Netpress 第2410号 対象の従業員に周知したい 自転車等通勤を認める際のルールと留意点

Point
1.会社や最寄りの駅まで自転車を使う人は少なくないほか、近年は、自転車や電動キックボードのシェアリングサービスを利用する人も増えています。
2.そこで、会社として、従業員に通勤時の自転車等の利用を認める際のルールや留意点を解説します。


ひさの社会保険労務士事務所
特定社会保険労務士
久野 航


通勤時間帯にリュックを背負い、ロードバイクで通勤するビジネスパーソンの姿は、すでに見慣れた光景となりました。


一方で、多くの企業では、自転車通勤に関するルールや規程が整備されていないのが実情です。また、電動キックボードの出現、シェアリングサービスの普及といった環境の変化にどのように対応すべきか、頭を悩ませている人事労務担当者も多いことでしょう(以下、自転車と電動キックボードをあわせて「自転車等」といいます)。


そこで、昨今の自転車等に関する法令による規制の動向を概観し、企業としての対応を検討していきます。

1.法令による規制の動向と社会背景の変化

(1)自治体による自転車安全利用に関する条例の広がり

平成20年前後から、全国の自治体において、自転車安全利用に関する条例が制定されるようになりました。


東京都を例に挙げると、平成25年7月に「東京都自転車の安全で適正な利用の促進に関する条例」が施行され、令和2年4月には改正条例が施行されています。


社内ルールを策定する際には、各自治体の条例も参考にしましょう。


(2)自転車損害賠償責任保険等への加入促進

国土交通省では、都道府県等に対して、条例等による自転車損害賠償責任保険等への加入義務付けを要請しています。すでに多くの都道府県等が条例で義務化していることから、社内ルールを策定する際には、自転車損害賠償責任保険等への加入は必須とするべきでしょう。


(3)自転車運転者にヘルメット着用を努力義務化

令和5年4月施行の改正道路交通法により、自転車運転時のヘルメット着用が努力義務となりました。


この法規制は、あくまでも自転車を運転する本人に対するものであり、自転車通勤を認める場合でも、直接企業側に責任が生じるわけではありません。しかしながら、社内ルールとしても努力義務とするのが適切と考えられます。


(4)電動キックボードを対象とした新たな車両区分

令和5年7月施行の改正道路交通法により、一定の基準を満たした電動キックボードは、新たに「特定小型原動機付自転車」に分類され、16歳以上であれば運転免許証もヘルメット着用も不要(ヘルメット着用は努力義務)となりました。


電動キックボードは、まだ一般的な交通手段とはいえず、自転車よりも危険度の高い交通手段であることも確かです。社内ルールの策定においても、通勤手段として認めるかどうか、自転車通勤とは異なる慎重な判断が必要でしょう。


(5)シェアリングサービスの普及

自転車等のシェアリングサービスを通勤で利用するためには、乗るにも降りるにも便利な場所にポートがあることが必要となるので、従業員からの利用を希望する声は、それほど多くないかもしれません。


ただ、自転車なり電動キックボードなりの利用を認めるなら、それぞれのシェアリングサービスも想定されるリスクに大差はないともいえるので、同様に認めてもよいのではないでしょうか。許可の基準としては、当該サービスを運営している事業者が適切な保険に加入していることの確認などが考えられます。


(6) 自転車の交通違反にも反則金制度

ことしの通常国会で道路交通法が改正され、令和8年5月までに自転車にも反則金制度(いわゆる青切符)が導入されることになりました。

2.自転車等通勤を認める際の会社の責任等

(1)通勤中に従業員が交通事故を起こした場合

自転車等の利用を通勤時にのみ認めていて、これを厳守していた場合、原則として企業が責任を負うことはありません。従業員がその事業の執行について第三者に損害を加えた場合に、使用者が負う損害賠償責任を「使用者責任」といいます。ここでいう「その事業の執行について」とは、「仕事中に」という意味ですが、従業員が自分の自転車等を業務に使っていたという事実があると、通勤中の事故にも使用者責任が認められる可能性があります。自転車等による通勤を認める際は、自転車等を絶対に業務に使用させないように社内ルールを徹底しなければなりません。


(2)無許可や届け出とは異なる経路での通勤中の事故

労災保険法における「通勤」の定義は、「労働者が就業に関し、住居と就業の場所との間を、合理的な経路および方法により往復することをいい、業務の性質を有するものを除くものとする」とされています。


ポイントは、企業が「合理的な経路および方法」と認めているか否かは関係がないということです。通勤災害を認定するのは、あくまでも労働基準監督署です。この認定は、労働者本人と国との間の問題であることを忘れてはいけません。


3.実務対応のポイント

企業側としてまず決めなければならないのは、自転車等による通勤を認めるのか、完全に禁止するのか、という点です。そして、認めるのであれば、ルールを規程に落とし込んだうえで「許可制」にするべきです。


国土交通省のホームページ(「自転車通勤導入に関する手引き」について)には、「自転車通勤規定」と「自転車通勤許可申請書兼誓約書」のひな形が掲載されていて、大いに参考になります。


自転車等通勤の規程を策定する際のポイントとしては、次のようなものが挙げられます。



自転車損害賠償責任保険等への加入の義務付け

駐輪場の届出

通勤経路の届出

業務に使用することの禁止

シェアリングサービス利用の可否

ヘルメット着用の努力義務

禁止事項(飲酒運転、運転中の携帯電話やイヤホンの使用、過度の疲労時等の運転)

車両の整備義務

安全運転の心得

事故を起こした場合の対応、報告義務

駐輪中の盗難等について、会社は責任を負わないこと

通勤手当の取り扱い

規程に違反した場合は、懲戒処分の対象になること



◎協力/日本実業出版社
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https://www.njg.co.jp/


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