Netpress 第2384号 想定外のリスクを回避! 商取引のトラブルと契約書における対応策

Point
1.事業活動の円滑な継続のためには、契約に関するトラブルが発生しないように事前の対応が重要です。
2.ここでは、売買取引や業務委託取引を想定して、多くの企業が直面する契約書トラブルの具体例と契約書における対応策を紹介します。


弁護士・カリフォルニア州弁護士
大城 章顕


1.代金の支払期日の定め方に潜むリスクとトラブル

最初に取り上げるのは、代金の支払いについてのトラブルです。


取引相手から送られてきた契約書に以下のような条項があった場合、どのようなトラブルが想定されるでしょうか。また、どのように対応すればよいでしょうか。


 買主は、売主に対し、売主の発行する請求書に基づき、X条に規定された検査に合格した本商品の代金を買主が別途指定する期日までに支払う。


一見すると、買主は売主の請求書に基づいて代金を支払うことになっているので、問題はないように思われます。しかし、代金支払いの期日は「買主が別途指定する期日」とされ、買主が自由に期日を決められるようになっています。


これでは、たとえば買主が1年後を支払期日として指定した場合、支払期日は1年後になってしまい、売主の資金繰りに大きな支障が生じかねません。


ここまで自由ではないとしても、支払期日が四半期ごとや、なかには半年ごとと規定される例も見られます。このような長すぎる支払期日だと、売主側は、原材料の仕入先への支払期日が先に来てしまう可能性が高く、資金ショートに陥ってしまうかもしれません。


【トラブル回避の対応策】

→ 支払期日は明確かつ短期間にする


まずは契約書において支払期日を明確にし、かつ、支払期日までの期間をできるだけ短くすることを目指すべきです。力関係などから明確化や短期間にすることが難しい場合でも、上限を定めることを提案するなど、一定の縛りを設けることが、リスクを小さくするポイントです。


また、取引の内容や企業の規模などによっては、独占禁止法や下請法といった法律によって保護されることがあります。あきらめずに検討すると、打開策が見つかるかもしれません。


→ 相手方が条件を指定できる規定に注意する


代金支払いの期日に限らず、契約書において一方当事者が条件を指定できることになっている場合は、相手の言いなりになってしまうおそれがあります。こうした規定がある契約書には、特に注意が必要です。

2.委託業務の内容の定め方に潜むリスクとトラブル

次に取り上げるのは、委託業務の内容に関するトラブルです。


定型的なサービスを提供する場合、サービスの内容はすでに定められており、それを前提としてサービスを受けることになるので、トラブルになる例は多くありません。


これに対し、定型的ではなく個別性の強い業務委託の場合は、意図していたものと業務内容が異なるとして委託者からクレームが付いたり、受託者にとって想定外の業務まで委託者から求められたりして、トラブルになることが少なくありません。


このようなトラブルは、委託業務の内容が細かく定められていないことや、書面等の記録に残っていないことが原因で生じます(売買取引の場合にも、オーダーメイドの際の仕様が異なるという形で同様のトラブルになることがあります)。


たとえば、製品の開発業務を委託するための業務委託契約書において、委託業務の内容が以下のように定められることがあります。




委託者は、受託者に対し、以下に定める業務を委託し、受託者はこれを受託する。

本件製品に関する開発業務

その他委託者と受託者が別途合意する業務


ここでは、委託業務の内容について製品の「開発業務」と規定されています。これだけでは、受託者が具体的に何を開発するのか、何を行えば業務を遂行したといえるのか、どのような方法で業務を遂行するのか等がはっきりしません。


柔軟性を持たせるために、あえて曖昧にしておくこともありますが、単に「開発業務」とすると、委託者が期待している成果物が出てこなかったり、反対に受託者が想定していなかった業務を要求されたりするといったことが起こります。その結果、報酬の不払いや損害賠償請求といった形でトラブルに発展してしまうことがあります。


【トラブル回避の対応策】

→ 業務内容・成果物を具体的に定める


このような事態に陥ることを避けるには、契約書において業務の内容を明確にしておくことが重要です。


たとえば、単に「開発業務」とするのではなく、具体的な成果物(そのスペックの明記も重要)を完成させることまで規定したり、反対に、単に開発のためのアドバイスや助言にとどまるのであれば、その旨を明記したりしておくべきでしょう。


ただ、このようにして業務内容を記載すると、内容が詳細で大部になることがあります。その場合、契約書本体に書き込もうとすると、かえってわかりにくくなることもあるので、契約書の別紙として添付したり、別の書面として作成し、当事者双方が押印したりするなどして確認しておく方法がよいかもしれません。


このような方法であっても当事者の合意として有効なので、わかりやすく、見やすい方法を検討するとよいでしょう。


→ システム開発の委託・受託は特に注意する


委託業務の内容が曖昧であるためにトラブルとなる事例は、システム開発契約で多く見られます。完成したシステムが期待していたパフォーマンスを上げられないという場合もあれば、受託者(システム開発会社)からすれば過大な要求を追加報酬なしで求められるという場合もあります。


したがって、システム開発を委託・受託する場合には、その開発内容について詳細に定めておくことが重要です。



個別の取引や自社・相手方の状況に応じて、契約書において検討すべきポイントは異なってきます。どの場合でも、「契約の本質は何か」といった観点から法的リスクの大きさを検討し、限られた時間・費用等のなかで、可能な限りトラブルを防止するための契約書作成を目指すことが重要です。


そうすることで、想定を超えるリスクの実現を回避することができ、事業の発展に資することになるでしょう。



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