Netpress 第2476号 自然災害等に備える! 緊急時の労務管理と実務対応のポイント

Point
1.企業は自然災害等に備えて、従業員の安全確保と事業継続を両立させる視点を持つことが不可欠です。
2.自然災害等の緊急事態において事業を継続させるためには、BCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)が必要です。


あかね社会保険労務士法人
社会保険労務士
水野 愛

1.はじめに

 近年、自然災害の頻発やサイバー攻撃、感染症など、企業を取り巻くリスクは多様化・複雑化しています。


 このような緊急事態に際し、企業の事業継続を可能にするための計画が「BCP」(Business Continuity Plan:事業継続計画)です。


 BCPは、企業が直面するリスクを事前に把握し、その影響を最小限に抑えるための重要なプロセスであり、平常時から危機に強い体制を築くことで、緊急時の迅速な復旧や業務の継続、ひいては顧客からの信頼維持を可能にします。


 株式会社帝国データバンクの「事業継続計画(BCP)に対する企業の意識調査(2025年)」によると、2025年時点でのBCP策定率は20.4%と初めて2割を超えましたが、依然として4割以上の企業が未策定です。


 特に「大企業」の策定率が38.7%であるのに対し、「中小企業」は17.1%に留まるなど、規模間の格差が広がっている点が課題として浮き彫りになっています。


 中小企業からは、「スキル不足」「人材や時間の確保が困難」といった声に加え、「必要性を感じない」「費用が確保できない」といった理由も多く挙げられています。


 本稿では、これらの課題を踏まえ、総務部門が担うべき緊急時の労務管理と実務対応のポイントを紹介します。

2.BCP策定における企業の備え:従業員の安全確保と事業継続の両立

 企業は自然災害等に備えて、従業員の安全確保と事業継続を両立させる視点を持つことが不可欠です。


(1) 緊急時の労務管理上のポイント

① BCP発動条件の明確化

たとえば「震度5強以上の場合」など、BCPを発動する具体的な条件をあらかじめ明確にしておくことが重要です。


② 緊急時組織体制の構築

緊急時の指揮・命令系統を構築しておくことは、事業中断リスクへの備えとして重視されています。


③ 発災時の出社・帰社体制

災害発生時の従業員の安全確保と、その後の行動指針(出社・帰社など)を明確化します。


④ 出勤困難者の給与取り扱い

欠勤扱いとするか、給与控除を行うかなど、具体的な取り扱いを事前に決定します。


⑤ 会社判断による休業

企業が休業を判断した場合の休業手当の支給要否についても、事前に検討・規定しておきましょう。


⑥ テレワークや自宅待機への切り替え

多様な働き方(テレワーク、時差出勤など)を制度化し、緊急時にスムーズに移行できるようルールを定めます。


(2) 企業が想定する事業中断リスクと備え

 前出の帝国データバンクの意識調査によると、BCP策定意向がある企業が最も想定しているリスクは「自然災害(地震、風水害、噴火、干ばつなど)」で70.8%と突出して高く、次いで「情報セキュリティ上のリスク」(46.1%)、「感染症」(40.6%)が続きます。


 中小企業では、「従業員の退職」(22.3%)や「経営者の不測の事態」(20.8%)、「取引先の倒産・廃業」(30.8%)をリスクとして捉える割合が高い傾向にあります。


 これらのリスクへの備えとして最も重視されているのは、「従業員の安否確認手段の整備」で68.3%です。


 そのほか、「情報システムのバックアップ」(59.9%)、「緊急時の指揮・命令系統の構築」(41.4%)などが主な取り組みとして並びます。

3.代替勤務体制の整備

 緊急時にも業務を継続できるよう、以下の整備は重要です。


項    目ポイント
① 端末・通信環境の整備ノートPCやVPNなど、テレワークに必要な環境を整える必要がある
② 勤怠管理や業務報告のルール緊急時の勤怠管理方法や業務報告のルールを明確に定めておく
③ セキュリティ対応のルール情報の持ち出しに関するルールなど、セキュリティ対策も事前に策定しておくことが重要

4.事前に見直すべき就業規則・災害対応マニュアル等

 緊急時において、従業員からの問い合わせに一貫した説明を可能にするためにも、就業規則や災害対応マニュアル等を事前に見直し、明文化しておくことが望まれます。


• 災害時の出勤・欠勤・遅刻の取り扱い
• 臨時休業や自宅待機の指示と給与処理
• 安否確認の方法
• 災害対応マニュアルの整備
• 減災の事前対策(備蓄物資・簡易トイレなど)
• 補償内容の確認(災害保険など)

5. おわりに

 BCPの策定は、リスクマネジメントの一環として年々その重要性が高まっているものの、中小企業を中心に導入のハードルが依然として高いのが現状です。


 今回の帝国データバンクの意識調査においても、「策定している・現在、策定中・策定を検討している」を合わせると企業全体のほぼ半数に達するものの、実際の策定率は2割程度にとどまっています。


 総務部門は、まずは災害時の安否確認・連絡手段の整備など「できることから着手」し、段階的にBCP体制を整備していくことが現実的なアプローチです。



◎協力/日本実業出版社

日本実業出版社のウェブサイトはこちらhttps://www.njg.co.jp/



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