Netpress 第2093号 ニューノーマル時代のIT業界 多様な働き方のなかでの労務管理の課題とは?

Point
1.社員の柔軟な発想を重要視して、「自由な働き方」を採用する中小のIT企業は多いですが、すべてを社員任せにしてよい、というわけではありません。
2.働き方が多様化するなか、IT企業が押さえておきたい労務管理のポイントについて解説します。


社会保険労務士 依田 久美子


IT企業の場合、「自主性を重視するので、社員を縛るような制度はあまり導入したくない」として、リモートワークやフレックスタイム制度を導入・検討していることが多くあります。一方で、「いつ仕事をしているかわからない」「進捗が把握できない」「コミュニケーションが取りにくい」など、働き方を自由にしているからこその悩みも増えているように感じます。


筆者は、企業のシステム構築に携わり、IT業界の現場と間近に接していますが、そのなかで見えてきた企業が押さえておきたい労務管理のポイントについて解説します。

1.企業、社員にマッチした「自由な働き方」の選択

(1)3つの自由:縛られない働き方

IT企業か否かにかかわらず、多様性や柔軟性が求められる今、社員に合った働き方を選択できる制度を考えている企業が増えています。「自由な働き方」といっても、その意味するところは広いので、具体的に「○○に縛られない働き方」という観点で分類すると、以下のようなパターンがあります。




(2)社員が「本当に求めているか」を考える

企業によっては、上記①〜③のすべての働き方を導入したいという場合もありますが、その際は「本当にすべて必要か?」と考えることが大切です。人材が不足している中小のIT企業では、働き方の選択肢が多いほうが社員の採用につながると考えるのは当然のことですが、選択肢が多いほど企業が対応すべきことが増え、労務リスクも増えます。


筆者が現在接しているIT企業の社員の方々に、「上記の①〜③のうち、一番働きやすいのはどれですか?」と質問したところ、「①場所に縛られない」が断トツで、「②時間に縛られない」は意外にも少数でした。


「リモートワークで通勤がなくなってストレスフリーだが、働く時間は決まっていたほうが打ち合わせなども調整しやすく、効率がよい」という声も多く、社員が求める働きやすさは、選択肢の多さに比例しないことがあります。


また、育児や介護などで、ある一定の期間、労働時間を短くしたい社員の場合は、「③フルタイムに縛られない」働き方に切り替えることで、仕事とプライベートの境が明確になり、社員の生産性が上がる現場もあります。


いずれにしても、働き方を絞り込むことで、企業が対応すべき労務管理が限定され、明確になります。

2.労働時間の管理

リモートワーク、フレックスタイム制度など、導入している制度に関係なく、社員の労働時間の把握が曖昧で、「突然、社員から未払残業代の支払請求が来て、蓋を開けたら…」というケースが多くあります。


まず、労働時間の適正な把握について行政の基準を確認してみましょう。以下は、厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」からの抜粋です。




ほかにも自己申告制により行わざるを得ない場合などの記載もありますが、重要なのは「始業時刻」「終業時刻」が記録・確認できていることです。


客観的な記録として、クラウドなどの勤怠システムで打刻する企業も増えてきたなかで、社員の始業・終業時刻を確認する一例として、チャットなどで上司に報告することを提案することがあります。以下のような簡単な文面で、始業時・終業時のみ報告すればOKです。


始業時:仕事始めます。○○を行う予定です。
終業時:仕事終了します。予定通り○○まで完成しました。


「こんな程度で?」と思われるかもしれませんが、ログは取れるので、後からシステムに打刻された時間と突き合わせて確認することは十分に可能です。簡単なほうが続きますし、定期的に部下から報告があることで、上司が安心するというメリットもあります。また、仕事のやり取りをチャットやSlackで行うことが多いIT企業では、慣れているツールで運用するほうが社員の負担は少ないでしょう。

3.社員のメンタルヘルス対策

IT業界は、客先常駐などの特殊な仕事環境、対面での職場内コミュニケーションの希薄さ、タイトな納期スケジュール、技術者としての責任感など、さまざまな要因が絡み合うことから、メンタル関連の問題が多い状態にあります。


メンタルケアの1つとして、コミュニケーションを増やすことが効果的ですが、なかなか社員自ら積極的にコミュニケーションを取ってはくれません。上司が「何かあったら、すぐに話してほしい」と言うことがありますが、部下からすれば普段会話をしない上司に何でも話せるわけがありません。


そこで、「1on1」をコミュニケーション対策、メンタルヘルス対策として導入する方法があります。“仕事かプライベートか”にかかわらず、「1on1」を部下が自由に話す場とし、1週間に1回15分など定期的に設け、気軽に上司と話せる雰囲気を作ることが、自然とメンタルヘルス対策にもつながっていきます。


上司・同僚と気軽に話せる職場は何よりも働きやすいというのは、筆者自身も長年IT企業のSEとして働き、心の底から思うことです。多様な社員を多く抱えるIT企業だからこそ、企業に適した働き方、どうしても曖昧になりやすい労働時間の管理などを確認し、より柔軟な発想が生まれる風通しのよい環境を創り上げていきましょう。


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