自社の人事評価制度を再考する① 〜評価の目的を実現するために取り組むべきこと〜
しかし、現実には人事評価がセレモニー化し、「やることに意味がある」という状況に陥っている企業は少なくありません。
そこで、複数回にわたり、皆さんと人事評価について再考していきます。今回は、人事評価の目的とこれを実現するために取り組むべきことについて取り上げます。
1.貴社の人事評価の目的は何か
まず、貴社の人事評価制度について、以下の2つについて思い浮かべてください。
①貴社の人事評価の目的は何か。
②上記の目的を達成するために、どのようなことを意識して評価基準、評価プロセスを設計し、運用しているのか。
一般的な人事評価の目的として、「(賞与や昇給の)査定」「(昇進、役職登用、昇格の)アセスメント」「人材育成」の3つがあります。これらを達成するための整備、運用における留意点について確認していきましょう。
その前に、人事評価の根幹となる「公平性」について確認しておきます。
2.人事評価における公平性とは何か
多くのクライアントから「公平性の高い評価制度を整備したい」というご要望をいただきます。また、新人事制度に関する社員説明会の場でも、社員の皆さんから「評価の公平性」についてご質問やご要望をいただくことがあります。
評価を受ける社員が求めているのは、本当に「公平性」なのでしょうか。筆者は、社員が求めているのは評価に対する「納得感」であり、そのための要素の一つが「公平性」であると考えています。そこで「納得感」を高めることを意識して人事評価制度を整備し、運用することをお勧めしています。
図表1.人事評価において重視すべき事項と実現のための留意点
実施すべき事項 | 公平性 | 納得感 |
留意点 | ・ルールや基準の明確化 ・ルール・基準・プロセスの公開 ・偏りや誤りの排除 ・フィードバック ・参加とコミュニケーションの機会 | ・ルールや基準の明確化 ・ルール・基準・プロセスの公開 ・偏りや誤りの排除 ・フィードバック ・論理的な説明と理由づけ ・参加とコミュニケーションの機会 ・個別の状況や背景の考慮 ・評価者と被評価者の信頼 |
それでは、「人事評価の目的」ごとに「整備、運用における留意点」について確認していきましょう。
3.査定における留意点
査定に当たっては、まず賞与や基本給の支給理由を明確にする必要があります。その上で、支給理由を確認するために適した評価項目を選定しなければなりません。そして、運用にあたっては、上司(評価者)と部下(被評価者)の双方が支給理由とそのための評価項目であることを理解した上で評価を行う必要があります。
支給理由が曖昧である、あるいは明確にされていても、適切な評価項目が選定されていなければ、査定としては不十分な内容となり、社員の納得感を得ることは難しくなります。
4.アセスメントにおける留意点
昇格や昇進、役職登用等のためのアセスメントとして利用する場合には、どのような条件が整えば、上位等級や役職への就任の候補者となるのかという基準を明確にする必要があります。
しかし、実際には、このような基準に基づいた選考が行われず、経営陣や上級管理職などの情緒的な判断で行われるケースが少なくありません。これでは、社員の側から見れば、「社長に気に入られた社員だけが偉くなる」といった誤解を生じさせることになりかねず、管理職になりたがらない若者が増えている中で、ますます昇進や昇格への意欲を削ぐことにもなります。
5.人材育成における留意点
人事評価において「人材育成」を実現するには、「経験学習サイクル」を理解して実践する必要があります(図表2)。
図表2.経験学習サイクル
※資料:デービットコルフの経験学習サイクルをもとに、一部筆者修正
「経験学習サイクル」は、「経験」「内省」「概念化」「試行」の四つのプロセスにより成り立っています。このサイクルを何度も繰り返すことにより、できることを増やしていくのです。「経験学習サイクル」において、特に重要なのは、経験したことを主観、客観の両面で振り返る「内省」です。
人事評価の工程に「フィードバック」を設定している企業が増えていますが、実際のフィードバックの場で行われているのは、上司から部下への評価結果の一方的な伝達、あるいは上司の評価に対する質疑応答であることが少なくありません。残念ながらこれでは、人材育成にはつながりません。
人事評価を人材育成につなげるためには、フィードバックを「内省」の機会と捉え、評価者に対して、内省を促すために有効なフィードバックの方法を具体的に示していく必要があります。
6.人事制度の整備と運用における留意点の重要性
人事は、会計などとは異なり、専門的な知識がなくてもそれなりの意見を言う、あるいはルールをデザインすることが可能です。しかし、実際にはこれまで確認してきたような基本的な留意点すら考慮されずにルールが設計され、運用されています。これでは、いくら評価制度の設計に費用と時間をかけたとしても、思うような成果を上げることはできません。
次回は、評価の根幹となる「評価者の評価能力」について皆さんと一緒に考えたいと思います。
多田国際コンサルティング株式会社では、人事制度や人材育成等の整備・運用について様々な支援を行っております。お気軽にご相談ください。
※本稿は、多田国際コンサルティング株式会社の同名コラムの要約版です。本編は、以下のサイトでご覧いただけます。
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プロフィール
多田国際コンサルティング株式会社 フェロー 佐伯克志
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