Netpress 第2395号 「人」が最も重要な経営資源 人材開発・研修体系の構築と効果的な運用のポイント
1.人的資本経営に取り組む企業が増えていますが、競争力を強化するために、投資としての人材開発は必須となっています。
2.日本企業はこれまでOff-JTよりもOJTを重視してきましたが、OJT偏重を改め、OJTとOff-JTのベストミックスを図ることが重要です。
3.効果的な研修体系を構築するためには、業務で必要なスキル・知識と、従業員が実際に持っているスキル・知識の整理が必要です。
代表取締役 寺崎 文勝
1.人的資本投資としての人材開発
経営において人材を「資本=Human Capital」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上を図ることを目的とした人的資本経営に取り組む企業が増えています。
これまで日本企業では人件費をコストとして扱うことが多かったのですが、人的資本経営においてはこれらを付加価値創出・業績向上のための人材投資として重要視する流れになっています。これを人的資本投資といい、人材開発にかかる費用(教育訓練費等)も含まれます。
高付加価値製品/サービスを顧客に提供し、競争力を維持・強化し続けるためには、あらゆる階層・職種において人材の高度化を図る必要があります。多くの企業で人材開発体系の強化・見直しを行っているのは必然といえます。
2.OJT偏重を改める
現場から離れて座学やロールプレイングなどで学ぶのが、Off-JT(Off the Job Training:集合研修)です。一方、実務を通して必要なスキルや知識を身につけさせるのが、OJT(On the Job Training)です。
日本企業では、次のような利点を挙げて、Off-JTよりもOJTを重視してきました。
- 個人のレベルに合わせた具体的な指導ができる
- 職場の人間関係の構築に役立つ
- 教える側の成長にも役立つ
もちろん人材育成におけるOJTの重要性は言を俟たないのですが、企業変革期においてOff-JTとのバランスが悪くなる企業が多いことも事実です。
OJTは、あくまでも現状のビジネスモデルやオペレーションを前提として機能するものです。現状のビジネスモデルやオペレーションを見直すに当たっては、必要となるスキルや知識を新たに習得しなければならないため、OJTは役に立ちません(上司やベテラン社員にとっても新たな試みになるわけですから)。
Off-JT(eラーニングを含みます)は、形式知されたスキルや知識を効率的に習得することにおいてはOJTよりも優れています。
事業戦略に対応する新たなスキルを装備するために、現在保有しているスキルと連続性がないスキルを習得する「リスキリング」(Reskilling)と、現有スキルを最新のものにアップデートする「アップスキリング」(Upskilling)を強化するとよいでしょう。
3.計画的OJTを行うために
計画しないOJTは、単なる「現場指導」に過ぎないことを改めて認識しなければなりません。「OJT担当者によって育ち方にばらつきが出る」ことをOJTの課題としている企業は、そもそも計画的にOJTを実施していないことが多いようです。計画的なOJTを実施するためには、OJT計画書を作成する必要があります。すなわち、OJT対象者、OJT担当者(指導員)、OJT期間、習得すべきスキル・知識、習得の手段を具体的に設定しなければならないということです。
また、OJT担当者は職場の直属上司や先輩とするのが一般的ですが、専任のOJT担当者を設置することも検討するとよいでしょう。組織のスリム化を推し進めた結果、現場でOJTに充てる時間が十分とれないといった声もよく聞かれます。「業務に支障が出るからOJTができない」というのは、本来あってはならないことです(OJTはそもそも重要な業務のはずです)。
しかしながら、現実解としては、OJT専担者を置くことによって指導内容のばらつきをなくし、OJTの質を上げることが期待できます。計画的OJTを実施するうえで直面する課題として、「インセンティブの問題」と「時間の問題」が挙げられます。OJTを実施するに当たっては、OJT担当者が高いモチベーションを持ってOJTの課題に十分な時間をかけられるように環境を整えておく必要があります。具体的には、OJT担当者としての業務を改めて公式なものとして、その分、日常業務を軽減するとともに、成果(OJT対象者が計画されたスキル・知識を習得したか)を人事考課に反映させるとよいでしょう。
4.Off-JTの設計ポイント
Off-JTにより習得するスキル・知識は、可能な限り具体的かつ網羅的に設定することが望ましいといえます。そのためには、業務で必要なスキル・知識を洗い出して、従業員が実際に持っているスキル・知識レベルを一覧化したスキルマップ(Skills Matrix)を作成し、これに対応したOff-JTを実施することになります。
また、いわゆるジョブ型人事制度の導入に合わせて職務ごとに職務記述書(Job Description)を作成する企業が増えています。これをスキルマップに統合するか、あるいはスキルマップの代わりに活用してもよいでしょう。
Off-JTを自分の成長のため・組織パフォーマンスの向上のためと認識して、主体的・積極的に参加する意欲がなければ意味がありません。Off-JT軽視から重視の組織風土に転換を図るためには、従業員の意識改革が必要となります。もちろん、内発的動機づけにより意識と行動が変わることが望ましいのですが、初期の段階では何らかの仕掛けが必要かもしれません。代表的なものとしては、人事評価への反映とキャリア研修の実施が挙げられます。
人事評価については、管理職たる上司の評価基準に「部下の育成・キャリア開発を積極的に支援したか」を組み込むことになります。評価の信頼性・納得性を担保するために、評価を行うのは上司の上司ではなく、360度評価/多面評価等により部下が行うようにするとよいでしょう。
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