Netpress 第2416号 新法が11月1日に施行 フリーランスへの業務委託 事業者側の義務と対応は?

Point
1.「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(以下、「新法」または「法」といいます)が施行されます。
2.フリーランスへの業務委託にあたり、新たに発注者側に課される義務と、実務上の留意点を解説します。


宇賀神国際法律事務所
弁護士・ニューヨーク州弁護士
宇賀神 祟



1.フリーランスを保護する新法のあらまし

 新法は、個人やいわゆる「一人会社」で業務委託を受ける事業者たるフリーランスを「特定受託事業者」と位置づけたうえ、フリーランスに業務委託をする委託者に対して下請法と同様の規制を課すほか、限定的に労働者類似の保護を与え、これらの違反に広く行政の指導を可能とするものです。


 新法とその下位法令(政省令、指針、ガイドライン)が2024年11月1日に施行されることから、同法への対応は喫緊の課題です。下表は、新法の規制・保護の項目を企業への影響度と共に示したものです(特に影響が大きい項目は◎)。

 すでに下請法対策やハラスメント防止対策等をとっている大企業は、そうした対策をフリーランスに拡張することで対応できることも多いでしょう。他方、そうした対策をしてこなかった中小企業にとっては、新法対応のための社内制度をゼロからつくり上げる必要があるので、大きな負担となります。


項目
影響度
大企業
中小企業
(1) 下請法と同様の規制
① 契約条件明示義務


② 60日・30日以内の報酬支払義務


③ 報酬減額、買いたたき等の禁止


(2) 労働者類似の保護
① 契約解除・不更新の30日前予告義務


② ハラスメント防止措置義務


③ 妊娠、出産、育児・介護への配慮義務


④ 募集情報の的確表示義務




2.適用対象となるフリーランス

 新法の適用対象となるフリーランスは、「特定受託事業者」として、次のとおり定義されます(2条1項)。

① 「業務委託」の相手方である「事業者」の個人であって、「従業員」を使用しないもの(2条1項1号)

② 「業務委託」の相手方である「事業者」の法人であって、1人の代表者以外に役員がおらず、かつ、「従業員」を使用しないもの(同項2号)

 この定義では、業務委託の範囲に制限がないなど、極めて広範な零細事業者が「特定受託事業者」に該当し得ます。

 目の前のフリーランスが「特定受託事業者」であることを確定することは困難ですし、「特定受託事業者」に該当するかどうかは容易に変化します。したがって、実務的には、個別の取引ごとに確認・対応するのではなく、個人を含む零細事業者と取引をする場合の全般について、広く新法に対応しておくことが現実的です。


3.新法の規制・保護の内容

 新法では、下請法と同様の規制がフリーランスとの取引にも適用されるとともに、一般の労働者に対する法的な保護と類似する保護が、フリーランスに対しても及ぶようになります。以下、順に解説します。


(1)下請法と同様の規制

① 契約条件明示義務

 発注者がフリーランスに業務委託をした場合には、直ちに契約条件を書面や電磁的方法で明示する義務を負います(法3条)。下請法3条とほぼ同じ規制です。なお、この義務のみ、発注者がフリーランスでも適用されます。


② 60日・30日以内の報酬支払義務

 フリーランスに業務委託をした場合には、給付受領日・役務提供日から起算して60日以内に報酬を支払う義務があります(法4条1項、2項)。下請法2条の2とほぼ同じ規制です。

 ただし、「元委託者 → 受託者(再委託者) → フリーランス(再受託者)」のように、フリーランスに再委託をする場合には、下請法にはない別の規制があります。再委託であることや元委託支払期日(元委託業務の対価の支払期日)など一定の情報をフリーランスに明示したときは、元委託支払期日から起算して30日以内に報酬を支払う義務があります(法4条3項、4項)。

 さらに、元委託者から前払金を受けた受託者(再委託者)は、フリーランス(再受託者)に対しても必要な費用を前払金として支払うよう、適切な配慮が求められます(同条6項)。


③ 報酬減額、買いたたき等の禁止

 フリーランスに対して1か月以上の継続的業務委託をする場合、報酬減額、買いたたき等の行為が禁止されます(法5条1項、2項)。下請法4条とほぼ同じ規制です。

 フリーランス(を含む零細事業者)に対して禁止行為をしないよう、定期的に社内研修を行うなどの対応が望まれます。下請法への対応ができていれば、その対象をフリーランスに拡張すれば足ります。


(2)労働者類似の保護

① 契約解除・不更新の30日前予告義務

 フリーランスとの6か月以上の継続的業務委託を解除または不更新とする場合は、原則として少なくとも30日前までに予告をする義務があります(法16条1項)。ただし、一定の事由があれば、例外的に委託者の即時解除が認められます。


② ハラスメント防止措置義務

 フリーランスに対するセクハラ・パワハラ・マタハラについて、フリーランスの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備、その他の必要な措置を講じる義務があります(法14条1項)。また、フリーランスがハラスメントに関する相談を行ったこと等を理由とする不利益な取り扱いは禁止されています(同条2項)。


③ 妊娠、出産、育児・介護への配慮義務

 フリーランスから申出があれば、その妊娠、出産、育児・介護と両立して業務に従事できるよう、育児・介護等の状況に応じた「必要な配慮」が求められます(法13条)。6か月以上の継続的業務委託の場合には義務ですが、その他の場合(単発や短期の業務委託等)にも努力義務とされています。


④ 募集情報の的確表示義務

 広告等でフリーランスの募集情報を提供するときは、虚偽または誤解を生じさせる表示をしてはならず、情報を正確かつ最新の内容に保つ義務があります(法12条)。職業安定法5条の4とほぼ同様の規制です。

 求人と実際の契約書の内容が異なると、トラブルが生じがちです。募集を行う際には、契約書、発注書等の内容をあらかじめ固めておき、その内容のまま募集することが、トラブル防止の観点からも望ましいでしょう。


◎協力/日本実業出版社
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