Netpress 第2408号 手当や費用の扱いなど ハイブリッドワーク下の定時決定・随時改定の留意点

Point
1.テレワークや在宅勤務と出社を組み合わせた「ハイブリッドワーク」が広がるなか、関連の手当や費用等が社会保険料の算定基礎となる報酬に含まれるのかどうかは悩ましいところです。
2.ハイブリッドワーク下での定時決定・随時改定における手当や費用等の考え方と実務を確認します。


ブランカ社会保険労務士法人
代表社員
特定社会保険労務士
石関 裕子


1.定時決定にまつわる留意点

定時決定の際、社会保険料の算定基礎に含める報酬は、原則として、4月、5月、6月に支払われる賃金や手当等、労働の対償に当たるものや、給与規程に基づき、毎月一定の金額が決まって支払われるものです。また、食事や住宅など、現物の提供を受ける場合も報酬とみなされます。


テレワークや在宅勤務(以下、「在宅勤務等」とします)と出社を組み合わせたハイブリッドワーク下において支払われる手当等については、次のようなものが考えられます。




従業員が在宅勤務等で業務を遂行するための必要経費として支払われる手当。その金銭を企業に返還する必要がないもの(たとえば、在宅勤務等を命じた従業員に対して月額5,000円などと一律に定めて支給するもの)であれば、社会保険料の算定基礎となる報酬に含まれる。

在宅勤務等手当



「もともとその日、どこで仕事をするはずだったのか」によって扱いが変わる。その日は出社日で、出社するための交通費を企業が負担する場合は、通勤手当として社会保険料の算定基礎となる報酬に含まれる。もともと在宅勤務等の日に、業務命令で一時的に出社しなければならず、出社するための交通費を企業が負担する場合は、実費弁償分として報酬には含まれない。

ハイブリッドワーク中に出社した場合の交通費


ハイブリッドワークを行うことによって、毎日出社していたときより通信費(電話料金や携帯電話の基本使用料、インターネット接続料など)や光熱費が高くなった場合に企業が負担する費用。

通信費、光熱費


事務用品、機器の購入費用
在宅勤務等で仕事をするために、文房具やパソコン、Wi-Fi機器や電源タップなどを新たに購入する費用。

レンタルオフィスやホテルの利用料
家庭の事情などにより、在宅勤務等の際にレンタルオフィスやホテルでの勤務を認める場合の利用料。


こうした手当が報酬とみなされるかどうかは、手当の意味合いが企業ごとに異なるため、支給の要件や実態などを踏まえて個別に判断する必要があります。


基本的な考え方は、「労働の対償として支払われているか否か」です。


労働の対償として支払われるものであれば報酬に該当し、実際にかかった分(実費弁償分)の精算として支払われるものであれば報酬には該当せず、定時決定・随時改定における報酬の対象外と考えて差し支えないでしょう(右表参照)。



報酬に含める
報酬に含めない
在宅勤務等手当
一律で支払われている手当
実費を精算する性質の手当
ハイブリッドワーク中に出社した場合の交通費
その日はもともと出勤する予定で、予定どおり出勤
その日はもともと在宅勤務等の予定だったが、業務のために急に出勤
通信費、光熱費
一律で一定金額が支払われた場合
業務に使った分を計算して金額を算出した場合
事務用品、機器の購入費用
物品を支給した場合
物品を貸与している場合
レンタルオフィスやホテルの利用料
一律で一定金額が支払われた場合
利用料の実費を精算した場合

2.随時改定にまつわる留意点

随時改定が必要になる場合には、前提として次の条件があります。


①固定的賃金の変動
②3か月間に支給された給与が2等級以上変動
③3か月間の支払基礎日数がすべて17日以上


コロナ禍で完全在宅勤務だった勤務形態がハイブリッドワークになった場合、または新たに完全出勤からハイブリッドワークになった場合には、次のような手当の変動のケースが考えられます。


(1)通勤手当の支給方法の変更

これまでは在宅勤務等のため、通勤費は出勤日数に応じて日割りだったものが、出勤日数が増えたため定期券を購入するようになった場合には、固定的賃金の変動に当たります。


支給方法の変更が発生した月から3か月間の支給額を確認し、従前の標準報酬月額の等級と比較して、2等級以上の差が生じた場合には随時改定の対象となり、届出をしなければなりません。


(2)在宅勤務等手当、通信費等の額の変更

毎月一定の金額を手当や費用として給与とともに支払うケースについては、すべて固定的賃金の変動とみなされ、2等級以上の差が生じる場合、随時改定の対象となります。


また、手当や費用を1日当たりで支給している場合で、その金額に変更がなく、在宅勤務等の日数が増減したことにより、手当等の額が変わった場合には、随時改定の対象にはなりません。


なお、次のような場合には、2等級以上の変動が生じても随時改定の対象とはなりませんので、注意が必要です。



固定的賃金は上がったが、残業代等の非固定的賃金が減ったため、変動後の引き続いた3か月間の報酬の平均額による標準報酬月額が従前より下がり、2等級以上の差が生じた場合


たとえば、在宅勤務等手当の新設で固定的賃金は上がったにもかかわらず、残業代等が大幅に減ったため、結果として2等級以上下がってしまった場合は、随時改定ではなく定時決定で対応します。



固定的賃金は下がったが、残業代等の非固定的賃金が増加したため、変動後の引き続いた3か月間の報酬の平均額による標準報酬月額が従前より上がり、2等級以上の差が生じた場合


たとえば、完全在宅勤務からハイブリッドワークになり、在宅勤務等手当の額が下がって給与は減ったものの、残業代等が大幅に増えたため、結果として2等級以上上がってしまった場合も、随時改定ではなく定時決定で対応することになります。



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