Netpress 第2425号 事前の準備が重要! 実地棚卸の精度を高める7つのルールとは?
1.「実地棚卸」とは、簡単にいえば会社にある商品等の在庫数を数えることですが、その本質は「棚卸資産の実在性と状態の評価を確認すること」にあります。
2.資産を適切に管理し、正確な利益を計上するために、実地棚卸の精度を高める方法を解説します。
実地棚卸の精度を高めるためには、事前の準備が最も重要です。当日に実地棚卸がスムーズにいかない理由は、実地棚卸のルールが事前に十分に周知されていないことにあります。
そこで、実地棚卸に際して事前に定めておくべきルールを解説します。
1.実地棚卸の記録用紙の管理方法を決めておく
実地棚卸には、「棚卸原票方式」と「棚卸表方式」があります。
棚卸原票方式は、製商品1つに対し、棚卸原票を1枚発行するものです。現物の数を数えたら棚卸原票を製商品に貼付することによってカウント済みの在庫が明確になり、カウント漏れを防ぐことができます。
棚卸表方式は、1枚の棚卸表に全製商品がリストされており、そこに現物の数を数えた数量を記録していくものです。在庫の配置が固定されており、リストに基づいて数えることができる場合に利用しやすい方法です。
いずれも、使用した記録用紙(棚卸原票、棚卸表)をどのように回収するかを事前に決めておきます。記録用紙が1枚紛失しただけで棚卸漏れになるため、すべての記録用紙が回収できるようになっているかを確認します。
あわせて、未使用の記録用紙の管理も重要です。未使用の記録用紙を杜撰に管理していると、悪意のある者が実際にない在庫を記録用紙に記入して、架空在庫を集計することもできてしまうからです。
記録用紙を管理する表(コントロールシート)などを作成して、漏れなく管理することが、実地棚卸を成功させるためのポイントとなります。
2.在庫の再カウント手続を決めておく
実地棚卸を行うと、実地棚卸数と帳簿残高数との間に差違が生じることがあります。実地棚卸数と帳簿残高数の差異が判明するのは、おおむね次の2つのタイミングです。
・記録用紙に帳簿残高数があらかじめ記入(プレプリント)されている場合 ⇒ 実地棚卸のとき |
・記録用紙に帳簿残高数があらかじめ記入されていない場合 ⇒ 記録用紙を回収した後、在庫管理システム等にデータ入力したとき |
差異が大きい場合には、再カウントを行います。どのくらいの差異が生じたときに再カウントを行うのかということと、再カウントの手続を事前に定めておきましょう。
3.仕掛品の進捗度の把握方法を決めておく
仕掛品は、加工進捗度(加工の進み具合)を加味し、完成品換算量に置き換えて評価します。したがって、仕掛品の実地棚卸には、数量だけではなく、加工進捗度の把握も求められます。
一般的には、仕掛品がどの工程に置かれているかにより、加工進捗度を把握しています。実地棚卸を行うにあたって、仕掛品をカウントする方法のみならず、どの工程に置かれているかもしっかり記録する必要があります。
また、工程の加工進捗度も事前に決めておきましょう。たとえば、切削工程完了品は20%、組立工程完了品は30%、塗装工程完了品は100%といった具合です。
組立工程に在庫が置かれていたとしても、組立工程での作業が発生していないものと、組立工程完了後のものがあります。どちらのステータスなのかがわかるようにするため、当日の在庫の配置のルールなどを決めておきましょう。
実地棚卸当日を意識して製造計画を立てておくことも、実地棚卸を容易にし、かつ、精度を高めます。ひとつの工程(たとえば塗装工程)の中途の仕掛品が発生しないように、前日の製造計画を立てておきましょう。
4. 滞留品、陳腐化品、破損品の取り扱いを決めておく
実地棚卸は、在庫数を数えるだけではありません。在庫の評価を行うことも目的です。
滞留品や陳腐化品、破損品は、実地棚卸の前に、通常の在庫位置ではなく棚から出しておくなど、実地棚卸担当者が確認しやすいように工夫をするのも一法です。実際の在庫を見ることで、販売、転用の可否などの判断もしやすくなります。滞留品、陳腐化品は、期末までに売却価額を引き下げて売り捌くのもよいでしょう。破損品も、販売可能性が低ければ期末までに廃棄することで、税務上の損失を確定することも検討できます。
5.預り品などの実地棚卸の方法を決めておく
預り品など第三者が所有する棚卸資産は、店舗、倉庫などに実在しないため、実地棚卸をすることができません。このような在庫の実地棚卸のルールも決めておきましょう。
「預り証」を入手するのであれば、事前に相手先に「預り証」の発行を依頼しておきます。相手先へ訪問して、預り品の実地棚卸が可能であれば、実地棚卸当日までに、実地棚卸の手順等を打ち合わせておきましょう。交渉に時間がかかる場合もあるので、余裕をもって準備することが大切です。
6. 数量の見積りのルールを明確にしておく
1個単位で個数を明確にカウントできる在庫もありますが、重量や体積でカウントする在庫もあります。どのように在庫をカウントするかのルールが必要です。
たとえば、山積みされた石炭の在庫をカウントするような場合には、重量も測れませんので、ルールを定めて見積もってカウントするしかありません。砂や砂利などは、円錐形に積まれていることが多いため、底辺と高さを測って体積を算出するルールを設定します。タンクに入った液体は、タンクの上から長い棒を突き刺し、棒がどこまで濡れているかをチェックすることで残量を見積もるルールを設定することもあります。
当日現場で混乱しないように、あらかじめルールを定めておきましょう。
7. 実地棚卸当日の入出庫のルールを決めておく
実地棚卸当日も、日常の取引はいつもどおりに進んでいます。可能であれば、実地棚卸当日の入出庫はストップすることが望しいですが、場合によっては当日も入出庫が生じます。当日の入出庫のルールも事前に決めておきましょう。
たとえば、実地棚卸の基準日を◯月30日とし、実地棚卸を10時から始めた場合には、10時以降に入庫されたものは在庫となり、10時以降に出荷予定のものは在庫の対象外となります。そのようなルールを定めていないと、いずれも棚卸の対象となり、数を数えてしまいかねません。
実地棚卸担当者が、当日入庫のものか、当日出庫のものかを判断できるように、当日入出庫する在庫の保管場所をあらかじめ決めておく、判別できるようなタグを現品に貼付しておくなどのルールを決めておきましょう。
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