Netpress 第2453号 複合的な視点で考える! 中期経営計画の策定プロセスとポイント

1.現状の延長線上の中期経営計画を脱却するためには、事業環境の「構造的変化」の読み解きに力点を置くことが肝要です。
2.中期経営計画の策定プロセスは、コア人材の「複眼的」視点の強化の場にもなり、事業機会や事業リスクを「感知」する組織能力の向上につながります。
中期経営計画(中計)は、企業における戦略立案・実施のもっとも重要なサイクルの一つであり、経営陣のみならず、組織全体で膨大な経営資源(ヒト・カネ・時間)が投入されています。
ただ、中計に対する批判の声も聞こえてきます。中計策定は数年に一度のお祭り騒ぎで、中計そのものからは何の価値も生まれていないという声です。
なぜ、このような批判が出てくるのでしょうか。そして、どこに問題があるのでしょうか。
1.中期経営計画の策定プロセス
中計の策定プロセスにおいては、多くの場合、現状の課題の洗い出し、たとえば自社分析、競合分析、顧客分析といった分析からスタートします。
これは正しい戦略計画を立案するうえでは必須の作業です。でも最近こうした分析的アプローチは「現在の延長線上の答えしか生まない」という批判を生み、パーパスやミッションといった「あるべき姿」の設定から議論を始めるべきだとか、中長期的な未来を想定して「逆引き」で考えるバックキャスティング思考が重要だとか言われるようになりました。延長線上に囚われない「非連続な変化」を生むためです。
しかしながら、現状の理解から始めるフォーキャスティング的なやり方を、先読みから始めるバックキャスティングというやり方に変えても、それだけではあまり大きな違いが生まれることにはなりません。
なぜなら本当の問題は、プロセスにあるのではなく、その中身(コンテンツ)にこそあるからです。
もし中計がうまく機能しないのであれば、その真因は、事業や事業環境の変化の本質を「表層的」にしか理解できていないところにあり、本来踏み込むべき「構造的変化」の理解にまで十分に入り込めていないことが理由として挙げられます。
2.組織内の対話と、計画における創発
中計策定における検討が、事業の構造的変化に対する理解を促進し、より正しい戦略的意思決定を生み出した企業の例を紹介しましょう。
その企業では、中計策定の際の中間生成物であるパワーポイントやワードの資料を、広く機能の長(人事や製造、営業など)や各事業部長など、アッパーミドルマネジメントに共有し、議論する「場」をしっかりと設定していました。
そこでの議論で、中計の目玉として考えられていた東南アジアへの自社工場設立案が白紙撤回され、事業パートナーへの委託生産へと切り替えられることになったのです。
その理由は、海外の営業現場からの幾つかの懸念点、製造開発現場における問題点から、事業構造や環境がこれまでとは大きく変わってしまっていることを理解できたからでした。
たとえば、以下のようなことがハッキリとしてきました。
(1) 製品仕様に対するニーズの変化が極端に速くなっていること |
(2) 自社工場の生産ラインの継続的な変更は費用対効果を下げてしまうこと |
(3) 自社の生産技術では競争相手に対するコスト優位を築けないこと |
つまり、もはやすべて自前で行う「垂直統合型」では立ちゆかず、他社との連携を前提とした「ネットワーク型」の事業構造への変化が必須だったことが明らかになったのです。
このような計画策定の段階において新たなアイデアが生まれてくることを「計画における創発(Planned Emergence)」と呼んだりします。
そして、「計画における創発」が生まれるためには、組織内の多くの部門のさまざまな知識や視点が持ち込まれる必要性があります。
3.必須となる「複眼的な視点」
中計の中身を良質なものとするためには、コア人材、あるいは各部門の異質な視点のぶつかり合いが必要です。そして、その視点が「リッチ(豊か)」であることが必須となります。視点を豊かにするという点では、経営学、特に経営戦略論は役に立ちます。
たとえば、経営戦略論では優れた経営成果の源を2つの視点で捉えます。
一つは、自分たちが戦っている市場が魅力的だから業績が良い、という視点です。これをポジショニング・ビューと言います。
もう一つは、自分たちの業績が良いのは、自分たちが強い武器を持っているからだという視点です。これをリソースベースト・ビューと言います。
また、技術戦略論では、収益を上げるためには、価値を生み出す「価値創造力」と、それをお金に変える「価値獲得力」の2つの能力の重要性が指摘されています。
ちなみに、このポジション/リソース、価値創造/価値獲得を組み合わせただけでも4つの異なる事業視点を持つことができます。
他にも顧客視点、組織視点、現場視点などを組み合わせれば、無数の検討が可能になり、構造的変化の本質に迫れる確率を上げてくれるはずです。
これらの視点は意識して広げ、積み上げていくべきものなのです。
4. おわりに
いま起こっている変化(社内・社外)の理解が腹落ちして始めて、本当の課題がわかり、本当のあるべき姿も設定できるはずです。
それを間違うと、いくら時間をかけて中計を作っても企業成長に繋がるはずがありません。
大切なことは、コア人材あるいは組織が「ものごとを複眼的に見る力」を持てるか否かです。この能力が向上すれば、計画を実施する段階においても、新たな世の中の変化に気付き、計画の軌道修正を行う組織の柔軟性も高まっていくはずです。
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