Netpress 第2424号 行為類型別の対応は? カスタマーハラスメントへの対処法と予防策
1.顧客が理不尽な言動や要求をする「カスタマーハラスメント」(以下、「カスハラ」とします)に対して、会社には従業員を守る義務がある一方、正当なクレームとカスハラをどう見極めるかという問題もあります。
2.ここでは、カスハラ行為の類型や事例を踏まえて、会社としてのカスハラ対策を解説します。
1.カスハラの定義
増加する一方のカスハラの防止対策の一環として、2022年2月に厚生労働省が「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」(以下、「カスハラ対策マニュアル」とします)を公表しました。
カスハラ対策マニュアルでは、カスハラを「顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの」と定義しています。
一概に断言することはできませんが、このカスハラの定義をもとに考えると、正当なクレームなのかカスハラに該当するのかは、一般的には次のように判断できると思われます。
●正当なクレーム……販売する商品やサービス等に瑕疵があり、その問題を解決するために要求され、その要求が当然だと思われるもの |
●カスハラ……販売する商品やサービス等に瑕疵がなく、たとえ瑕疵があったとしても、問題解決のための要求が過剰であり、法令などに照らしあわせると違法だと思われるもの |
2.カスハラへの備え
どのような業種でも、カスハラは起こり得ます。顧客の都合で動かざるを得ない状況では、いつ、どのようなかたちでカスハラが起こるかはわかりません。発生することを前提に、しっかりと準備をしておくことが必要です。
準備の手順は、次の全段階を踏むことが推奨されます。
① 会社としてどのように対応するかの方針を明確にし、全従業員に周知する
② 従業員のための相談対応体制を整える
③ 対応ルールを作成する
④ 対応ルールを従業員へ周知し、研修を行う
「カスハラは千差万別で、対応ルールをつくっても、そのとおりにはできないから無駄」という人もいます。
しかし、いつ、どのようなかたちで起こるかわからないカスハラに対応するための「一定の指針」として、対応ルールを作成し運用することはとても有用です。
3. カスハラへの対応フローと実務上の留意点
カスハラ対策マニュアルには、「ハラスメント行為別の対応例」が例示され、従業員の長時間拘束や暴言、暴力、威嚇、脅迫、セクハラ行為など、さまざまなパターンが挙げられています(下表参照)。
カスハラと思われる事案に対する基本的な対応は、次のようになります。
① 相手の要求内容と事実関係を確認する
② 事実無根や要求が過剰な場合は、カスハラの可能性があると判断して対応する
(事実である場合は、正当なクレームとして謝罪等を含めて対応する)
③ 会社のルールに沿って、要求には従えない旨を明確に伝える
④ 改善しない場合は、警察など外部と連携して排除する
実務上重要なのは②の対応で、顧客の「正当なクレーム」と「カスハラ」を冷静に見極めることが大切になります。相手の要求がカスハラだと安易に判断するのではなく、「自社の商品やサービス等に瑕疵はなかったか」「顧客の申し出に正当性はないのか」「自社の商品やサービス等が顧客の利益を損ねていないか」といった点を客観的に確認し、会社側に非がある場合は、限定的な謝罪が必要になることもあるでしょう。
【カスハラ行為別の対応例】
●時間拘束型……長時間にわたり、顧客等が従業員を拘束する。居座りをする。長時間、電話を続ける。 | |
対 応 策 | 対応できない理由を説明し、応じられないことを明確に告げる等の対応を行った後、膠着状態に至ってから一定時間を超える場合、お引き取りを願う、または電話を切る。複数回電話がかかってくる場合には、あらかじめ対応できる時間を伝えて、それ以上に長い対応はしない。現場対応においては、顧客等が帰らない場合には、毅然とした態度で退去を求める。状況に応じて、弁護士への相談や警察への通報等を検討する。 |
●リピート型……理不尽な要望について、繰り返し電話で問い合わせてくる。面会を求める。 | |
対 応 策 | 連絡先を取得し、繰り返し理不尽な問い合わせがくれば注意し、次回は対応できない旨を伝える。それでも連絡がくる場合、リスト化して通話内容を記録し、窓口を一本化して、今後同様の問い合わせをやめるように伝えて毅然と対応する。状況に応じて、弁護士への相談や警察への通報等を検討する。 |
●暴言型……大きな怒鳴り声を上げる。「バカ」等の侮辱的発言や、人格否定や名誉を毀損する発言をする。 | |
対 応 策 | 大声を張り上げる行為は、周囲の迷惑となるため、やめるように求める。侮辱的な発言や人格否定、名誉を毀損する発言に関しては、後で事実確認ができるように録音し、程度がひどい場合には退去を求める。 |
●暴力型……殴る、蹴る、たたく、ものを投げつける、わざとぶつかってくる等の行為を行う。 | |
対 応 策 | 行為者から危害を加えられないよう一定の距離を保つ等、対応者の安全確保を優先する。また、警備員等と連携を取りながら、複数名で対応し、ただちに警察に通報する。 |
●威嚇・脅迫型……脅迫、反社会的勢力とのつながりをほのめかす等、従業員を怖がらせる。または「株主総会で糾弾する」「SNS等のクチコミで悪く評価する」等、ブランドイメージを下げるような脅しをかける。 | |
対 応 策 | 複数名で対応し、警備員等と連携を取りながら対応者の安全確保を優先する。また、状況に応じて、弁護士への相談や警察への通報等も検討する。ブランドイメージを下げるような脅しをかける発言を受けた場合にも毅然と対応し、退去を求める。 |
●セクシャルハラスメント型…従業員の身体に触る、待ち伏せする、つきまとう等の性的な行動をする。食事やデート等に執拗に誘う。性的な内容の発言をする。 | |
対 応 策 | 性的な言動に対しては、録音・録画による証拠を残し、被害者および加害者に事実確認を行い、加害者には警告を行う。執拗なつきまとい、待ち伏せに対しては、施設への出入り禁止を伝え、それでも繰り返す場合には、弁護士への相談や警察への通報等を検討する。 |
*厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」をもとに作成
◎協力/日本実業出版社
日本実業出版社のウェブサイトはこちら https://www.njg.co.jp/
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