Netpress 第2411号 運用基準の改正など 値上げ交渉と下請法についての留意点

Point
1.政府は、中小企業等が賃上げの原資を確保できるよう、労務費、原材料価格、エネルギーコスト等の上昇分を適切に価格に転嫁することを求めています。
2.下請事業者と協議することなく取引価格を据え置くことや、価格転嫁をしない理由を文書等で回答しないことは、「買いたたき」に該当するおそれがあります。
3.労務費、原材料価格、エネルギーコスト等の著しい上昇を、公表資料から把握することができるにもかかわらず、下請代金を据え置いた場合も、「買いたたき」に該当するおそれがあります。


梅田総合法律事務所
弁護士 今田 晋一


1. はじめに

公正取引委員会は、令和6年3月15日、相当数の取引先について協議を経ない取引価格の据置き等が確認された事業者として、大手企業を含む10社の社名を公表しました。


『独占禁止法上の「優越的地位の濫用」に係るコスト上昇分の価格転嫁円滑化に関する調査の結果を踏まえた事業者名の公表について』(公正取引委員会)



この公表は、独占禁止法や下請法に違反することを認定したものではありませんが、価格転嫁の円滑な推進を強く後押しする観点から、発注者に価格転嫁に向けた積極的な協議を促し、受注者にとって協議を求める機会の拡大につながる有益な情報として公表されたものです。

さらに、同年5月27日には、下請法の運用基準を改正し、取引価格を据え置くことが、下請法で禁止される「買いたたき」に該当する場合を明記しました。


『「下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準」の改正について』(公正取引委員会)



今後は、新たな運用基準に基づき、下請法違反の指導や勧告が行われることになります。


2. 下請法における「買いたたき」

下請法の適用を受ける親事業者が、発注に際して下請代金の額を決定するときに、発注した内容と同種または類似の給付の内容に対して「通常支払われる対価」に比べて著しく低い額を不当に定めることは、「買いたたき」として下請法違反となります。


「買いたたき」に該当するか否かは、次のような要素を勘案して、総合的に判断するとされています。


① 下請代金の額の決定に当たり下請事業者と十分な協議が行われたかどうか等の対価の決定方法
② 差別的であるかどうか等の決定内容
③ 通常の対価と当該給付に支払われる対価との乖離状況
④ 当該給付に必要な原材料等の価格動向


3. 下請法の運用基準改正

(1)令和4年の運用基準改正

公正取引委員会は、労務費、原材料価格、エネルギーコスト等の上昇を取引価格に反映しない取引は、下請法上の「買いたたき」に該当するおそれがあることを明確化するため、令和4年1月に下請法の運用基準を改正し、次のような方法で下請代金の額を定めることは、「買いたたき」に該当するおそれがあることを定めました。


① 労務費、原材料価格、エネルギーコスト等のコストの上昇分の取引価格への反映の必要性について、価格の交渉の場において明示的に協議することなく、従来どおりに取引価格を据え置くこと
② 労務費、原材料価格、エネルギーコスト等のコストが上昇したため、下請事業者が取引価格の引上げを求めたにもかかわらず、価格転嫁をしない理由を書面、電子メール等で下請事業者に回答することなく、従来どおりに取引価格を据え置くこと


(2) 令和6年の運用基準改正

さらに、前述の通り、令和6年5月にも下請法の運用基準が改正され、「通常支払われる対価」を把握することが困難である場合は、次の額を「通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額」として取り扱うことが定められました。


① 従前の給付に係る単価で計算された対価に比し著しく低い下請代金の額
② 当該給付に係る主なコスト(労務費、原材料価格、エネルギーコスト等)の著しい上昇を、例えば、最低賃金の上昇率、春季労使交渉の妥結額やその上昇率などの経済の実態が反映されていると考えられる公表資料から把握することができる場合において、据え置かれた下請代金の額


4.改正された運用基準を踏まえた価格交渉

労務費や原材料価格、エネルギーコスト等が上昇するなか、下請取引においては、上記のような運用基準の改正を踏まえた価格交渉が求められます。

例えば、労務費や原材料価格、エネルギーコスト等が上昇している状況において、親事業者が価格交渉の場において取引価格への反映の必要性に言及することなく取引価格を据え置いたり、下請事業者が取引価格の引上げを求めたにもかかわらず価格転嫁をしない理由を書面や電子メール等で回答せずに取引価格を据え置いたりした場合、「買いたたき」に該当するおそれがあります。

また、労務費や原材料価格等の著しい上昇を、公表された資料から把握できるにもかかわらず、親事業者が取引価格を据え置いた場合にも、「買いたたき」に該当するおそれがあります。

さらに、下請事業者は、「買いたたき」等の違反行為が疑われる親事業者に関する情報を「違反行為情報提供フォーム」を利用して、匿名で公正取引委員会に情報提供することができます。


5.まとめ

公正取引委員会は、下請取引における値上げ交渉を促進し、価格転嫁に応じない親事業者に下請法違反を適用する施策を講じていますので、下請取引の当事者においては、こうした施策を踏まえた価格交渉が求められます。



◎協力/日本実業出版社



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