Netpress 第2415号 AI・データ分析で狙い撃ち!? インボイス導入後の税務調査の傾向と対策

Point
1.AI・データ分析の活用により、これまでより税務調査の精度が高まってくることが予想されるので、その前提での調査対策が必要です。
2.インボイス制度開始後の税務調査について、予想される変化と企業に求められる対応などを確認します。


一般社団法人 租税調査研究会
主任研究員・税理士
松崎 啓介



1.インボイス制度開始と税務調査

 税務当局は、毎年7月に人事異動が行われて新体制となり、本格的な税務調査が始動します。

 2024年7月から2025年6月(以下、「2024事務年度」といいます)の調査対象年度は、3月決算法人であれば、一般的には2019年度から2023年度までの5年間、あるいは2021年度から2023年度までの3年間です。


 インボイス制度開始後の期間は、2023年10月から2024年3月までの半年間ですので、この期間について、インボイスの経理処理の確認が行われることになります。

 したがって、2024事務年度は、2023年10月のインボイス制度開始後、初めての決算、確定申告時期を迎えたものに対する本格的な税務調査ということになります。

 基本的に2024事務年度の調査は、まずはインボイス制度の定着を図るという観点から、帳簿や適格請求書等の確認による指摘程度で収まるのではないか、とも考えられています。


 一方で、消費税の不正還付事案については、インボイス制度開始の前後を含めて、従来から不正還付防止のための税務調査が行われているところです。

 今後は、インボイスを活用した、より厳格な税務調査が行われることが予想されます。


2.課税・徴収の効率化・高度化

 税務当局は、データ活用の徹底の観点から、AI・データ分析やオンラインツール等の活用、関係機関への照会等のデジタル化を図ることによって、限られた人員で組織としてのパフォーマンスを最大化することを目指しています。

 これにより、租税回避への対応、富裕層に対する適正課税の確保、消費税不正還付等への対応、大口・悪質事案への対応を重点施策とし、取り組みを進めています。


 これからの税務調査では、AI・データ分析を活用しながら、税務当局が収集したさまざまなデータの分析が進められるでしょう。その結果、申告漏れの可能性が高い納税者等の判定等、課税・徴収事務の効率化・高度化が進展することが予想されます。


3. 重視される「インボイスの適正性の確認」

 国税庁が公表した「インボイス制度開始後において特にご留意いただきたい事項」にも取り上げられているように、税務調査においては「インボイスの適正性の確認」が重視されると思われます。


 税務当局から指摘を受けないように、以下のような点について確認しておきましょう。


(1) インボイス登録番号の確認

 取引先からインボイスを受領した場合、取引先の記載したインボイス登録番号が適正なものかどうかを確認する必要があります。インボイス発行事業者から発行され、かつ、インボイスの記載事項を満たしたものでなければ、仕入税額控除を行うことはできません。

 ただし、登録番号が適正なものかどうかの確認は、必ずしも取引の都度行う必要はなく、取引先の規模や取引の継続性などを踏まえて判断することになります。継続的な取引先の場合であれば、大企業等は最初の1回程度、中小事業者は年1回程度確認すればよいとされています。

 一方で、新規や単発の取引先の場合には、取引の都度確認する必要があります。


(2)事業者の屋号等と氏名・名称の確認

 インボイスに記載された登録番号を「国税庁適格請求書発行事業者公表サイト」(以下、「公表サイト」といいます)で検索した際、インボイスに記載された屋号等と同じ氏名・名称が表示されず、インボイスが有効なものかどうかを確認できないという場合があります。

 実際の税務調査では、すべてのインボイスの有効性を税務当局が確認することはないと思われますが、取引の頻度、取引金額、取引の内容によっては、そのインボイスが有効なものかどうかを確認する場合もあるでしょう。


 公表サイトは、取引先から受領したインボイスに記載されている番号が、「登録番号」として取引時点において有効なものかを確認するために利用するものであることから、その有効性が確認できれば、一義的には有効なインボイスとして取り扱うこととされています。

 そのため、登録番号をもとに公表サイトで検索した結果、表示された事業者がインボイスに記載された屋号等の事業者と同一であるかが明らかでない場合でも、その登録番号が有効であれば、有効なインボイスとして扱われます。

 したがって、登録番号が有効であることが確認できれば、インボイス記載の屋号等とインボイス発行事業者の氏名・名称が一致することまでは確認する必要はないと考えられます。


4. インボイス制度開始で変わる税務調査

 インボイス制度開始後の税務調査でこれまでと大きく変わるのは、まず、インボイス発行事業者でなければインボイスを交付できないことから、そのインボイスが登録した課税事業者が交付したものかを確認する点でしょう。

 次に、そのインボイスが正当なインボイス発行事業者のものだとして、インボイスの記載事項を満たしているかを確認するという点です。


 インボイス制度開始後、売手であるインボイス発行事業者は、課税事業者である相手方に求められれば、インボイスを交付・保存する義務が課されています。制度開始前は、このような義務は課されていませんでした。

 したがって、インボイスの記載内容に疑義が生じた場合には必要に応じて反面調査を行い、売手の保存しているインボイスの記載内容を確認することになるでしょう。


5. 企業に求められる対応

 国税庁は、インボイス制度の円滑な定着が重要だと考えており、税務調査においてインボイスの記載事項の確認を行いますが、記載事項が足りなかった場合等の軽微なミスを把握したとしても、他の書類等で確認できれば仕入税額控除を適用し、記載不足については、今後の指導事項とするのではないかと考えられます。

 ただし、その不足する記載事項を他の書類等から確認することができなければ、原則として仕入税額控除の適用は受けられないことになります。

 柔軟な対応が予想されるとはいえ、指摘を受けないように記載事項を満たしているかを確認し、記載不足の部分については、いずれかの書類等で確認できるようにしておく必要があります。



◎協力/日本実業出版社
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