Netpress 第2380号 サステナブル経営/後編 国際的な注目を集める「気候変動開示」について
後編のテーマは、「気候変動開示」です。気候変動関連リスクと機会を開示するための枠組みとして、国際的な注目を集めているTCFDについて解説します。
慶應義塾大学SFC研究所
上席所員 笹埜 健斗
TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)は、企業が気候変動に関連するリスクと機会を開示するための枠組みを提供する国際的な組織です。2015年に金融安定理事会によって設立され、主要国の中央銀行、金融監督当局、財務省、世界銀行などが参加しています。
1.TCFDの4つの要素
(1)ガバナンス(Governance)
企業の取締役会が気候関連のリスクと機会をどのように監督しているか、経営者の役割と責任の情報を提供します。
(2)戦略(Strategy)
気候関連のリスクと機会が企業のビジネスや戦略、財務計画に与える影響を示します。短期、中期、長期のリスクと機会の特定、ビジネスや戦略への影響、そして2℃以下のシナリオを含む異なる気候シナリオの影響を含みます。
(3)リスク管理(Risk Management)
企業が気候関連のリスクをどのように識別、評価、管理しているかを示します。リスクを識別し評価するプロセス、リスク管理の方法、そして全体的なリスク管理プロセスへの統合が含まれます。
(4)指標と目標(Metrics and Targets)
企業が気候関連のリスクと機会を評価し、管理するために使用する指標と目標を示します。
具体的には、Scope1、Scope2、場合によってはScope3の温室効果ガス排出量、そしてリスクと機会を管理するための目標が含まれます。
2.TCFDの3つのスコープ
TCFDの3つのスコープを理解し、管理することは、企業が温室効果ガス排出量を効果的に削減し、持続可能な運営を推進するために不可欠です。
スコープ | 定義 | 具体例 | 対象 | |
Scope1 直接排出 | 企業が直接管理する施設や設備から排出される温室効果ガス | ・ | 自社の工場で燃料を燃焼させることによる排出 | 企業が所有または管理するすべての資産からの排出 |
・ | 社用車の燃料消費による排出 | |||
Scope2 間接排出 | 企業が消費する購入エネルギー(電力、蒸気、冷暖房)に関連する間接排出 | ・ | 外部の電力会社から購入する電力の使用に伴う排出 | 企業のエネルギー消費による排出だが、実際の排出はエネルギー供給者が行う |
・ | 外部から供給される蒸気や冷暖房の使用による排出 | |||
Scope3 その他の間接排出 | 企業のサプライチェーン全体で発生するその他の間接排出(Scope1・Scope2以外のすべての排出を含む) | ・ | 製品の輸送に伴う排出 | 企業の活動全体に関連するすべての間接排出。サプライチェーン全体に及ぶため、計測と管理が最も難しい |
・ | 従業員の通勤に伴う排出 | |||
・ | 廃棄物の処理に伴う排出 | |||
・ | 購入した商品の生産過程における排出 |
3.TCFDの2つのリスク
TCFDは、気候変動関連のリスクを「移行リスク」と「物理的リスク」に分類しています。
(1)移行リスク
低炭素経済への移行に伴うリスクです。これには政策、規制、技術、市場の変化によるリスクが含まれます。たとえば、カーボンプライシングの導入や気候変動対策の怠りによる訴訟リスクがあります。
(2)物理的リスク
気候変動による自然災害や長期的な気温上昇、頻繁な熱波などによるリスクです。
4.TCFDの役割と重要性
TCFDが提唱する4つの要素は、企業が気候変動関連リスクに対応するために重要な役割を果たします。具体的には、ガバナンスでは取締役会と経営陣の責任が求められ、戦略ではリスクと機会がビジネスや財務計画に与える影響を評価します。リスク管理では、リスクの特定、評価、管理プロセスの統合が求められ、指標と目標では、リスクと機会を評価するための具体的な指標や目標を設定します。
企業がこれらの要素に沿って情報を開示することで、投資家やステークホルダーに透明性を提供し、気候変動への対応力を示すことができます。TCFDは気候変動に特化した枠組みであり、社会的課題全般を対象とするものではないため、社会的側面の開示には他の基準も組み合わせる必要があります。たとえば、BlackRockの報告書では、SASBスタンダードなど他の基準との組み合わせの必要性が示唆されています。
以上のように、TCFDは企業が気候変動に関連するリスクと機会を理解し、管理するための重要な枠組みを提供しています。CSuOは、これらの要素に沿って情報を開示することで、投資家や他のステークホルダーに対して透明性を提供し、持続可能な経営を推進することができます。
「Netpress」はPDF形式でもダウンロードできます
SMBCコンサルティング経営相談グループでは、税金や法律など経営に関するタイムリーで身近なトピックスを「Netpress」として毎週発信しています。過去の記事も含めて、A4サイズ1枚から2枚程度にまとめたPDF形式でもダウンロード可能です。
プロフィール
SMBCコンサルティング株式会社 ソリューション開発部 経営相談グループ
SMBC経営懇話会の会員企業様向けに、「無料経営相談」をご提供しています。
法務・税務・経営などの様々な問題に、弁護士・公認会計士・税理士・社会保険労務士・コンサルタントや当社相談員がアドバイス。来社相談、電話相談のほか、オンラインによる相談にも対応致します。会員企業の社員の方であれば“どなたでも、何回でも”無料でご利用頂けます。
https://infolounge.smbcc-businessclub.jp/soudan