Netpress 第2386号 管理体制・契約書の見直しなど 不正競争防止法の改正で企業に求められる対応

Point
1.2023年6月に公布された「不正競争防止法等の一部を改正する法律」により不正競争防止法が改正され、順次施行されています(以下、改正前の法律を「旧法」、改正後の法律を「改正法」とします)。
2.ことし4月1日に施行された改正内容のうち、デジタル空間における模倣行為の防止、限定提供データの保護の強化、営業秘密の保護の強化について、企業(事業者)への影響と求められる対応を確認します。


リーガルブレスD法律事務所
代表弁護士
湯原 伸一


1.デジタル空間における模倣行為の防止

(1)デジタル空間での模倣行為の取締りの拡充

近時「メタバース」に代表されるデジタル空間が注目されています。そのなかで、現実世界(フィジカル)で流通している商品について、無許可で模倣して作成した3Dモデルをネットワーク上(デジタル)で提供した場合、法的に取り締まることができるのか、という疑義がありました。


そこで、この解釈上の疑義を解消するべく、他人の商品形態を模倣した商品を「電気通信回線を通じて提供する行為」を禁止する旨を明記することで、無体物の形態を含むことを明確にしたというのが今回の改正です。


これにより、今後進展すると予想されるメタバース等のデジタル・仮想空間における形態模倣行為に対し、権利者は不正競争防止法による対策を講じることが可能となりました。


(2)企業への影響と求められる対応

独創的な形態を用いた商品を現実世界で展開する企業にとっては、デジタル空間での無断使用を取り締まることが可能となり、一層のブランド保護を図ることができます。


一方、デジタル空間内で商品を提供しようとする企業は、注意を要することになります。なぜなら、現実世界およびデジタル空間内にすでに存在する商品形態の模倣とならないか、調査する必要性が生じるからです。


同様に、現実世界で商品を提供しようとする場合、従来は現実世界のみを調査対象とすれば足りましたが、今後はデジタル空間内にすでに存在する商品形態の模倣とならないか、調査範囲を拡大する必要があります。

2.限定提供データの保護の強化

(1)限定提供データの範囲の拡充

不正競争防止法で保護の対象とされる「限定提供データ」とは、企業間で複数者に提供や共有されることで、新たな事業の創出につながったり、サービス製品の付加価値を高めたりするなど、その利活用が期待されるデータをいいます。


旧法では、限定提供データは「業として特定の者に提供する情報として電磁的方法により相当量蓄積され、および管理されている技術上または営業上の情報(秘密として管理されているものを除く)」と定められていましたが、改正法では、最後の部分が「技術上または営業上の情報(営業秘密を除く)」という表現に変更されました。


たとえば、ある企業が相当量蓄積されたデータを、秘密保持契約を締結したうえで取引先に開示したところ、当該取引先が当該データを公開してしまった、という事例があったとします。この場合、旧法では次のような結論になります。



非公知性(一般的には知られておらず、または容易に知ることができないこと)を満たさない以上、営業秘密として保護されることはない

ある企業は秘密として管理していた以上、限定提供データには該当しない


限定提供データの場合、公知・非公知を問わず秘密として管理されていないデータが保護対象となるのに、「秘密として管理されていた」場合には保護対象とならないのは、いかにもバランスが悪いと言わざるを得ません。


この部分に関して、限定提供データの保護対象にすることで、埋め合わせを図ろうとしたのが改正の目的です。


(2)企業への影響と求められる対応

想定されている事例が、かなりレアケースだと思われます。現場の実務的な発想としては、自社で相当量蓄積されているデータを提供等するケースで、当該データの法的保護を図ろうとする場合、当該データが営業秘密に該当するのか、営業秘密に該当しないのであれば限定提供データに該当するのか、といったチェックが必要です。

3.営業秘密の保護の強化

(1)使用等の推定規定の拡充

たとえば、企業の保有していた営業秘密が産業スパイによって盗まれたところ、どうやら競業他社に渡ってしまったという事例があったとします。企業としては、競業他社に営業秘密を使用しないよう要求したいところですが、実際のところ、競業他社において営業秘密を使用しているか否かを証明することは極めて困難です。


旧法では、一定の条件を満たした場合に、競業他社が営業秘密を使用していると「推定」する規定を定め、企業の立証困難性を軽減する措置を講じていたものの、次のような場合には推定規定が適用されないと解釈されていました。



権利者との合意に基づき営業秘密の開示を受けた取引先が、図利加害目的(不正の利益を得る、またはその保有者に損害を加える目的)をもって営業秘密を使用した場合

元従業員が転職先に営業秘密を開示し、転職先が不正に開示された営業秘密であることを事後的に認識したにもかかわらず使用した場合


そこで、このような場合にも対処できるように、推定規定を拡充する改正が行われました。この改正のポイントは、次の4種類ある営業秘密侵害の行為類型のすべてに使用等の推定規定を及ぼす点にあります。



無権限者が不正取得後、使用した場合

正当に取得したが、後に不正使用した場合(今回の改正により拡充)

転得時に悪意・重過失で使用した場合

転得時は善意・無過失だが、後に不正使用した場合(今回の改正により拡充)


(2)企業への影響と求められる対応

せっかく権利行使が容易になる以上、権利者は営業秘密として保護が受けられるよう管理体制の見直しを図ることは当然のことです。それに加えて、たとえば秘密保持契約書の工夫(条項の見直し等)を行いたいところです。


なお、使用等の推定規定は、改正法でも「技術上の秘密」に限定されていること(「営業上の秘密」は対象外)、限定提供データについては、旧法・改正法とも使用等の推定規定が適用されないことに注意する必要があります。


また、「転得時は善意・無過失だが、後に不正使用した場合」にも推定規定が拡充されたことから、転職者の受入れの際には一層の注意を要します。転職者に退職後の競業避止義務の有無を確認する、転職元の営業秘密を自社に持ち込ませないよう入社時にその旨を誓約させる、といった対応が求められます。転職者の受入れ後に、転職元より警告書等が送付されてきた場合、何ら対応しない(無視する)ということが許されなくなることにも注意が必要です。



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