Netpress 第2388号 法令の遵守、紛争の予防 中小企業の株主総会議事録はこうつくれば大丈夫!

Point
1.株式を上場していない中小企業では、株主総会をないがしろにしているケースも少なくないようですが、適法に開催して議事録を作成しておかないと、後で大きなトラブルに発展する恐れがあります。
2.ここでは、株主総会議事録の内容(記載事項)や作成・保存等に関する実務について解説します。


日比谷T&Y法律事務所
弁護士 植松 勉

1.株主総会議事録の必要性

株主総会議事録は、議事の経過・結果を示す記録です。株主総会を開催した場合には、書面または電磁的記録をもって、株主総会議事録を必ず作成しなければなりません。いわゆる一人会社の株主総会においても、株主総会議事録の作成は必要です。


ただし、株主総会議事録の作成は、株主総会決議の有効要件とはされていません。したがって、株主総会議事録がないことによって、直ちに株主総会決議の有効性が否定されることはありません。ただ、そうは言っても、株主総会議事録は決議の成否を知るうえで重要な記録文書としての意味を持ちますから、やはり作成を怠るべきではないでしょう。


なお、株主総会議事録は、株主総会決議により登記内容に変更が生じる場合には、登記申請の添付書類としても利用されます。

2.株主総会議事録の記載事項

株主総会議事録の内容は、議事の経過およびその結果としての決議の成否が骨格となり、その他株主総会の議事運営に関連する事項が含まれます。


会社法施行規則で、株主総会議事録の記載事項が定められています。具体的には下表のとおりです。


【株主総会議事録の記載事項】

株主総会が開催された日時・場所

株主総会の議事の経過の要領・その結果

監査役等によって株主総会において述べられた意見・発言の内容の概要

出席者(取締役・執行役・会計参与・監査役・会計監査人)の氏名・名称

議長の氏名

議事録作成の職務を行った取締役の氏名


(1)株主総会が開催された日時・場所について

会社法施行規則では、「場所」について、かっこ書きで追加の規定を置いています。


すなわち、「当該場所に存しない取締役・執行役・会計参与・監査役・会計監査人・株主が株主総会に出席した場合」には、「当該出席の方法」も記載しなければならないと定めています。これは、出席者の一部がオンライン参加するバーチャル株主総会等を念頭に置いたものです。


たとえば、株主の一部がバーチャル出席した場合は、株主総会議事録の「場所」の欄に、「なお、当日出席の株主の一部は、当社所定のウェブサイトに所定のIDとパスワードを用いてログインし、会場の画像および音声の配信を受け、インターネットにより質問および議決権行使を行う方法により本総会に出席した」などと書き加えるとよいでしょう。


また、役員が遠隔地から出席した場合は、株主総会議事録の「出席役員の氏名」欄に、「なお、出席役員のうち〇〇〇〇取締役は、インターネットを通じたテレビ会議システムの方法により出席した」などと書き加えるとよいでしょう。


(2)議事の経過の要領・その結果について

株主総会議事録の骨子となる記載事項です。「議事の経過」とは、株主総会の開始から終了するまでの間の審議のプロセスのことで、次の3つが「議事の経過」にあたります。



株主総会の成立に関する事項……出席株主数、委任状・議決権行使書面・電子投票の数

決議事項についての審議のプロセス……議題について提案された議案の内容、提案者名(取締役会か、株主か)、提案についての趣旨説明・質疑応答を含む発言事項

報告事項についての報告のプロセス……報告内容、それに関する質疑応答を含む発言事項


ただし、これらの株主総会におけるプロセスをそのまますべて株主総会議事録に記載することが要求されているわけではなく、その「要領」を記載すれば足りるとされています。したがって、株主総会でなされた質疑応答についても、一問一答ごとに具体的に記載する必要はなく、その要領のみの記載またはまとめて記載することで足ります。


(3)監査役等による意見・発言について

ここでいう意見・発言とは、監査役が株式総会提出議案等を調査し、法令違反を認めたときの報告など、会社法上の規定に基づいて述べられた意見や発言を指しています。

3.その他の実務ポイント

(1)署名について

会社法では、株主総会議事録に株主総会議長および出席取締役の署名を求める規定はないことから、署名は不要と解されています(押印も不要)。


(2)決議や報告があったものとみなされた場合

株主総会の決議を要する提案について、議決権を行使できる株主全員が書面または電磁的記録により同意の意思表示をしたときは、株主総会を実際に開催しなくても、当該提案を可決する株主総会決議があったものとみなされます。株主総会の報告事項も、同様の要件のもとで、報告があったものとみなされます。


これらの場合も株主総会議事録の作成は求められますが、記載事項は下表のとおりです。


【決議や報告があったとみなされた場合の記載事項】

株主総会の決議があったものとみなされた場合

株主総会の決議があったものとみなされた事項の内容

当該事項の提案をした者の氏名・名称

株主総会の決議があったものとみなされた日

議事録作成の職務を行った取締役の氏名

報告があったものとみなされた場合

株主総会への報告があったものとみなされた事項の内容

株主総会への報告があったものとみなされた日

議事録作成の職務を行った取締役の氏名


(3)株主総会議事録の備置き

株主総会議事録は、原則として、株主総会の日から本店に10年間、支店に5年間備え置きます。備え置くとは、閲覧請求権者(株主・会社債権者)の閲覧・謄写請求に対応できるように所定の場所に置いておくことを意味します。


なお、株主総会議事録は、親会社社員(親会社の株主その他の社員のこと)も、裁判所の許可を得て閲覧・謄写ができます。


(4)作成時期・保存期間

株主総会議事録の作成時期について、会社法上、特に定めはありません。一般的には、株主総会終了後遅滞なく作成するべきであるとされています。より具体的には、株主総会の決議事項が登記事項であるときは、2週間以内に本店所在地において変更登記が必要になることから、これに間に合うように作成することが求められていると解されます。


株主総会議事録の保存期間についても、会社法上、特に定めはありません。会社が存続する限り、株主総会議事録も保存しておくことが無難であると思われます。



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