定となっています。
- 荷主については取扱貨物の重量9万トン以上
- 貨物運送事業者については保有車両台数150台以上
- 倉庫業者については貨物の保管量70万トン以上
2.2025年4月施行の貨物運送事業法の概要
貨物運送事業法においては、物流業界の多重下請構造を是正し、実運送事業者の適正運賃収受を図るために、以下の義務が課されることになりました。
① | 運送契約の締結に際して、提供する役務の内容やその対価(付帯業務料金、燃料サーチャージ等を含む)等について記載した書面の交付等 |
② | 元請事業者に対し、実運送事業者の名称等を記載した実運送体制管理簿の作成 |
③ | 下請事業者への発注の適正化についての努力義務。一定規模以上の事業者は、当該適正化に関する管理規程の作成、管理者の選任 |
また、最近6年間で死亡・重傷事故件数が倍増してしまっている軽トラック運送業に対しては、必要な法令の知識を担保するための管理者の選任と講習の受講、国土交通大臣への事故報告の義務付けによる規制の強化が図られることとなりました。
3.2025年6月公布の貨物運送事業法の概要
2025年4月施行の物流二法の改正法は、荷主企業、元請企業が実運送事業者の負担を軽減することにより、物流業務全体の効率化を図ることが主な目的となっています。
そのうえで、実運送事業者自体の経営の健全化を図ることを目的とした改正貨物運送事業法が2025年6月に公布され、2028年度までを目途に順次施行されていくこととなっています。
2025年6月公布の改正法の主な内容は、下記のとおりです。
① | 貨物運送事業の許可が5年ごとの更新制となり、不適正な事業運営を行っている事業者は許可が更新できない |
② | 現在の強制力がない「標準的な運賃」の告示制度に代わり「適正原価」が告示される。事業者が適正原価以下での契約ができなくなるため、強制力を持つものとなる |
③ | その他、無許可業者の不正使用への罰則強化、多重下請の制限、労働者の処遇の適正化などが行われる |
4.物流業界の今後
これらの法改正により、物流業界全体の効率化が図られるとともに、不適正な事業運営を行っている実運送事業者の排除が行われ、運送事業者の再編が進んでいくことが予想されます。また、実運送事業者が適正な事業運営を行うために運賃の大幅な引き上げを行わざるを得ない状況が生じることも想定されます。
上記の影響は、社会全体に大きな影響を及ぼすこととなるため、すべての業種・業界において対応策を検討することが必要であると考えられます。
◎協力/日本実業出版社
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