Netpress 第2438号 決算書に親しむ/シリーズ④ 決算書の活用②~財務のシェイプアップ~

Point
1.過大な資産保有は事業の非効率をもたらし、不必要な費用支払いは収益を圧迫します。
2.本文中のポイントを参考に、「事業に不可欠」ではない勘定科目を見直し、財務のシェイプアップを進めてはいかがでしょうか。


SMBCコンサルティング株式会社
ソリューション開発部
経営相談グループ
中村 哲也


 前回の事業活動のPDCAを通して、事業に必要不可欠な勘定科目が見えてきました。


 貸借対照表(B/S)の勘定科目では、


① 元手としての現金と、その調達勘定である資本勘定、借入金など
② 営業循環で見られる営業資産(売掛債権、商品)と営業負債(買掛債務)
③ 事業に必要な設備、システムなど(有形/無形固定資産)


 損益計算書(P/L)の勘定科目では、


① 売上高と売上原価(仕入れ)
② 人件費、事業運営費用(水光熱費、通信費など)、設備関連費用(減価償却費など)、租税公課や、支払利息を始めとする資金調達費用など


といったところです。


 これらの金額は、事業戦略や設備計画、事業活動のPDCAなどを通じて、あるべきレベルを想定することができるでしょう。


 これに対して今回のテーマは、次のとおりです。


上記の「必要不可欠」の勘定科目に注目して、そもそも事業の実施に本当に必要なものなのかとの観点から見直し、決算書のシェイプアップを図る


1.決算書のシェイプアップの意義

 事業会社の活動の目的は、資金を投下して事業を実施し利益を得ることにあります。


 そうであれば事業に「必要不可欠」でない勘定科目への投資や費用の支払いは、間接的あるいは副次的にでも事業に寄与しない限り存在意義が乏しいことになります。


 そして資産保有が不必要に多いと非効率をもたらして、自己資本比率やROAが低下し、外部からの評価(※)にも影響します。


 さらに過大な借入れにつながると信用力が低下し、資金調達コストの上昇や資金調達難、最悪の場合は経営破綻に至ることもあり得ます。


 費用についても、不必要な支出は収益を圧迫し、業績の足を引っ張るのは自明のことでしょう。


外部からの評価について、投資家の主要な関心事は株式配当や将来の株価推移であり、収益性や効率性、成長性を重視、債権者であれば元金と利息の確実な回収が主な関心事で、まずは信用状態、次いで収益力を重視する傾向があります。

2. 見直しのポイント

 以上の観点から、事業に「必要不可欠」以外の勘定科目の資産や費用を新たな目で見直し、不必要な保有資産は処分の、不必要な費用支出は打ち切りの方向でシェイプアップしていくことに、意義があるのです。


 見直しのポイントとしては、以下のとおりです。


(1) 当初の経緯、目的

 資産取得や費用支出の目的は明確で、具体的に事業に寄与するものか。


 経緯に不自然さはないか。


 出資先や貸出先、費用の支払先など、相手方の事業内容や当社との関係なども踏まえ、不明確、不自然、あるいは情実やお付き合いなど不適切な疑いがあれば、保有や支出の継続可否を検討する必要があります。


(2) 保有/支出の効果

 当初見込んだ効果が実現できているか、あるいは実現する目途は立っているか。


 状況の変化などで効果が見込めなくなったり、保有や支出の意義が低下/消滅したりしていることはないか。


 効果が見込めないものなどは検討対象となります。


(3) 資産の価値、回収可能性

 相手先の業況悪化などから、出資株式などの価値が下落したり、貸付金や未収金などの回収懸念が増大したりしていないか。


 出資株式などは、価値の下落幅をカバーし得る保有効果が見込めなければ処分の検討対象ですし、貸付金や未収金などで焦付き懸念があれば、早急に回収交渉や担保・保証人交渉を検討するべきでしょう。


(4) 有形/無形固定資産

 勘定科目としては「事業に必要不可欠」と位置付けましたが、実際には過剰設備や遊休設備、高額含み損物件などの問題物件があることも多く、物件ごと(個別)に状況を確認していきます。

3. おわりに

 資産処分などの検討に際しては、当社の「本業」は何か、今後の「伸ばす事業」、逆に「縮小/撤退事業」は何かといった、会社の戦略の方向性を意識する必要があります。


 転変の激しい事業環境の中で、事業のスクラップ・アンド・ビルドはめずらしいことではなく、昨日の中核設備が明日はスクラップ同然となったり、逆にこれまで埋もれていた資産が「伸ばす事業」で活かせたりすることがあるかもしれません。


 ただ、処分に際して、実際に処分した場合の影響を十分に調査/検討せず拙速に行うと、思わぬところにマイナスの影響がハネることもあるので、注意が必要です。永年保有してきた資産の処分などは躊躇されるかもしれませんが、会社の体力を強化し成長していくためには思い切ることも大切です。


 クールヘッドで調査/検討は慎重に、そのうえでホットマインドで決断は大胆に、といきたいところです。


◎協力/日本実業出版社
日本実業出版社のウェブサイトはこちら 
https://www.njg.co.jp/



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