Netpress 第2428号 株式会社にはない特徴・メリット 合同会社制度を活用してみませんか?

Point
1.合同会社では、株式会社に比べて、機関設計が自由なので、特別の機関を設ける必要がなく、柔軟かつスピーディな意思決定が可能です。
2.合同会社は、株式会社に比べて、設立手続が簡便で、設立・維持コストが安く済みます。
3.以上のようなことがメリットとして考えられる状況があれば、合同会社制度を利用することが考えられます。


岡村綜合法律事務所
弁護士
長﨑 俊樹


1.はじめに

 現在、日本には株式会社が260万社近くあり、その大半は中小企業です。

 株式会社は、出資者を広く募って資金を集め、その資金をもとに取締役らが会社を経営して利益を出し、出資者である株主にその利益を還元するという制度です。

 ですから、出資者(=所有者)である株主と経営者は別であることが大前提であり、株式会社では、株主が集まって重要事項を決議する株主総会を開催する必要がありますし、取締役などの役員は任期が来れば、株主総会で改選または再選しなければなりません。


 また、決算については公告する必要があります。

 ところが、少数の関係者が会社を設立して共同で事業を行うような場合には、その関係者はそれぞれに事業に携わろうとしており、原則として所有者=経営者の関係にありますから、株式会社のような強行法規による規律を設ける必要性がありません。

 そのような場合に利用できるのが、2005年制定の会社法で創設された合同会社という制度です。


2. 合同会社の特徴-株式会社との比較

(1) 社員は出資額の範囲で責任を負う

 合同会社は、合名会社、合資会社と並ぶ持分会社の一つです。

 持分会社の構成員(株式会社で株主に該当する者)を社員といいますが、合同会社では、会社の債務について社員全員が出資額の限度でしか責任を負いません。

 構成員が間接有限責任を負うという意味で、株式会社と同じです。


(2) 定款で自由に内部的規律を定めることが可能

 株式会社においては所有と経営が完全に分離していて、株主総会と取締役という機関を必ず設けなければいけません。

 一方、合同会社では各社員が業務を執行することが原則であり、共同事業者である社員間で最適な利害調整システムを設定するべく、定款で自由に内部的規律を定めることができます。


(3) 設立の費用や時間を節約できる

 合同会社では、設立に関して次の特徴があり、株式会社より設立に要する費用や時間を節約できるメリットがあります。

① 合同会社では、株式会社と異なり、発起人の制度はない

② 合同会社では、株式会社と異なり、定款の作成に公証人の認証は不要

③ 合同会社では、株式会社と異なり、現物出資に係る検査役の調査制度も財産引受け等の変態設立制度もない



3. 合同会社制度の活用例

 以上のような合同会社の特徴に着目して、合同会社制度が活用されている例をいくつか見ていきます。


(1) 不動産流動化のヴィークル(資産と投資家を結ぶ組織体)

 不動産の流動化のために合同会社が利用されることがありますが、この場合、目的が不動産の流動化に限られ、関係当事者も少ないので、株主総会のような機関を設ける必要がありません。

 意思決定手続や機関設計を柔軟に決めることができ、かつ設立・維持費用が安く、設立手続の簡素化等により事務負担が抑えられることなどから合同会社が利用されています。

 同じ理由で、事業会社の持株会社や資産管理会社としても合同会社が利用されています。


(2) 大会社の完全子会社

 Google合同会社やアマゾンジャパン合同会社は、その親会社が日本子会社の経営に積極的に関与し、柔軟かつスピーディな意思決定ができること、設立、維持コストが安いことなどが理由で合同会社になっています。このようなネームバリューのある親会社の子会社であれば、合同会社という会社形態では信用力がないという懸念も問題にはなりません。


(3) 合弁会社

 複数の事業会社が合弁会社を設立して共同事業を行う合弁事業では、複数の事業会社が合弁会社の経営に能動的に参加し、事業目的に適した契約条件等を柔軟に設計できることが重要です。

 また、合弁事業に必要な資金、人員、土地建物、知的財産権等の提供にあたり、合同会社では、現物出資に係る検査役の調査制度も財産引受け等の変態設立制度もないので、設立に要する費用や時間を節約できます。

 さらに、事業会社自体が合弁会社の社員になれるというメリットもあり、合同会社が利用されます。


(4) 専門家集団など

 デロイトトーマツコンサルティング合同会社、PwCコンサルティング合同会社のような大手コンサルティング会社は、会社の運営、管理の仕組みを構成員自身で決められるという利点などから、合同会社になっています。

 また、後継者不足の問題を抱える農業で、幅広い人材を確保するために模索される農業法人による経営では、農業法人として、出資比率にかかわらず社員間の合意で意思決定が行える合同会社が選択されることがあります。


(5) 一人会社、中小規模の同族会社

 個人事業主が法人成りして一人会社を経営する場合や、家族・親族や親しい友人などが共同で事業を行うために会社を経営するような場合には、その関係者はそれぞれに事業に携わろうとしているので、株主総会や取締役の制度を設ける必要がなく、実態に合った柔軟な機関設計等ができる合同会社が選択されることがあります。


4. 合同会社制度選択のポイント

 合同会社には、①株式会社に比べて知名度や社会的信用が低い、②機関設計が自由な反面、定款の作成に労力を要する、③資金調達の方法が限られるなどのデメリットもあります。

 しかし、たとえば、サービス業や店舗営業のようなBtoCの事業で会社の社会的信用をあまり考える必要がない場合もありますし、小規模なスタートアップ企業では、デメリットを超えるメリットがあり得ます。

このように、デメリットも考慮したうえで合同会社の特徴がメリットとして考えられる状況があれば、合同会社制度の利用をおすすめします。


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