Netpress 第2434号 利益を出すために! 中小企業が実践したい価格転嫁の上手な進め方

Point
1.中小企業が利益を確保するためには、値上げ等によって価格を適正に定めることが求められます。
2.資源価格や物価の上昇、賃上げ圧力などの状況をふまえ、価格転嫁の上手な進め方を解説します。


中小企業診断士・MBA
山田静也
中小企業診断士・社会保険労務士
齋藤裕子


1.価格転嫁にあたって考慮すべき事項

 価格転嫁を進めるにあたって考慮すべき事項は多岐にわたります。以下、主な事項について説明します。


(1) 取引先にとっての製品の価値

 取引先が製品にどれだけの価値を感じるかは、価格設定の重要な要素です。取引先が高い価値を感じる製品は、それに見合った価格を設定するように交渉することが可能です。


(2) コスト

製品の製造コスト、流通コスト、マーケティングコストなど、製品にかかるすべてのコストを考慮する必要があります。


これらのコストは、価格交渉の際、価格の下限に影響します。


(3) 市場の状況

市場での供給と需要、競合他社の価格戦略、市場の成長性など、市場全体の状況を理解することが重要です。


市場の状況は、価格交渉の際、価格の上限に影響します。


(4) 競争環境

競合他社の価格設定や市場でのポジション、差別化の度合いなど、競争環境を分析することは不可欠です。


競合他社との価格差は、取引先の選択に大きく影響します。


(5) 値上げの必要性

「値上げが必要だ」という確固たる理由が取引先に伝わらなければ、価格転嫁を成功させることは困難です。物価指数や各種統計調査等の具体的な数値をエビデンスとして取引先に提示できると、交渉・説得が進めやすくなるでしょう。

2. 適正価格の定め方

 適正な利益を確保できる価格を定めるにあたっては、自社の利益構造を理解することが第1歩となります。


 費用は、売上に連動する変動費(売上や生産量、販売数に比例して増減する費用)と、固定費(売上や生産量、販売数の増減にかかわらず一定にかかる費用)に分けて考えましょう。原材料価格の高騰による原価への影響を確認のうえで、損益分岐点分析を行い、適正な価格設定と生産量の関係について複数パターンをシミュレーションします。


 そのシミュレーションの結果から、自社の損失を避けつつ相手先でも許容できると思われる価格を探りますが、取引先にとっての製品の価値、市場の状況、競争環境など、先述した価格転嫁にあたって考慮すべき事項についても検討を重ね、最終的な適正価格を導き出します

3. 価格改定依頼書を作成する

 値上げの必要性を示すエビデンスをまとめたうえで、「価格改定のお願い」などのタイトルを付けて依頼書を作成しましょう。文書のほうが説得力がありますし、取引先の担当者も社内での検討材料として利用することができます。


 依頼書を作成する際は、原材料価格の変動スライドができるようにしておきましょう。価格に合わせたスライド制にすれば、価格が上がった際だけでなく、下がった際にも対応できるため、価格交渉もしやすくなると思われます。


 また、公正取引委員会の「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」において「価格交渉の申込み様式(例)」が示されているので、この様式も参考にするとよいでしょう。

4. 価格交渉に臨む際のチェックポイント

 価格交渉に臨む際の具体的なチェックポイントとして、以下の事項が挙げられます。


(1) 自社の業種・業界の動向等の把握

 日頃から業界団体や同業他社の動向、主要取引先や業界大手の動向等を把握しておくことが必要です。


 地域や業界団体の集まりにも積極的に参加し、全社的に平時から担当者間のネットワークを構築しておくことも、情報収集のために有効な手段です。


(2) 価格以外の付加価値や強みの把握

 経理部が原価計算等により適正利益を把握することはもちろんですが、価格以外の自社の「付加価値」や「強み」を理解し、把握しておくことも重要です。


 価格のみが評価される取引・事業を見直し、全社的に事業や取引先ごとの収支のバランスを整えていきましょう。


(3) 自社の事業特性をふまえた見積書の準備

 業種別に見積書のひな形を公開している業界団体もあります。それらを参考にするなどして作成しましょう。


(4) 交渉に必要な資料の準備

 価格改定依頼書を中心に、経理部がデータを活用して、各コストの要素を整理したり、現在取引のある製品を「〇年間価格改定なし」等で分類したりするなど、交渉が行いやすい形で必要な資料を整理します。


(5) 想定問答集の準備

 交渉の場における想定問答集を作成し、価格交渉のシミュレーションをしておくことが重要です。


(6) 自社との取引実績をふまえた交渉順の検討

 大手から中小企業・小規模事業者へと、順次交渉を進める例が多く見られます。


 交渉の際、取引先から「貴社以外に相談を受けていないため、状況確認をしたい」と回答され、交渉を開始できない場合もあり得るでしょう。全社的に業界の動き、特に競合する他社の動向を把握しておくことも必要です。


(7) 交渉のタイミング

 交渉のタイミングは、価格改定期に合わせるほか、主要取引先と取引のある企業の動向を前もって把握しておくことで、価格交渉のタイミングを合わせることも想定しておきます。

5. 交渉の場における留意点

 交渉の場では営業担当者が、準備した根拠資料、想定問答集をもとに価格改定を申し入れます。


 その際、原材料費や人件費等のコスト増加分のデータだけでなく、自社で行ってきた企業努力(原価コントロールやコスト低減のための取り組み)も説明するようにしましょう。


 価格交渉に至るまでに、全社として最大限努力してきたが、それらの努力のみでは吸収できないコスト増があるため価格に転嫁せざるを得ない、というストーリーで価格交渉を行います。


 価格交渉先が、価格転嫁に対して理解がない場合、内閣官房・公正取引委員会の「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」や、業界団体のガイドラインを参考にしていることも補足するとよいでしょう。


◎協力/日本実業出版社
日本実業出版社のウェブサイトはこちら 
https://www.njg.co.jp/



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