Netpress 第2382号 意識すべき観点は? 業績に連動した役員報酬の適正額の定め方・見直し方
1.役員報酬の金額は、業績見込みを考慮して定めるのが一般的です。不適正な役員報酬を設定すると、融資審査の難航・資金不足などのリスクがあります。
2.株式会社を前提に、役員報酬の支給額の定め方・見直し方について留意すべき事項を解説します。
ゆら総合法律事務所
代表弁護士
阿部 由羅
1.役員報酬の分類
役員報酬を理解するためには、その分類について意識することが役立ちます。役員報酬の分類方法はさまざまですが、一例として次の分類が挙げられます。
(1)支給される物による分類
役員報酬として支給されるものは、金銭とそれ以外に大別されます。前者は「金銭報酬」、後者は「非金銭報酬」と呼ばれています。非金銭報酬の典型例は、株式報酬やストックオプション(新株予約権)などです。
(2)支給条件による分類
定期的に支給される「定期報酬(基本報酬)」と、業績に連動する「インセンティブ報酬」に分類する方法もあります。
定期報酬は、原則として、定期的に(多くの場合は毎月)金銭で支給されます。これに対してインセンティブ報酬は、会社の業績に応じて支給の有無と額が決まります。
(3)税務上の分類
法人税等の課税について、会社の損金として計上できる役員報酬は、「定期同額給与」もしくは「事前確定届出給与」または一定の要件を満たす「業績連動給与」に限られています。
これらのいずれにも該当しない役員報酬は、会社の損金に計上することができません。
2.中小企業の役員報酬決定の基本的な考え方
中小企業において役員報酬の金額等を決める際には、主に次の観点を意識しましょう。
(1)融資審査
運転資金の借入れを予定している場合には、融資審査に悪影響を与えないように役員報酬の金額等を定めるべきです。業績に応じた合理的な役員報酬が設定されていれば問題ありませんが、不相当に高額の役員報酬を設定すると、融資審査上マイナスに評価されるおそれがあります。
予定する借入れの返済スケジュールに基づき、返済に充てる会社のキャッシュを十分に残せる範囲内で役員報酬を設定しましょう。
(2)事業再投資
役員報酬を払い出すと、その分会社のキャッシュは減るため、事業再投資に回せる余力も減ってしまいます。
中小企業に多いオーナー経営者としては、役員報酬によって短期的な収入を得ることだけでなく、事業再投資によって会社を成長させ、将来的に大きなリターンを得られる可能性とのバランスを考慮すべきでしょう。
とくに、大きな成長のチャンスが見込める再投資先候補がある場合には、役員報酬を抑えてキャッシュを留保しておくことも有力な選択肢となります。
(3)キャッシュフロー
会社が負担する債務(借入金・買掛金など)の支払いが滞ると、倒産状態に追い込まれてしまいます。少なくとも、期日どおりに債務を支払えるだけのキャッシュが、常に会社に留保されている状態としなければなりません。
業績の下振れや突発的な債務負担などに備える観点からは、固定費の6か月分程度以上のキャッシュを常に確保することが望ましいでしょう。
(4)社長個人の資産形成
オーナー経営者が100%の株式を有する会社では、「会社と個人のどちらに資産を振り分けるか」ということが、役員報酬の設定に関する本質的なテーマです。税金対策の観点にとどまらず、オーナー経営者がどの程度のペースで資産形成を進めたいと考えているかを、役員報酬の金額へ適切に反映すべきでしょう。
(5)税金対策
オーナー経営者が100%の株式を有する会社では、役員報酬を税金対策として活用するケースがあります。
個人に課される所得税・住民税と会社に課される法人税等の間の税率差に注目して、トータルの税負担を抑えられる所得配分のバランスを探ろうとするものです。この際、社会保険料の負担も併せて考慮するのが合理的でしょう。
なお、オーナー経営者が役員を退任する際、会社から退職金を受け取る場合は、退職所得として課税されます。また、会社を清算して残余財産の分配を受ける場合にも、当初の出資額との差額について課税が行われます。
このように、役員報酬に対する課税とは別に、「出口」でも課税される点に注意が必要です。
(6)外部株主に対する説明責任
親族以外の株主(以下、「外部株主」)が存在する場合には、外部株主に対する説明責任の観点が加わります。
外部株主にとって、役員報酬の支払いは必要経費の増大やキャッシュの流出を意味します。したがって、合理的な範囲を超える役員報酬を設定すると、外部株主の反発を招く可能性が高くなります。
役員が会社の業績に対してどのように貢献したのか、前事業年度と比較してどのように変化したか等、外部株主が納得できる理由を提示しなければなりません。
3.役員報酬の決定・改定の手続
株式会社における役員報酬の決定(改定)は、株主総会における決議によって行います。定時株主総会および臨時株主総会のどちらでも構いません。
株主総会の開催に先立ち、株主に対しては招集通知を発送するのが原則です。公開会社では開催日の2週間前まで、非公開会社では開催日の1週間前までに、所定の事項を記載した招集通知を発送します。さらに、書面または電磁的方法による議決権行使を認める場合は、株主総会参考書類を株主に対して交付する必要があります。
ただし、中小企業ではオーナー経営者やその親族などが株式の100%を保有しているケースも多いところです。その場合は、実際に株主総会を開催することなく、目的事項の提案につき株主全員の同意の意思表示を書面または電磁的記録で取得して本店に備え置く方法に代えることができます(書面決議)。
株主総会の議事については、所定の事項を記載した株主総会議事録を作成し、原本を本店に10年間、写しを支店に5年間備え置かなければなりません。
なお、株式会社の取締役の報酬は、株主総会において総額のみを決議し、その配分は取締役会や代表取締役などの決定に委ねることが認められています。この場合は、取締役報酬の配分に関する議事録や決定書を作成し、本店に保存しておきましょう。
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